ヤマハサウンドシステム株式会社

PROSOUND FEATURE
より豊かな音文化の発信地
池袋グローバル リング シアター
~立体音場を実現した野外劇場~

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より豊かな音文化の発信地
池袋グローバル リング シアター
~立体音場を実現した野外劇場~

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より豊かな音文化の発信地

池袋グローバル リング シアター

~立体音場を実現した野外劇場~

テキスト:半澤公一 撮影:土屋 宏

PROSOUND FEATURE より豊かな音文化の発信地 池袋グローバル リング シアター ~立体音場を実現した野外劇場~

仕事帰りや散歩の途すがら、遠くからふと音楽が流れてきた時、耳が吸い寄せられてしまう。それが普段なじみのないジャンルであったとしても、生演奏であれば足を留める。読者にもそうした経験があるのではないだろうか。スピーカーシステムから流れる既製音源の再生音と生演奏とでは、届く心までの深さが違うと見え、後者の場合は聴き入ってしまうことが多い。やはり生演奏の持つエネルギーは人間を惹きつける説得力を感じ、加えてパフォーマンスが素晴らしければ、終演まで観てしまうことも少なくない。こうした巡り会いのチャンスはそうそう多くはないから良いのだ、と言う向きもいるかも知れない。が、東京・池袋という繁華な街にその出会いを実現する会場が存在する。
池袋西口公園野外劇場「池袋グローバル リング シアター」。2019年11月16日にオープンした屋外ステージ。舞台上部には大型ビジョンを備え、客席にあたる部分には中空に直径35mのリングを設置。要所には照明や音響設備も敷設され、多彩な演出も可能となっている。今回はこの施設を支える東京都豊島区 文化商工部の深井紀知氏、としま未来文化財団の岸本匡史氏、中村成志氏の3名に話をうかがった。また、音響設備の設計施工を担当した「ヤマハ」および「ヤマハサウンドシステム」のメンバーから代表して、「ヤマハ」で音場支援システム「AFC」を担当する「ヤマハ」橋本 悌氏に、「AFC」が叶えるイマーシブ空間の現在と将来性について話を訊いた。

インタビューにご協力いただいた皆さん。左から、岸本匡史氏、深井紀知氏、中村成志氏

インタビューにご協力いただいた皆さん。左から、岸本匡史氏、深井紀知氏、中村成志氏

Chapter01  
池袋西口の新しいランドマークに

プロサウンド(以下、PS ):
本日はこの「池袋グローバル リング シアター」を運営される3名の方々に集っていただきました。まずは豊島区の文化商工部で文化デザイン課に籍を置かれる深井紀知さんです。本日はどうぞよろしくお願いいたします。野外劇場ということで、しかもこの規模感あるサイズ。さらに池袋駅西口からわずかの立地です。このスケール感を持った取り組みをやろう、といったきっかけにはどのようなものだったのでしょうか。

深井:私どもの区長、高野之夫が文化へ力を入れておりまして、文化を基軸にしたまちづくりというものを標榜しているところです。この施設は国際アートカルチャー都市構想と呼ぶ文化計画の一環になるのですが、そのなかで西口公園を劇場のように舞台のある整備をすればどうかと区長自らの意見で進められました。

P S :ではプロジェクトが始まりました。実際に劇場ができますと。そうしたときに深井さんご自身のなかでは、どのようなところになれば良いか、またベストだろうかなど、どうイメージをお持ちだったのでしょうか。

深井:池袋という街の東口と西口を考えたときに、東口は「サンシャインシティ」ですとか結構いろんな施設があって、人がこれまで東口に多く流れていたと。反して西口は人が出歩かない。やはり西口にも人を呼びたい。そうした意味で西口のランドマーク的な施設になってもらいたい。西口公園が池袋西口の目印や待ち合わせなどに使われ、賑わいの場になってほしかったとの思いがあります。

