音響調整ってどんなこと?
当社の業務における「音響調整」という仕事をご存じでしょうか?
音響設備を設計し設置や配線を終えてようやく音が出るようになったあと、完成間近の空間で 耳をすませ客席を歩き回る当社社員がいます。
何のために、どのようなことをしているのでしょうか?今回は「音響調整」について、ご紹介します。
どうして音響調整をするの?
音響調整を行う大きな目的に「その施設に適した扱いやすい音にすること」が挙げられます。
ホールや劇場では演目に合わせて音響担当さんが音作りをしますが、当社の音響調整はその土台となるものです。音響さんが音作りをしやすいよう、施設の特徴や要望に合わせた音響調整を行います。
その前提のひとつが「スピーカーが本来の音を出せること」です。
スピーカーは、ただ置いて繋げただけでは生まれ持った音を発揮することができません。例えば壁際に置かれたスピーカーは低音が盛り上がってしまったり、目立たないように覆われたスピーカーはモゴモゴとした音になってしまったり。伝えたい声や音をたくさんの人に届けるための音響設備なのに、その役割を十分に発揮できないのでは困りものです。せっかく施設の音として選んだスピーカーですから、その音を活かせるように補正や調整をします。
スピーカーが本来もつ能力を最大限に発揮させ、言葉や音が当たり前にきちんとお客様に届くようにする。そのうえで、その空間にいちばん適した音に仕上げる。これが音響調整の役割のひとつです。
どんなことをするの?
劇場やホールの音響調整の作業は、大きく分けて4段階あります。
1. できるだけきちんと客席に音が届くようスピーカーの設置を物理的に整える
2. スピーカーの音量や音質を、その空間に合うよう電気的に補正する
3. 全体でまとまった音にする
4. 指針に沿って客観的に確認する
順番に解説していきましょう。
1. できるだけきちんと客席に音が届くようスピーカーの設置を物理的に整える
「音響調整」というと、何やら難しげな測定器を操作するという印象をお持ちの方もいるかもしれませんが、まず初めにスピーカーの設置位置や向き、物理的な設置状況を整えます。
例えばスピーカーの向きがほんの少しでもずれていると、音が届きづらい席ができてしまうかもしれません。また壁際や壁の中、ステージ下などに置かれたスピーカーは、周りの空間で音が反射して、本来の音とかけ離れてしまう場合があります。
スピーカーの取り付けの際に、実際に音を出しながら耳や測定器をつかって確認し、違和感があればスピーカーの設置状況を見直します。角度の見直しやスピーカーの周りの吸音、スピーカー室で生じる反射音の音漏れ防止など、物理的に発生してしまう問題はできるだけ物理的に解消しておくことが、いい音への第一歩です。
スピーカーの周りにフェルト材を充填した様子
2. スピーカーの音量や音質を、その空間に合うよう電気的に補正する
物理的な設置に最善を尽くしたら、スピーカーの音量と音質の補正を行います。
スピーカーから発する音が客席全体で適正な音量となるように、プロセッサーやパワーアンプを使ってレベルを調整します。客席全体で可能な限り音量が均一となるようにバランスをとります。
次に、プロセッサーに搭載されているイコライザーなどを使って音質の補正をします。イコライザーは低音や高音を思いっきり目立たせたり、自分好みの周波数特性にしたりできますが、ここではあくまでも設置状況などで変化してしまった音を本来の音に戻すよう補正する目的で使います。
ただし、前述の物理的な問題がきちんと解決できていない状況で無理に補正すると、スピーカーを傷めてしまう恐れもあります。必要な補正の見極めとさじ加減が重要なのです。
電気的な調整が特徴的なものに、プロセッサー搭載のパワーアンプがあります。パワーアンプでスピーカーの品番に合わせた専用の音質調整などをすることで、スピーカーメーカーが理想とする音を再生できるようにしています。
スピーカーの品番に合わせたプリセットを搭載したパワーアンプ
3. 全体でまとまった音にする
ホールや劇場は容積が大きく、2・3階席やバルコニーなど空間の形が複雑です。そのためプロセニアム上部や両サイドのメインスピーカーだけでなく、隅々の席まで音が届くように補助スピーカーを設置することが多くあります。この補助スピーカーはそれぞれが別々に頑張るのではなく、全体でまとまりのある音に調整することで、心地よく聴きやすくなります。
補助スピーカーは、メインスピーカーの音に溶け込ませるようにさりげなく、けれどもしっかりと音量を得られるように調整しなければなりません。相反することのようですが…どうすればよいのでしょうか?
ポイントのひとつのなるのが、音の届くタイミングです。
2つ以上のスピーカーから同時に音が出ているとき、耳に届くまでの距離に違いがあると、音がぼやけて聞こえたり、音の方向感がめちゃくちゃになったりしてしまいます。補助スピーカーはメインスピーカーよりも客席に近いため、そのままでは不自然に目立ってしまうのです。
メインスピーカーから届く音とタイミングが揃うように 補助スピーカーから出る音を遅らせることで、音の方向感を保つことができます。
また、人の耳は「さしすせそ」や「たちつてと」の音、シンバルの音のような高い周波数の音に敏感と言われています。耳につきやすい周波数はイコライザーでレベルを下げて、メインスピーカーの音に馴染ませるなどの工夫もします。
4. 指針に沿って客観的に確認する
音の善し悪しは聴く人にもよるので、この音が正解、という決まりはありません。しかし、あまりに施設によって音響設備の性能が違うのも困ってしまいますよね。客席への音の届き方や音量、聞こえ方など、基本的な性能はきっちりおさえておきたいところです。
ホールや劇場の音響設備の性能を示す指針として「劇場等演出空間電気設備指針」があります。公益社団法人 劇場演出空間技術協会(JATET)によって提唱されているもので、ホールや劇場の音にとって大切な5つの項目について、目標性能と測定方法が記載されています。
音の評価は感覚的になりがちですが、指針に則って調整・測定を行うことで基本的な性能を客観的にも評価できます。施設の管理者や工事業者など音の専門家でない関係者との共通認識を持つことにも役立っています。
参考:劇場等演出空間電気設備指針2014|図書・出版物購入申込み|学会サービス|電気設備学会 (ieiej.or.jp) ![]()
客席で音響設備の音量を測定している様子
まとめ
音は、図面やシミュレーションで予想はできても、現場でなければ聴くことはできません。お客様の理想に応える知識と経験、そして測定器などをフル活用しながら、主観的にも客観的にも満足できる「いい音」を丁寧に作り上げる、音響調整のプロセスをご紹介しました。
客席のどこに座ってもおおよそ同じ音が舞台のほうから聞こえる。当たり前のことのようですが、そこにはこだわりと工夫が詰まった「音響調整」の仕事があることを、少し思い浮かべていただけたら嬉しいです。
当社では、音響調整の経験と知見を活かした「音診断・音改修」のサービスを行っています。
竣工・改修からある程度年数の経ったホールでは、音響機器や建物の経年劣化や施設の利用用途の変化に伴い納入時のチューニングが合わなくなることがあります。「改修するほどではないが、音を改善したい」というお客様の課題にお応えするサービスです。ぜひお問い合わせください。
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