プロサウンド的

“設備”検分録

意外とスゴイ奥深き世界

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テキスト:三村美照(M&Hラボラトリー)

愛知県芸術劇場 様

豊田スタジアム【前編】

FIRフィルターによる音響調整

今回の「プロサウンド的“設備”検分録」は、本年3月に音響設備改修工事が行なわれた愛知県豊田市にあるJリーグ「名古屋グランパス」の本拠地である「豊田スタジアム」をお送りします。

本年度日本で開催される「ラグビーワールドカップ2019」の会場としても4試合が予定されている同スタジアムは、大歓声にも充分に対応できる音量と明瞭性の確保を目標として改修設計が行なわれました。

この規模のスタジアムで観客席上部に屋根があると、フィールド上は開放されていても意外と残響時間が長くなります。このような場合、歓声は反響して雰囲気は盛り上がるのですが、音響設備の明瞭性を確保することが大変難しくなります。

そこで今回はこの環境を少しでも改善すべく、補助スピーカーの増設とFIRフィルターを活用した音響調整による明瞭性の改善が試みられました。

本記事では、前編で改修設備の概要を、後編で測定結果や「HYfAX AMQ3」の使い勝手やFIRの技術的な解説等をお送りする予定です。なお、今回の取材では施工元請である「株式会社関電工名古屋支店」様と施工業者である「ヤマハサウンドシステム株式会社(以後、YSS)」様のご協力を頂きました。では詳細を見ていきましょう。

豊田スタジアム諸元

豊田スタジアム諸元

豊田スタジアム

「豊田スタジアム」は、市制50周年を記念して愛知県豊田市に建設されました。竣工は2001年6月。現在はJリーグの「名古屋グランパス」の本拠地のひとつとなっています。収容人数は44,400人。サッカー専用スタジアムとしては63,700人の座席数を持つ「埼玉スタジアム2002」に続く日本国内2番目の規模を誇ります。

建物は故黒川紀章氏の設計によるもので、高さ96mの4本の大きなマストからメインスタンドとバックスタンドの大屋根をワイヤーで吊り下げる独特の構造を持ち、本スタジアムへのメインアクセスルートである豊田大橋も同時にデザインされたことで、駅からの移動中に目に飛び込む全体のイメージが強烈な印象を残します。

また、メインとバックスタンドの約4,000席の座面にはヒーターが内蔵されており、これも「豊田スタジアム」の特徴のひとつになっています。

スポーツ施設の分類

競技場には様々な種類がありますが、その特徴を的確に把握することが設備設計の方針決定には重要です。ではどのような種類があるのでしょうか。今回は大きく2つに分類してみました。

● 参加型競技施設
● 観戦型競技施設

前者は、いわゆる市町村にある体育館等で、ママさんバレーや各種競技の地方予選など、市民の皆さんが直接「参加」することを主目的とした競技施設のことです。一方後者は、プロチームの「試合観戦」を主目的とした競技施設です。  

これらの違いを音響設備的に見ると、前者は専任の管理者がいない場合が多く、利用者自らが音響設備を使うことから、誰でも簡単に操作できることが必須条件となります。一方後者では、専任管理者や外注オペレーターが操作を行ない、有料での観戦が殆どです。そのために施設側も様々な工夫をしており、試合自体を音響・映像・照明を駆使してエンターテインメント化するだけでなく、Wi-Fiサービスやデジタルサイネージ、飲食等にも「楽しめる」要素を数多く取り入れています。「豊田スタジアム」はまさにこの後者にあたる施設になりますので、当然ながらその音響設備にも相応の能力が求められます。

スピーカーレイアウトの種類

では、それらにはどのような音響システムが適しているのか、アウトプット部分から考えてみましょう。  

一般的に競技場におけるスピーカーレイアウトには、大きく分けて3種類があります。それぞれの長所と短所を表1にまとめてみました。

この表のように各方式には一長一短がありますが、通常はこれらの中からひとつを選択してシステムの構築が行なわれます。また、複数を選択して切り替える場合もあります。

一方で、再生するソースによって最も適した再生方法が存在します。例えば映像音の再生にはリップシンクのためにディレイの少ない分散方式がベストです。また効果音やMCパフォーマーの「絶叫!」には広帯域再生や高SPL再生のできる集中分散方式が有利です。しかし、この中からどれかひとつを選択するとなると悩ましいですし、その都度システムを切り換えるのも煩わしいですよね。では、システムの切り換え操作なしにこれらを同時に存在させることはできないのでしょうか? もしこれが可能になればソース毎に最も適した拡声方式での運用が実現します。

表1 各スピーカーレイアウト方式の特徴

表1 各スピーカーレイアウト方式の特徴

分散方式と集中分散方式を切り換え無しで!