P S :すぐお隣に「東京芸術劇場」があります。あちらは東京都の施設だったかと記憶しているのですが。

深井:この「池袋グローバルリング」があるのは豊島区の土地になります。実はわざとお隣と一体的な感じに見えるよう作っています。敷石なども同じにして敢えて境目がないようにしているんですね。分けるといった意味に必要を感じませんでした。一般の方から見ればまさに野外型と屋内型の劇場が並んでいるように見えます。

P S :深井さん、先ほど人の流れやランドマーク的なものにと、いろんなねらいを持って計画されたとのことですが、完成して運営を始めるにあたり、この場所ができたことでこの地がどう変化することをお考えだったのでしょうか。

深井:改修工事前の池袋西口公園というのは、どちらかといえば暗いイメージがありました。新しくなってからご利用の方々にアンケート調査も行なっていますが、きれいになった、明るくなったと、この意見はもちろんなのですが、居心地が良くなったという意見を多くいただいたのです。こうした部分も設計の段階で意図していたところでして、公園ですので憩いの場として、そしてイベント広場的なことなど、さまざまな要素をここへ詰め込んだといえば最適でしょうか。

P S :少し先を急いだような質問で恐縮なのですが、この先10年~20年と続いていくかと思うのですが、深井さんとしては時間を経てからどのようになっていれば、この計画は成功だったと言えるものになるのでしょうか。

深井:やはり、できるかぎりたくさんの人に利用していただきたい。そうすることで近隣の方や区民の方々に愛される施設になることだと考えます。

緩やかなステップを流れ落ちる水の滑走路。そこから大空へ飛行機が飛び立つさまをイメージできる、美しい中庭から臨むホール外観
緩やかなステップを流れ落ちる水の滑走路。そこから大空へ飛行機が飛び立つさまをイメージできる、美しい中庭から臨むホール外観

ステージからリング内を臨む。本シアターはステージが2階仕立てとなっており、演奏者の人数が多い場合でも、さまざまなレイアウトが可能

クラシックやジャズ
円形状を活かしたパフォーマンスにも

P S :続いて岸本さん、よろしくお願いいたします。岸本さんは「公益財団法人 としま未来文化財団」の施設管理課に籍を置かれ、その課をまとめていらっしゃいますが、豊島区でこうした一等地に野外劇場をつくりましょうと。むろんできあがっていく過程もご覧になりながら、さて運営にあたりどのように進めるべきか、そうお考えになったかと想像するのですが、当初大きな視点での目標として、どのようにお考えだったのでしょうか。貸劇場もなされていると聞いています。

岸本:この施設の特徴として、ひとつは完全に屋外の劇場であり、外からもふらりと見ることができる場所になります。そこでイベントを催しているときでも「何かやっているな」と気軽に覗けて、また楽しんでいただけるような劇場になるのが良いなと思っていました。一般的な劇場ですと、屋内でむろんのこと完全に壁のなかにあり、そこで行なわれていることはポスターなどでしか分かりません。が、こちらは今日は音楽を演っているんだとか、芝居をやっているだとか、もちろん仕切りの少し遠くの外側からなのではっきりとは見えないですけれども、そうしたことが分かる。しっかり見たければ席に座って見ていただく。そうした形のものができあがってくると良いなと思っていました。

ステージ上部には大型のデジタルサイネージを設置。各パフォーマンスが美しい解像度で映し出されるのはもちろんのこと、催しのスケジュール告知などにも用いられる

ステージ上部には大型のデジタルサイネージを設置。各パフォーマンスが美しい解像度で映し出されるのはもちろんのこと、催しのスケジュール告知などにも用いられる

P S :ちなみに有料公演などもあるのでしょうか。

岸本:はい、ございます。その場合は周りを囲って、入口を設けて行なっています。やはり席に座って見ることのできるプレミアム感を売るというところですね。

P S :技術課で音響技術グループの中村さん、開催される演目のジャンルとしては、どのようなものがあるのでしょうか。

中村:先ほど話にも出ましたが、舞台の上で行なうことのできる催しとして、基本的にはクラシック系のコンサートが今のところ多いです。だた、それだけではなくて同じクラシック系でもいわゆるオーケストラものもあれば、ピアノとヴァイオリンのようなシンプルな編成。また楽曲がクラシックなだけであって、演奏楽器の編成は決してクラシックではないスタイルもあったりします。ほかにはジャズなども行なっています。個人的には特に夕方に催されるジャズは、この場所と雰囲気が合って最高です。

