ヤマハサウンドシステム株式会社

まつもと市民芸術館 様 / 長野県
Japan / Nagano May. 2023

まつもと市民芸術館 様

松本駅から徒歩10分、市の中心部にある「まつもと市民芸術館」は、最大1800席(座席数可変)の主ホール、288席の小ホール、そして360席の実験劇場を備えた文化施設です。2004年に開館した「まつもと市民芸術館」は、2018〜19年に初めての本格的な改修工事を実施。ヤマハサウンドシステムは音響システムの改修を担当しました。改修を行った音響システムの概要やヤマハサウンドシステムの仕事ぶりなどについて、まつもと市民芸術館 舞台技術部長 那須野 幸太郎 氏と、舞台音響の久保田 肇 氏にお話をうかがいました。

まつもと市民芸術館 様

まつもと市民芸術館 舞台技術部長 舞台音響 那須野 幸太郎 氏(前列中央)
同 舞台技術専門職員 舞台音響 久保田 肇 氏(前列左端)
ヤマハサウンドシステム株式会社 技術部 東京技術3課 小川 泰明(前列右端リモート)
同 設計部 システム設計課 阿部 良生(後列左端)
同 設計部 システム設計課 赤坂 智晃(後列から2番目)
同 東京営業所 営業課 竹内 薫(後列右から2番目)
同 東京営業所 保守課 神尾 太一郎(後列右端)

串田和美構成・演出の「空中キャバレー」を上演する
実験劇場が特徴的なホール

● 「まつもと市民芸術館」についてご紹介ください。

那須野氏:
「まつもと市民芸術館」は2004年にオープンしました。松本市では1992年から毎夏、音楽祭「サイトウ・キネン・フェスティバル松本」、2015年からは名前が変わって「セイジ・オザワ 松本フェスティバル」が開催されていることもあり、音楽好きな方が多い街です。「セイジ・オザワ 松本フェスティバル」では、オーケストラの演奏は「キッセイ文化ホール(長野県松本文化会館)」で行われ、オペラなどは「まつもと市民芸術館」で上演されています。

まつもと市民芸術館 様

まつもと市民芸術館 舞台技術部長 舞台音響 那須野 幸太郎 氏

● 「まつもと市民芸術館」の特長はどんな点ですか。

那須野氏:
「まつもと市民芸術館」はオペラや高度な舞台芸術に対応する機能を持つとともに、コンベンション利用など、多様な要望にも応えることができる文化施設です。主ホールは客席天井を昇降させることで、客席数と容積を変えることができます。最大4層の馬蹄型ホールでサイドバルコニー席もあるため、舞台に立つと客席が迫ってくるような感じで、お客様の反応を肌で感じることができます。また288席の小ホール、そして主ホールの後舞台に設けられたロールバック式客席を使った仮設の実験劇場も備えています。

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まつもと市民芸術館 主ホール

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まつもと市民芸術館 小ホール

まつもと市民芸術館 様

まつもと市民芸術館 実験劇場

● 「まつもと市民芸術館」では、どのような催し物が多いのですか。

那須野氏:
地方のホールということで演目は多種多様です。特徴的な演目としては、2023年3月まで「まつもと市民芸術館」の総監督をされていた演出家の串田和美さんの作品「空中キャバレー」をコロナ禍までは隔年で上演していました。これは主ホールの奥舞台に作る360席の「実験劇場」の客席と、舞台上の役者やミュージシャンを囲むように客席が配置される独特な演出があり、他のホールではおそらく上演が難しい演目だと思います。
また実験劇場では毎年恒例でROLLYさんによる「ローリーの怪奇骨董お話し箱」が開催されています。これはお子様に絵本を読み聞かせながら時に激しくギターを弾くというユニークなもので、大人も子どもも楽しめる人気の演目です。

スピーカー、音響調整卓、アンプなどを更新し96kHzおよび Danteネットワークを導入した主ホール

● ここからは音響のお話をうかがいます。改修は2期に分けて行われたそうですね。

那須野氏:
改修はもともと開館から15年ぐらいを目安に考えており、2018年にまず主ホールの改修を行って翌2019年に小ホールとスタジオ関係の改修を行いました。主ホールと小ホールの改修期間を分けたことでホールの運営を止めることなく改修が行えたというメリットがありました。