 集中分散方式と分散方式。一見これら2つを同時に実現することは、ディレイの設定を考えると不可能にも思えます。何故なら、分散方式にはディレイは基本的に必要ありませんが、集中分散方式はメインスピーカーに合わせるために各ローカルスピーカーにディレイを入れる必要があります。

では、どのようにしてこの2つのシステムを同時に実現するのでしょうか? その答えのひとつが図1です。つまり出力プロセッサー内部に2つのシステムを用意し、各スピーカーへ送り出す手前でこれらをミックスするのです。一方ミキサーでは、チャンネル毎にその音をどの方式に送るかを選択します。近年の出力プロセッサーは処理能力が格段に上がりましたので、こういった複雑な組み方が可能になりました。

今回のこの部分を賄う出力プロセッサーは、「YSS LDM1」と「AMQ3」です。共にLinuxベースのCPUマシンですが、非常に高い処理能力を持っています。これについての詳細は次号でお伝えする予定ですが、非常に短いレイテンシーでFIRフィルターを実現した「AMQ3」は特に面白いと思いますよ!乞うご期待!

図1 分散方式と集中分散方式を同時に実現する方法

図1 分散方式と集中分散方式を同時に実現する方法

伝送システム

今回のシステムは分散システムだけでも成立するようにローカルスピーカーが数多く設置されています。この時、音質を考慮するとスピーカーへはローインピーダンスで送りたいのですが、パワーアンプを一か所に集めるとスピーカーへの距離が数百メートルに及ぶ配線が出てきます。そんな距離をローインピーダンスで送るとスピーカーケーブル自体の抵抗を無視できなくなりパワー損失が非常に大きくなります。実際に8Ωのスピーカーに100mの4S11(2.18mm ² 、14AWG、0.9Ω/100m)を接続した場合、直流抵抗のみで計算してもその損失は20%近くになります。これは、パワーアンプから100W出力しても、その内の20Wはケーブルで消費されていることになりますよね!

そこでスピーカーケーブル長を短くする最も簡単な方法がスピーカーの近くにパワーアンプを設置することです。今回は観客席内の4か所に分散してアンプ室が設けられました。でも次に問題となるのが、調整室から各パワーアンプまでオーディオ信号をどのように分配するかです。通常、この部分は非常に長距離の伝送となりますが、近年ではデジタル伝送という大変便利なものが簡単に使用できます。今回はその中でもネットワーク・オーディオのDanteが採用されました。

ネットワーク・オーディオのメリット

さて、最近ではライブや固定設備に関わらず音声伝送にDanteを使用するケースが増えてきましたが、同じデジタル伝送のMADIやAES/EBUと比較して、このDanteを初めとするネットワーク・オーディオのメリットとは何でしょう?

幾つかありますが、一番のメリットは自由に信号の接続先を変更できる点ではないでしょうか。MADIやAES/EBUの場合は基本的にポイント・トゥ・ポイントですので、接続後に相手を変更する時は配線の組み替えが必要になります。そしてこれらはアナログ信号と同じく一方通行です。しかしネットワーク・オーディオの場合はいつでも自由に変更が可能で、しかも双方向です。

図2を見て下さい。この図で、もしAからCに信号を送る場合、アナログ信号やMADIの場合は図のようにその間にケーブルが必要となります。双方向にしようと思えば2本。しかしネットワーク・オーディオの場合は、直接繋がらなくても何処か経由で繋がってさえいれば信号を届けることができます。しかもケーブル1本で双方向の伝送が可能です。図は左と右が同じ伝送能力であることを示していますが、このように物理的な接続状態に依存せず高い自由度で伝送できることがネットワーク・オーディオのメリットですね。