岸本:補足をしておきますと、音楽ジャンル以外にももちろん使われています。そもそも円形で丸いところが特徴ですので円形の中心、つまり客席の中央を舞台にしてパフォーマンスを行なったことが何度もあります。

P S :既設の舞台を使わないといいますと演劇系といったところでしょうか。

岸本:そうですね。演劇もむろんそうですし、サーカス系のパフォーマンスでもご利用いただいております。そうした場合に、既設の舞台上では生演奏で曲を当てながら、本舞台は客席の中心にあって、お客様が周囲を取り囲むといった、そうしたスタイルなどさまざまに活用が可能です。

P S :今はオープンしてから初期段階のところを中心に聞いているのですが、はじめるにあたりこだわりたかったところ、そうした意味ではいかがでしょうか。

深井:こだわりといいますか、実は正直なところ、オープンしてからすぐコロナが蔓延する事態になりました。それが理由でまだ利用が少ないのです。まだ使われていなくて、この公園が持つ高いポテンシャルを活かし切れていない、もっといろいろな使い方があるはずだと。したがってさまざまなアイデアを持ってここを使っていただきたい気持ちがあります。もっと面白くしていけると思っています。

P S :そのとおりですね。舞台上を使うことにこだわらなくても良いですし、しかも仕切れば有料の催事にも対応できます。受け皿としては間口が広いですね。

岸本:確かに仰るとおりなのですが、私はどちらかといえば、ふらり立ち寄り(笑)が理想ではありますね。

P S :例えばこれまでにないものですと、どのような催事が考えられますでしょうか。

岸本:私がやりたいと思っているのは、リラックスパフォーマンスみたいなもので、周りに全部芝を敷いて、そこでリラックスしながら聞くとか、サウンドスケープ的なことです。せっかくサークルの全周にも音響装置が備わっていますので、方向性を持たせた音源を流してやってみたいですね。例えば自然をテーマにすると鳥の声や森の音といったこともありますし、ほかには海外の公園や街角の音をここで再現するなどです。

P S :時折聞きますね、実験的な要素が多い場合もありますが、こちら側はベルリンの街の音、また別の場所では異なる海外の街の喧噪といった。

岸本:そのとおりです。音が出ているだけでなく。方向性も持たせることもこの劇場の設備では可能になります。つまり全周から同じ音源を流すのではなく、例えば車が向こうから走ってきて反対側へ抜けていく、みたいなことが判別できるくらいのリアリティを持たせると。今はコロナ感染で海外へ行きにくいですね。そうした現状にあって、少し楽しんでもらおう、こんなものも興味深いかなと。

野外だからこそ
「AFC」の存在は大きい

P S :中村さんは音響を中心に劇場の管理を行なってこられたのですが、先ほど音響機材の持込みイベントなどもあると聞きました。その他、さまざまな催事があるなかで、劇場として提供できるものがあると思います。そうした意味で、この施設が持つセールスポイントをいくつか教えてください。

中村:繰り返しになる部分もあるのですが、屋外型の劇場が持っている設備としては、少なくとも日本国内で随一と言えるものが揃っていると自負しています。「NEXO」のラインソース・ハウスシステム以下、音響だけでなく照明設備も屋外施設でここまで揃っているところはないと。映像もある程度のことはできますし、そうした意味ではプロフェッショナルな方が公演にいらしても、それに応えられるだけのポテンシャルは充分に持っていると自負しています。さらに音場支援を目的とした「ヤマハ AFC」システムも音響の価値を大きく高めています。