● 主ホールでは主にどんな点が改修されたのですか。

那須野氏:
音響調整卓、パワーアンプ、スピーカーと全てを更新しました。まずメインスピーカーですが、もともと入っていたd&b audiotechnik「F1222」と「B1サブウーファー」の音が非常に気に入っていたのでそのまま使いたい気持ちもありましたが、15〜20年先となる次の改修まで不安なく使えるかを考えるとやはり入れ替えるべきだという判断となりました。いくつかのモデルを実際にホールに持ち込んで比較試聴をした結果、「F1222」のニュアンスも残しつつ、客席の隅々にきちんと音が届くd&b audiotechnikの「Yシリーズ」を選定しました。音声伝送も全面的にオーディオネットワークへ移行することとし、96kHzでの運用を行っています。調整卓にはヤマハのデジタルミキサー「RIVAGE PM10」を選びました。

まつもと市民芸術館 様

まつもと市民芸術館 主ホール

● スピーカーがポイントソースからラインアレイに変わりましたが、客席への音の届き方は変わりましたか。

那須野氏:
客席での音声の明瞭性がはっきりと向上しましたし、場所による聴こえ方の差もなくなりました。またバルコニー席などのメインスピーカーではカバーできないエリアには、更新で補助スピーカーを追加しました。補助スピーカーはメインスピーカーに合わせた距離補正をしているので、違和感なく自然な音で聴こえます。

まつもと市民芸術館 様

バルコニー用補助スピーカー

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主ホール壁面に設置されたウオールスピーカー

● Danteの導入にはどんなメリットがありましたか。

那須野氏:
Dante導入の一番のメリットはシステム全体がシンプルになったことです。今回の音響の更新では機材を最小限とし、できるだけシンプルな構成にしたいと考えました。

まつもと市民芸術館 様

主ホールの音響室

● ヤマハ「RIVAGE PM10」の選定理由を教えてください。

那須野氏:
96kHz で運用できることを前提としつつ、まずはヤマハ製という信頼性が大きかったです。もちろん音質も良く、操作性も優れています。操作するのは私たちだけではなく、乗り込みのエンジニアの方も使うので、誰でも使い勝手がわかるヤマハのミキサーで運用することのメリットは大きいです。

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デジタルミキシングコンソール ヤマハ「RIVAGE PM10」

● 「RIVAGE PM10」の音の印象はいかがですか。

那須野氏:
もともと使っていたヤマハ「PM1D」もかなり音が良かったと思いますが、「RIVAGE PM10」に変わってオーケストラの録音をヘッドフォンで聞いた時、くせがなく自然で、とてもきれいな音だったので「これはすごい」と驚きました。ホールで音を再生した場合はパワーアンプやスピーカーの性能に左右されますが、ヘッドフォンでは、ミキサーの素の音が聴けるので音が良くわかります。明らかに音が良くなっていました。

● 久保田さんは「RIVAGE PM10」を使ってみていかがでしたか。

久保田氏:
音がいいのはもちろんですが、内蔵されたエフェクトの種類が豊富なので、今までとは違うアプローチができるようになりました。

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まつもと市民芸術館 舞台技術専門職員 舞台音響 久保田 肇 氏

● 主ホールの音響調整室にあるヤマハ「QL1」は、どのように運用しているのですか。

那須野氏:
「QL1」はロビー、ホワイエ、楽屋まわりの運営系用のミキサーとして導入しました。改修前は運営系の制御は舞台袖の上手にある音響倉庫で行っていましたが、運営系の要請があった場合、本番中でも舞台袖まで行って操作する必要がありました。それを改善するために音響調整室に「QL1」を設置しました。「RIVAGE PM10」と切り分けてあるため、本番のオペレーションを妨げることなく運営系のオペレーションが行えます。

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主ホール音響調整室に設置されたデジタルミキシングコンソール ヤマハ「QL1」

補助スピーカーで効率的に補正を行った小ホールと
ナレーション録音などコンテンツ制作可能なAVスタジオ

● 小ホールはどのような催し物が多いのでしょうか。

那須野氏:
小ホールは講演会や映画上映会、お芝居、音楽教室の発表会や声楽系のコンサート、さらにジャズコンサートなど、本当にいろいろな催し物でご利用いただいています。

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まつもと市民芸術館 小ホール

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まつもと市民芸術館 小ホール メインスピーカー

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まつもと市民芸術館 小ホール バルコニー用補助スピーカー

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まつもと市民芸術館 小ホール 後部席用補助スピーカー(仮設)