図2 ネットワーク・オーディオの特徴

図2 ネットワーク・オーディオの特徴

ネットワーク・トポロジー

今回のネットワークは、Danteプライマリー用、同セカンダリー用、制御監理信号用の3系統が用意されています。そしてこれらはすべてリングトポロジーになっており、ネットワーク自体が冗長性を持っています(図3)。Danteは、それ自体ではリングトポロジーを作れませんが、リングトポロジーのネットワークにDante信号を通すことは可能で、これによりDante自体の冗長性(プライマリーとセカンダリー)にネットワークの冗長性が加わり、システム全体に渡り非常に高い冗長性を持たせることができます。一方、制御監理用ネットワークには表2のような多種の信号が通っていますが、VLANを設定することでデータ相互の干渉をなくし確実な伝送を行なっています。  

また、各サテライト間は光ファイバーで接続されていますが、メインスタンドとバックスタンド間は長距離になることからシングルモードを使い、それ以外はマルチモードが使われています。

図3 「豊田スタジアム」のネットワーク・トポロジー

図3 「豊田スタジアム」のネットワーク・トポロジー

図3 「豊田スタジアム」のネットワーク・トポロジー

 

スピーカーシステム

今回使用されているスピーカーは「NEXO」社の「GEO S12-ST」シリーズを中心に構成されています。この型番の末尾にある「ST」とはスタジアムバージョンを意味します。これは従来の「GEO S12」と比較して最大SPLが3dBアップしています。3dBということは2倍、即ち2台分の出力が得られるということですよね! どのようにこれを実現したのかと伺ったところ、以前「GEO T」という製品がありました。タンジェントアレイという新しい言葉が登場したので覚えておられる方も多いと思いますが、非常に高能率でハイパワーのモデルでした。「ST」モデルは、これのHFダイヤフラムを「S12」に組み込んだということで、能率と耐入力がアップして最大出力が3dB上がったそうです。なお、1998年サッカー・ワールドカップが行なわれたパリの「スタッド・ドゥ・フランス(Stade de France)」は81,000人収容可能なフランス最大の多目的競技場ですが、2011年に改修工事が行なわれ、この「GEO S12-ST」シリーズが約300台!設置されたそうです。「豊田スタジアム」の2倍以上です!(『GEO S12-ST』の仕様は表3をご覧下さい)

また、補助用には同社の「PS」シリーズが使用されました。この機種はご存知のように指向性が上下非対称で、手前が100°、遠くが50°になっています。今回バルコニー鼻先(後述)に取り付けられたものは低い位置なのですが、すぐ手前から15m遠方までをカバーするためにこの特性が有効に活用されています。

表3 「NEXO GEO S12-ST」仕様

表3 「NEXO GEO S12-ST」仕様

スピーカーレイアウト

「豊田スタジアム」のスピーカーレイアウトは図4~6をご覧下さい。

フィールド用は「NEXO GEO-S1210ST」×11台のアレイとなっています(写真1〜2)。観客席用はメインスタンドとバックスタンドとも同じシステムで、大屋根の先端付近5か所に「S1210-ST」×5~6本のアレイがメインとして設置され、観客席最前列補助用に「S1210-ST」×3が5か所、観客席後方補助用に「S1210-ST」×3が2か所、「PS15-R2」が4か所、「PS10-R2」が6か所設置されています(写真3〜6)。更に、1階席補助用として、全周360度に渡りバルコニー部分の鼻先に「PS10-R2」が合計48台取り付けられています(写真7)。

南と北のサイドスタンド席は共に同じで、メインとバックの両スタンドの端から「S1210-ST」×4+「1230-ST」×1のアレイ2基でカバーされていますが、補助として先程のバルコニー鼻先の「PS10-R2」に加えて最後列の上段から下向きに「PS15-R2」が6台と大型映像装置の直ぐ手前に「PS10-R2」が3台設置されています(写真8〜9)。

他にも、これらのスピーカーではカバーしきれないバルコニー下のエリアには「JBL PROFESSIONAL」のシーリングスピーカー「Control47C/T」が合計104台と各コーナー部分に「PS10-R2」が4台設置されています。

 

図4 スピーカーレイアウト(大屋根)

図4 スピーカーレイアウト(大屋根)