メインスピーカーシステムは「NEXO」のラインアレイシステムを採用。片側に「GEO M1012-I」5台とベースモジュール「GEO M1025-I」1台をフライング。このほか、移動用スピーカーとして「ヤマハDXR12mkⅡ」とパワードサブウーファー「同DXS15mkⅡ」が用意されている

メインスピーカーシステムは「NEXO」のラインアレイシステムを採用。片側に「GEO M1012-I」5台とベースモジュール「GEO M1025-I」1台をフライング。このほか、移動用スピーカーとして「ヤマハDXR12mkⅡ」とパワードサブウーファー「同DXS15mkⅡ」が用意されている

巨大なリングを支える6本の柱には全天候型スピーカーシステム「ONE SYSTEMS 108HTH」を各2本ずつ設置

巨大なリングを支える6本の柱には全天候型スピーカーシステム「ONE SYSTEMS 108HTH」を各2本ずつ設置

コンパクトなミキシングスペース。メインコンソールは「ヤマハQL1」、ネットワークスイッチ「SWP1-8」も隣にスタンバイし、またタブレットによるコントロール環境も充実している

コンパクトなミキシングスペース。メインコンソールは「ヤマハQL1」、ネットワークスイッチ「SWP1-8」も隣にスタンバイし、またタブレットによるコントロール環境も充実している

P S :7月8日の本番時に聴かせていただきました。思いのほか、お客様がいらしたのですが、充分に楽しめました。リスナーとしてサークルの内側でも外側でも、良かったですし、お客様の動きを見ているのも興味深かったです。スーツ姿の方が立ち止まったり、近隣らしき友達同士で楽しんでいたりと、良いものを提供しているなと感じました。

中村:ここの施設にしかない、というのはまさにそうしたことだと思います。さらにこれから新たな表現がもっとできる可能性を秘めているとも言えます。惜しむらくはコロナ感染の影響で何本か催事が無くなってしまったことです。でもコロナ後、というのが朧気ながらも見えてきたとも言えますし、この先に一体どういうものが見られる、あるいは楽しめるのか。管理する立場は、ある意味一観客と同じ立場でもありますので、今後をとても楽しみにしています。

P S :潜在能力が高い施設というのは楽しみですね。今後はウィズコロナかアフターコロナかはまだまだ分かりませんが、いずれにしてもコロナ蔓延で演奏機会が少なくなったミュージシャンの方には朗報ですね。

岸本:利用の方でオーケストラの方々も含めてなのですが、この劇場で可能性を感じるところをひとつご紹介しておくと、みなさん最初はとても懐疑的になってお見えになります。それは屋外だから…といった感じです。

P S :響かないし、鳴らないね、という部分ですね。

岸本:そのとおりです。「響き」つまり反響も聴こえないだろうと。でも実際にお使いいただくと、驚いてお帰りになる方がほとんどなのです。

P S :先ほども舞台構造を拝見しましたが、舞台の内外において、響きを大切にしたとても考えられた作りをいくつも教えていただきました。具体的には舞台の側壁や背面、床といったところです。むろん電気音響も加え、それが成功していることの証しですね。

岸本:おかげさまで。ぜひまた使いたいと言っていただけますので、本当に今後が楽しみです。

P S :先ほどからのお話ですと、セールスポイントがいくつもあるようです。これは管理している側にとっても心強いことですね。

中村:それはもちろんお使いいただくみなさんが、何を求めてお見えになるのか。そうした部分には、それぞれに応えられるだけのものがこの施設にはあると管理していても、実際に感じるところです。