● 小ホールの音響調整卓にヤマハのデジタルミキシングコンソール「CL3」を選定された理由をお聞かせください。

那須野氏:
まずは主ホールと同じくヤマハ製品であるという信頼性です。
また小ホールでは主ホールよりさらに機器構成をシンプルにしたいと考えていました。音響調整室のスペースの問題もありできるだけコンパクトかつ操作性の良い卓を選択しました。
コンパクト化ということではスピーカーのオン/オフは主ホールではタッチパネルでしたが、小ホールではパワーアンプのリモート機能を使うことでさらにコンパクトにしています。
あと、万が一卓にトラブルがあった場合、即載せ替えできるように、備品の移動用卓もCL/QLシリーズに統一しています。

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まつもと市民芸術館 小ホール 音響調整室

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デジタルミキシングコンソール ヤマハ「CL3」

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パワーアンプリモート液晶画面

● その他のスタジオについて教えてください。

那須野氏:
主ホールの舞台と同じサイズのオープンスタジオがあります。こちらは主ホールや小ホールの演目の稽古場として使われることが多いですが、集会や会議などでもお使いいただけます。さらにスタジオ2~4と会議室があります。
またAVスタジオというコンテンツ制作スタジオがあります。ここは主に私たちが使う部屋で、効果音やナレーション録り、映像編集作業などを行います。

まつもと市民芸術館 様

まつもと市民芸術館 AVスタジオ

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AVスタジオ内のアビテックス(ナレーション録音ブースとして使用)

「まつもと市民芸術館」の今後の新たな試みを
支えられる音響インフラを構築する

● ここからは「まつもと市民芸術館」の改修に関わったヤマハサウンドシステムの社員も参加し、工夫した点や学んだ点などを聞いていきます。まず営業担当の竹内さんはいかがでしょうか。

竹内:
今までいろいろな案件の改修工事をやってきましたが、「まつもと市民芸術館」は私が担当した物件の中では規模が大きな劇場のひとつで、非常に思い出深いです。このホールで重点を置いたのは、モニターディスプレイやワイヤレスインターカムなどは実機を実際に持ち込んでテストしていただく、ということでした。

まつもと市民芸術館 様

ヤマハサウンドシステム株式会社 営業部 東京営業所 営業課 竹内 薫

● モニターディスプレイやワイヤレスインターカムなどは、モデルによって違いが大きいのですか。

那須野氏:
ワイヤレスインターカムはモデルによって聞こえ方も違いますし、同時に使える台数も違います。ヤマハサウンドシステムさんにいくつか候補に挙げてもらったモデルを、機種選定する前に実際にテストできたので安心して導入できました。

● 設計担当の阿部さんは、「まつもと市民芸術館」でどんな点に力を入れましたか。

阿部:
私は主ホールのシステム設計を担当しましたが、この改修工事では工事期間の半分をご要望に合わせて仕様を検討する期間とし、仕様決めにじっくりと時間をかけました。

● 工期の半分を仕様決めに費やしたのはなぜですか。

阿部:
機材の入れ替えはあるとしても、この改修で作った基本的な音響システムは次の改修が行われるであろう15〜20年先まで使い続けていくことになります。「まつもと市民芸術館」は独創的な作品に取り組む劇場なので、新たな試みに対して音響システムのインフラ的な問題で「できない」ということがないようにしたいと考えました。そこで那須野さんと「こういう使い方もありえるのでは」とさまざまな可能性を検証し、それらに対応できるようなインフラを構築しました。
それに加えて使い勝手にもかなりこだわりました。特注のパネルやスイッチは、よく使うスイッチはできるだけ手が届きやすいようレイアウトに熟考を重ねました。これも何度も那須野さんとやりとりをして決めていったところです。

まつもと市民芸術館 様

ヤマハサウンドシステム株式会社 設計部 システム設計課 阿部 良生

まつもと市民芸術館 様

直感的にスピーカーを選択できるようにレイアウトしたタッチパネル画面

那須野氏:
実は開館し、運用してみてはじめて必要だったものもあります。たとえばカゲアナ(影アナウンス)用の回線などですが、これは今までは専用回線が無く仮設で組んでいましたが本回線に追加してもらいました。カゲアナ付近では再生機器・録音機器・映像機器を構築することが多かったので、それらをまとめてパッチができるコンセント盤にしました。
ガケアナブースも、今までは小机にマイクと手元あかり程度で、必要に応じてTVモニターや音声モニターを仕込んでいたのですが、必要なものは全て装備しアナウンスをしやすい環境にしたかったので専用ブースを製作してもらいました。