図5 スピーカーレイアウト(一階席用

図5 スピーカーレイアウト(一階席用)

図6 スピーカーレイアウト(アンダーバルコニー)「JBLPROFESSIONAL Control 47」が104台

図6 スピーカーレイアウト(アンダーバルコニー)
「JBLPROFESSIONAL Control 47」が104台

写真1フィールドスピーカーは「NEXO GEO S1210-ST」×11台のアレイが1基

写真1 フィールドスピーカーは「NEXO GEO S1210-ST」×11台のアレイが1基

写真2スピーカー取付け金具。大屋根に付くスピーカーは、メイントラスを利用して固定するために、固定金具はどの方向にも角度を変更できるよう非常に複雑な構造となっている

写真2 スピーカー取付け金具。
大屋根に付くスピーカーは、メイントラスを利用して固定するために、固定金具はどの方向にも角度を変更できるよう非常に複雑な構造となっている

写真3観客席用のメインアレイ(S1210-ST×6)

写真3 観客席用のメインアレイ(S1210-ST×6)

写真4 観客席用のメインアレイと、真下を狙う観客席最前列付近の補助用アレイ

写真4 観客席用のメインアレイと、真下を狙う観客席最前列付近の補助用アレイ

写真5 観客席奥を狙うアレイ(S1230-ST×3)

写真5 観客席奥を狙うアレイ(S1230-ST×3)

写真6 観客席補助スピーカーの「PS15-R2」

写真6 観客席補助スピーカーの「PS15-R2」

写真7 一階席バルコニー鼻先に取り付けられた「PS10-R2」。全周に渡り48台が取り付けられている

写真7 一階席バルコニー鼻先に取り付けられた「PS10-R2」。
全周に渡り48台が取り付けられている

写真8 サイドスタンド最上部に取り付けられた「PS15-R2」。上部に防水板が取り付けられている

写真8 サイドスタンド最上部に取り付けられた「PS15-R2」。上部に防水板が取り付けられている

写真9 大型映像装置前に設置された「PS10-R2」。約200席だけを補助している

写真9 大型映像装置前に設置された「PS10-R2」。
約200席だけを補助している

 

パワーアンプ

パワーアンプは、スピーカーが「NEXO」であることから同社の推薦モデル「NXAMP」の「4x2MK2」と「4x1MK2」が使用され、すべて200Vで駆動されています。

「NXAMP」は「MK2」となって出力段がEEEngineと呼ばれた高効率Class-AB動作からClass-D動作となり電源利用効率が更に向上したほか、内蔵DSPが24bit浮動小数点から64bitに、ADCが24bit(48kHz)から32bit(96kHz)に変更され、重量も大幅に軽量化されました。特にDSPの強化は著しく、同社で「パワーアンプ付きDSP」と呼ぶのも納得の仕様となっています。  

主な仕様は表4を見て頂き、このパワーアンプの特徴であるDSPによる「NEXO」スピーカーの駆動と保護について少し詳しく見ていきたいと思います。  

まず、駆動の中で面白いのが、アレイEQです。ご存知のようにラインアレイは、モジュールが1台よりもアレイを組んだ方がカップリング効率の高い低域でエネルギーが上昇します。アレイEQは、その上昇を押さえる役目を持つEQで一般的にはLowのShelving-EQが用いられます。

一方「NXAMP」では少し複雑な補正を行なっています。その様子を図7に示しますが、1.5kHz以下の部分を見て下さい。カーブの一番上側が「S1230」のプリセットEQ特性でアレイEQとしてはフラットな状態です。そこから−0.5dB毎に測定しているのですが、500Hz付近に注目すると下げ切った時のカーブが一番上と異なります。つまり通常のEQのようにリニアには変化していないということです!そして実際に操作してみると「なるほど!」いう効き方をします。この部分、音に対する拘りが現れていますね。