P S :中村さん、この劇場でできることで一番の自慢はどういったところでしょうか。

中村:やはり回答はこの点に帰結してしまうのですが、「ヤマハ」の音場支援システム「AFC」に尽きます。しかも屋外で効果が出ているところです。この点は本当に驚きであり自慢の部分です。最初に岸本が言っていましたが、起きるはずのないことが起きている。それに気付かないくらい自然なリスニングそしてモニタリングが可能であるところ。この部分はやはり秀逸で唯一無二だと思っています。

P S :テクノロジーがお客様や演者の「思い」を助けることができる、そのことは単純にうれしいものですね。

P S :岸本さん、中村さんがいま自慢であると仰ったようなところを実体験されたことはありますでしょうか。

岸本:コンサートの公演時は顕著に感じます。立ち止まってそのまま最後まで観て行かれる方がきわめて多いのです。その点が中村の言ったことを体現している現象なのだと感じますね。

P S :では最後にみなさんに聞いてみたいのですが、今後また近未来を含めてこの「池袋グローバル リング シアター」がどう成長していくことを望んでいらっしゃいますか。深井さん。

深井:あの場所に行けば何か演っていて、いつでも楽しめるから、そう言われるような公園になってほしいですね。

P S :岸本さんはいかがですか。

岸本:私もやはり、舞台を使うことに限らず、毎日何かしらの催事を行なっていることですね。日によってはサウンドスケープや噴水が楽しめる、あるいはある曜日にはクラシックのコンサートがあるなど、イベントの時はイベントを楽しむ。そうでないときは憩いの場にするような形が理想です。

P S :中村さん、どのような劇場に成長してほしいですか。

中村:まず、この「池袋グローバル リング シアター」のような劇場が、他にもっと増えても良いのかな。そのプロトタイプといいますか、第一号になるべきだと思っています。個人的にこの場所は実験劇場であるとも思っています。そうした意味では、さまざまなトライアルを行なえば新しいものも生まれるだろうと。出演者の方のリクエストにできる限り応えられる場所になればというのが理想です。

P S :それはぜひ実現して欲しいところです。今日はお忙しいなか時間をいただき、ありがとうございました。

最適な環境を維持するアンプ室に整然と並ぶ機器架群。写真左=「SHURE」の4chワイヤレス受信機「ULXD4Q」、「ヤマハ」のI/Oラック「Rio1608-D2」、さまざまな入出力がスムーズに行なえるよう考えられたパッチ盤などが収納されたラック。写真中=デジタルマルチプロセッサー「MRX7-D」、「AFC3」システムおよび残響付加プロセッサー「LAP3-AFC」、メインスピーカーを駆動する「NEXO NXAMP4×2 MK2」パワーアンプが収納されたラック。写真右=サラウンドスピーカー用のパワーアンプ「ヤマハPX8」
最適な環境を維持するアンプ室に整然と並ぶ機器架群。写真左=「SHURE」の4chワイヤレス受信機「ULXD4Q」、「ヤマハ」のI/Oラック「Rio1608-D2」、さまざまな入出力がスムーズに行なえるよう考えられたパッチ盤などが収納されたラック。写真中=デジタルマルチプロセッサー「MRX7-D」、「AFC3」システムおよび残響付加プロセッサー「LAP3-AFC」、メインスピーカーを駆動する「NEXO NXAMP4×2 MK2」パワーアンプが収納されたラック。写真右=サラウンドスピーカー用のパワーアンプ「ヤマハPX8」
最適な環境を維持するアンプ室に整然と並ぶ機器架群。写真左=「SHURE」の4chワイヤレス受信機「ULXD4Q」、「ヤマハ」のI/Oラック「Rio1608-D2」、さまざまな入出力がスムーズに行なえるよう考えられたパッチ盤などが収納されたラック。写真中=デジタルマルチプロセッサー「MRX7-D」、「AFC3」システムおよび残響付加プロセッサー「LAP3-AFC」、メインスピーカーを駆動する「NEXO NXAMP4×2 MK2」パワーアンプが収納されたラック。写真右=サラウンドスピーカー用のパワーアンプ「ヤマハPX8」