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サイズや形状に徹底的にこだわったカゲアナブース

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改修工事で増設されたカゲアナコンセント盤

● 設計担当の赤坂さんは、今回の改修工事でどんな点に力を入れましたか。

赤坂:
私は小ホールとスタジオ関係を担当しました。機材に関しては主ホールの流れも合ってスムーズに選定できました。楽屋呼び出し装置の制御方法などについては那須野さんと何度も会話を重ねて仕様を決めていきました。またその仕様に基づいた音響機器一式を特注で製作しましたが、那須野さんに工場までご足労いただいて検査確認をしていただくといった、手順にこだわりました。

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ヤマハサウンドシステム株式会社 設計部 システム設計課 赤坂 智晃

● リモート参加の小川さんは、どの部分を担当しましたか。

小川:
小ホール改修工事の施工管理を担当しました。主ホールと小ホールとわけた改修で、工事中も他のホールが稼働している中での工事でしたので、日程の調整に気を配りました。

まつもと市民芸術館 様

ヤマハサウンドシステム株式会社 技術部 東京技術3課 小川 泰明

● 小ホール改修の施工管理をする上で、特に気を付けたことはありますか。

小川:
先に主ホールの改修を終えてから小ホールの改修でしたので、主ホールと小ホールで使い勝手を継承することに配慮しました。細かいところですが、部屋名の表記や用語のゆれや順番の統一などです。これらが違うと使い勝手が悪くなるので、それらを統一するように気を使いました。

● 保守担当の神尾さんはいかがでしょうか。

神尾:
私は2022年度から「まつもと市民芸術館」の保守の担当になり、すでに2回定期保守を行いました。ここは規模が大きく稼働率も非常に高い施設です。機器は稼働時間が長くなるほど不具合の発生率も高まりますので、常に機器の稼動状況を把握し、いい状態に保ちつつホールを運営するための提案ができればと思っています。

まつもと市民芸術館 様

ヤマハサウンドシステム株式会社 東京営業所 保守課 神尾 太一郎

ヤマハサウンドシステムの「対応力」で、
新しくなる「まつもと市民芸術館」を支えてほしい

● 那須野さん、久保田さんはヤマハサウンドシステムに今後どのようなことを望みますか。

那須野氏:
私はヤマハサウンドシステムさんの「対応力」に期待しています。工事中も、そして稼動してからも、こちらが困った時にすぐ動いてくださる。その安心感は非常に大きいです。公共施設は入札制ですから、私たちの希望で工事や保守業者を決めることはできませんが、できれば今後も、ずっと「まつもと市民芸術館」を支えていただきたいです。

まつもと市民芸術館 様

久保田氏:
僕も申し訳ないと思うぐらい、すぐにヤマハサウンドシステムさんに電話してしまうんですよね。マニュアルをよく探せば分かるのかもしれませんが、本番が迫っていたりして時間がないとつい頼ってしまいます。そんなわがままにも迅速に対応してくださるので、本当に信頼しています。今後もよろしくお願いします。

● 「まつもと市民芸術館」は、今年20周年を迎えますが、今後やってみたいことはありますか。

久保田氏:
私は毎年実験劇場で開催されているROLLYさんの「ローリーの怪奇骨董お話し箱」のオペレーションを担当しています。実験劇場は非常にフレキシブルに使える劇場ですので、例えば舞台の向きを変えたり、バンドを入れたりなど、今までとは形を変えてやってみたいですね。

那須野氏:
「まつもと市民芸術館」の開館以来20年にわたって総監督を務めてこられた串田和美さんが2023年3月に退任されたばかりなので、新たな取り組みについてはこれからとなりますが、芸術監督が変わることで今までとは違った色の「まつもと市民芸術館」になるかもしれません。ぜひ楽しみにしていてください。
基本的な劇場のあり方としては、今まで通り市民や近隣住民の方々に喜んでいただける運営ができたらいいなと思っています。私個人としては、「まつもと市民芸術館」で自主制作した作品を外に出して、いろいろな地域で上演してみたいと思っています。

● 本日はご多忙中ありがとうございました。

外部リンク

オタリテック株式会社【 d&b audiotechnik製品導入事例 】 外部サイト

オタリテック株式会社【 RIEDEL Boleroワイヤレス・インカム製品導入事例 】 外部サイト

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