更にスピーカー保護に関してはもっと複雑な制御を行なっています。図8は保護回路部分だけを抜き出したのですが、できる限り簡略化してもこのようになってしまいました。

簡単に説明すると、最初にメーカープリセットのEQとダイナミックス、続いてユーザー用EQ段があります。そしてその次からが保護セクションになるのですが、VCEQ(Voltage Controlled EQ)と呼ばれるダイナミックEQが9段!も直列に接続されています。これらは独立した検出回路を持ち、個別のスレッショルドとアタック・リリースタイムが設定された保護動作が行なわれます。どのような内容の制御が行なわれているかというと、変位(早い変位と遅い変位)、機械的なストレス(※1)、HFの変位や加速度、LF・HFのボイスコイル温度、出力段の電流・電圧・積分電流(平均電力量と思われる)等がフィードバック型で制御されており、非常に細かくプロテクションが行なわれています。9段も直列に通っていますがすべてダイナミック型のEQですので、スレッショルド以下のレベルではスルー状態になり音質等に影響しないところが素晴らしいですね!

巷にはスピーカーメーカーが専用アンプと謳っているものが数多く存在しますが、ここまでのプロテクションを行なっているアンプは恐らくほとんどないでしょう。この機能を裏付けるように、前出の「スタッド・ドゥ・フランス」では2011年の改修工事以降300台以上設置されているスピーカーが1台も飛んでいないということです。

表4 「NEXO NXAMP4×2MK2」仕様

表4 「NEXO NXAMP4×2MK2」仕様
図7 「NXAMP」アンプのアレイEQ特性

図7 「NXAMP」アンプのアレイEQ特性

図8 「NXAMP」アンプのスピーカー保護セクション

図8 「NXAMP」アンプのスピーカー保護セクション

写真10 アンプ室。全部で4か所ある内のひとつ。パワーアンプはすべて「NXAMP MK2」モデル。200Vで駆動

写真10 アンプ室。
全部で4か所ある内のひとつ。パワーアンプはすべて「NXAMP MK2」モデル。200Vで駆動

※1:機械的ストレス この場合の機械的ストレスとは、例えばバスレフポートのチューニング周波数ではコーン紙が動かなくなるために物理的変位は減少するが、逆起電力が発生しなくなるのでインピーダンスが減少する。当然その時の電流量は上昇する。この現象が短時間に起こるとボイスコイルに急峻な電流が流れ込み機械的なストレス(ボイスコイルの変形等)が発生するが、これを防いでいる・・・らしい。

 

ノイズカットトランス

各サテライトのパワーアンプ室にはノイズカットトランス(NCT)が設置されていますが、今回は写真11のように小型のものが多数組み込まれています。これは同じ型番であれば小型の方がレギュレーションが良くフィルター特性も優れているためで、パワーアンプ1台に付き3KVAのNCT(電研精機製F6型)が1台割り当てられています。台数が必要なために同写真のような設置方法が取られていますが、この時に気を付けたいのがトランスの漏れ磁界による相互影響で、今回はメーカー側で問題ないことが確認されています。  

また、これら電源の配線には「CANARE」のシールド付き電源ケーブル「LP-3V35AC」が使用されており、入力と出力が混触しないような配線が行なわれています。ここ重要ですね!

前編の最後に今回の機器リスト(表5)を掲載します。後編では調整に用いたFIRフィルターの解説や実際の測定データ等についてもお話する予定です。ご期待下さい。(後編に続く)

写真11 アンプ室のNCT。アンプ1台に付き3KVAのNCT(電研精機製F6型) が1台接続されている。理由は本文参照

写真11 アンプ室のNCT。
アンプ1台に付き3KVAのNCT(電研精機製F6型) が1台接続されている。理由は本文参照

表5 主要機器リスト

表5 主要機器リスト

※記事中のDanteは「Audinate」社の登録商標です。

 


 

全来場者が最良のサウンドとエンターテインメントを
五感で楽しめる新たな環境に期待します!

豊田スタジアム 施設管理グループ 斉藤和俊氏

今回の改修工事にあたり施設管理の立場としましては、「来場者の皆様により良い環境で試合観戦していただきたい!」という強い想いがあります。しかし改修前までの2001年オープン当時の音響設備では、お客様の生の声と私共の実感として、建物の構造上スタンド席は全体的に音が反響し聴き取りにくく、観戦自体は目で満足できても耳ではそれに及ばず、半分半分の達成感でお帰りになられるお客様もいらっしゃることに心苦しさを感じておりました。