最適な環境を維持するアンプ室に整然と並ぶ機器架群。写真左=「SHURE」の4chワイヤレス受信機「ULXD4Q」、「ヤマハ」のI/Oラック「Rio1608-D2」、さまざまな入出力がスムーズに行なえるよう考えられたパッチ盤などが収納されたラック。写真中=デジタルマルチプロセッサー「MRX7-D」、「AFC3」システムおよび残響付加プロセッサー「LAP3-AFC」、メインスピーカーを駆動する「NEXO NXAMP4×2 MK2」パワーアンプが収納されたラック。写真右=サラウンドスピーカー用のパワーアンプ「ヤマハPX8」

Chapter02  
進化を続ける「AFC」音場支援システム

先のインタビューでも劇場管理の中村成志氏が話していたとおり「池袋グローバル リング シアター」における特徴に「AFC」システムの導入を代表のひとつとして挙げていたが、この「AFC(Active Field Control)」について詳細を知りたいと「ヤマハ」で「AFC」の研究・開発に従事する橋本 悌氏にメール質問をし、回答をもらった。

P S :1980年代の半ばから「ヤマハ」で取り組まれてきた音場支援「AFC」ですが、現在はバージョン4にまで進化しています。基本コンセプトや動作、またその目的を教えてください。

橋本:基本コンセプトとしては、電気音響設備・信号処理技術を使い、空間内の音響特性を自然に変化させるシステムです。基本原理としては空間内に設置したマイクロフォンで拾った音に信号処理を行ないスピーカーから再生。その音が再度同じマイクロフォンに戻ることによる音響フィードバックループを利用しています。これにより空間内の音響エネルギーを増強し、空間の音響特性を制御することができます。  
一般的なリヴァーブエフェクトとは異なり、舞台上の演者だけでなく観客席にいるリスナーの拍手などにも効果があることが特徴です。元々、「AFC」は建築的・物理的に制約のある空間において、豊かな響きを実現するためにコンサートホールの音響設計技術として開発されました。歴代プロセッサーの変遷に伴い処理能力が向上し、ハウリング制御技術や残響延長の可変幅が向上してきました。技術だけでなく、自然な響きに調整するノウハウを積み重ね、「ヤマハ」独自の感性も継承し続けてきました。第4世代では、プロセッシングパワーの向上は勿論のこと、瞬時のプリセット切り替えや、カスタマイズ可能なコントローラーになったことで、使い勝手が向上しています。  
「AFC」の導入目的としては、用途・演目に応じて空間の音響特性を変化させることで空間を多用途化する、或いは音響条件を改善するために採用されるケースが多くを占めています。その一方で、近年では会議室やカンファレンスルームでのハンズフリーのPA用途(Voice Lift)、演劇やミュージカルでのサウンドエフェクト、アリーナやスタジアムでのスポーツイベント観覧時の臨場感の補強(Crowd Enhancement)などにも導入され、その目的・アプリケーションも多様化してきています。

今後さらなる進化が楽しみな「AFC」

今後さらなる進化が楽しみな「AFC」

P S :「AFC」を用いて音場の支援を行なった時に得られる最大の効果を教えてください。また複数のパターンや現在お考えのバリエーションなどもお願いいたします。

橋本:「AFC」ができることは、空間の用途・演目に応じて最適な音響特性を実現することです。それによって、会場の稼働率の向上、会場の全座席で良い音響条件(B席、C席でも良い音響で聴ける等)を実現するなどの効果があります。私としては、その場での体験をより豊かにすることが「AFC」の最大の効果だと考えています。例えば、観客に対しての聴取体験だけでなく、演奏者に対しても豊かな演奏体験を提供することができます。前述しましたが、コンサートだけでなく演劇、ミュージカル、スポーツイベントなど「AFC」の使用が想定されるアプリケーションのすべてにおいて、その場の体験をより豊かにすることが期待できます。