しかし、本年9月から開催されます「ラグビーワールドカップ2019」に向けて、格段に改善された音響設備だけではなく、LED化された競技用、演出照明や大型スクリーンも1基増設されております。また、他の施設各所でも修繕工事が行なわれたことで、観客の皆様に充分なサービスを提供できる「劇場空間」が再構築され、新たに生まれ変わった「豊田スタジアム」を多くのお客様に実感していただけるのではないかと期待しております。

これからのプロスポーツ施設のあり方として、エンターテインメント性は必須であり、一人ひとりが五感で満足するためには、大空間に響き渡り心に訴える「音」そのものが無限の可能性を秘めていると考えております。  

これからの更なる技術の進歩に大いに期待しております。


 

「名古屋グランパス」専属のサウンド・オペレーター
堀 正弘氏への一問一答

今回は「豊田スタジアム」で実際にオペレーションを担当されている「HOR」の堀 正弘氏に新しいシステムを使用してみてのご感想をお伺いすることができました。堀氏は「豊田スタジアム」のオープン初期から「名古屋グランパス」専属としてオペレーションを担当しておられますので、改修の前後の違いが最も良くお分かりになられているのではないでしょうか。

三村 本日お忙しい中、インタビューの時間を設けて頂き、ありがとうございます。早速ですが、サッカーの試合での音源にはどのようなものがあるのですか?

  メインになるのがスタジアムDJとアナウンサーで、共にフィールド上の仮設ブースで行ないます。あとはヒーローインタビュー、SE、BGM等でしょうか。

三村 そのフィールドの音を調整室に送るのは?

  移動型のI/Oボックス「YAMAHA Rio」を使ってグランドレベルにあるコネクターボックスに光ファイバーで接続し調整室まで送っています。

三村 今回増設したコネクター盤ですね。次にサッカーにおける音響業務とはどのようなものですか?

  試合中はスタジアムDJやアナウンサーが主体で行ないますので、やることはほとんどが音量の監視です。私の仕事は試合の前後のイベントとインターバルタイムに集中します。

三村 SE等はどうされているのですか?

  ゴール時等は映像と共に音が送られてきますのでそれをPAします。

三村 普段は通常のPAもされると思うのですが、このような会場との一番の違いはどこですか?

  調整室内で操作を行ないますので、実際のPAの音が全く聴こえないという点です。何度も会場内と往復してモニタースピーカーからの音との差を覚えます。

三村 サバ読みを確実に覚えるということですね! では、実際にお使いになっての感想をお伺いしたいのですが、お使いになられて、いかがですか? 改修前と一番違いを感じた部分はどこですか?

  音の明瞭性が格段に上がっています。各スピーカー間の時間差とレベルが綺麗に整合されているのが分かりますので、その結果だと思います。残響がとても多いのですが、変なエコーが少なくなったことが一番の改善点だと思います。これはどの機材による効果なのでしょうか?

三村 ここ(調整室)にある「LDM1」ですね。EQは「AMQ3」です。次にスピーカーが「NEXO」に変わったことの違いは何か感じますか?

  「NEXO」との違いは当然のように実感しています。「NEXO」だと無理がないというか能率の良い音がしていると感じますね。ただ、それよりも改修前は観客席とスピーカーとの距離が遠くて多くの反射音があり明瞭性が悪かったのが、近い位置に補助スピーカーを付けて時間整合を行なって頂いたので、その違いも大きいように思います。

三村 ここでは堀さんだけがオペレートされるのですか?

  私だけではありませんが、主要なものはほとんど私が担当しています。

三村 今回調整卓も変更になりましたが、その部分はいかがですか?

  ヘッドアンプのゲインもリコールできるのが嬉しいです。今まではPCからシーンを呼び出してもそこを変えられてしまうとどうしようもなかったので。

三村 本番中にシーンはお使いになりますか?

  調整卓のシーン機能は、サッカーの本番中は使いません。まず、仕込みの前に現在の状態をUSBメモリーにセーブした後で自分の使用パターンをロードし、終わったら元に戻すという使い方です。

三村 まだまだお話しをお伺いしたかったのですが時間が来たようです。本日は貴重なお時間を頂き、ありがとうございました

「HOR」の堀氏とのインタビュー。調整室にて–

「HOR」の堀氏とのインタビュー。調整室にて–

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