P S :今回、7月8日に聴かせていただいた会場は屋外でした。基本的に反射面は舞台上と客席の床面のみ、自然残響を得にくい環境です。何か屋外専用となるような特殊な設定や、あるいは残響が少ない場合の難しさなどを教えてください。

橋本:本来「AFC」は、空間が元々持っている音響特性(反射音)を活かして、自然に音響特性を変化させるものです。一方で、「池袋グローバル リング シアター」のような屋外では、元々ほとんど反射音がない空間のため、積極的に響きを創り出す必要がありました。当施設はPA設備を利用する前提の空間であるため、舞台上に設置した固定マイクからの信号だけでなく、S/Nの良いミキサーからのライン入力を送れるようにシステムを設計しました。また、響きがない分、リバーヴとしての音質が重要なため、サンプリング形式の3D(サラウンド)リバーヴのような構成となっています。他にも響きの長さだけでなく、空間の拡がりを感じることができるように、初期反射音と残響音のレベルを個別で制御できるようにしています。屋外特有の条件としては暗騒音レベルが高いため、残響を感じづらい条件になっています(後部残響音が騒音に埋もれてしまうため)。そのため、室内で調整するときよりも少し長めになるように調整し、屋外空間でもコンサートホールや大聖堂のような響きを感じることができます。

P S :会場であるクローバルリングにおける、常設設備としての音場支援調整の方法や装置のチューニング、また現時点での達成度はどのように捉えていらっしゃるでしょうか。

橋本:利用者様からの評判も良く、屋外空間での「AFC」の音響調整の経験がなかったにも関わらず、とても満足のいくクオリティに仕上がっていると思います。そのため、達成度は満点と言えます。

天井部に複数取り付けられている「AFC」用集音マイクロフォン

天井部に複数取り付けられている「AFC」用集音マイクロフォン

音場支援環境をコントロールする独自の操作パネル

音場支援環境をコントロールする独自の操作パネル

P S :現在の最新システムは「AFC4」ですが、「ヤマハ」としてお考えになる今後の音場支援の方向性を教えてください。

橋本:今後、「AFC」は「ヤマハ」のイマーシブサウンドシステムのソリューションとして、空間の響きだけでなく音像の制御もできるようになります(海外向けのサイトになりますが巻末のURLが参考になります)。これにより、その場の音環境そのものを自在に制御することができるようになり、これまで以上にその場での体験を豊かにすることが可能です。また、「ヤマハ」グループである「Steinberg」と「NEXO」と共にソリューションを提供することで、コンテンツ制作から会場の音響システムまでトータルでサポートします。

P S :音場支援は、使われる場所や空間規模に関わらず、また音楽療法など様々な活用の可能性が考えられます。今後目標とされる活躍の場や、新しく開拓をお考えになる未来像を教えてください。

橋本:現状、本システムはシステム設計や音響調整の難しさから、導入事例の多くはコンサートホール・劇場のような専用空間の固定音響設備に偏っています。今後は、設計支援ツールや自動調整機能の拡充などにより、システム導入のハードルを下げたいと考えています。そうすることで、仮設のコンサート・イベントでの活用や、リハーサル室のような小さな空間に導入することが可能になります。また、これまではクラシックコンサートや合唱等の用途に偏っていましたが、演劇、オペラ、伝統芸能において演出の幅を広げたり、パブリックビューイング会場で本会場のような臨場感を実現したりできます。他にも、教育施設の練習室などに導入されることで本番の環境に近い練習でき、音楽教育への貢献もできるのではないかと考えます。そして個人的には、プロジェクションマッピングやデジタルアートのような照明・映像演出との親和性が高いのではないかと期待しているところです。実際、昨年の年末に「みなとみらい」で開催された「ヨルノヨ」と呼ばれるイルミネーションイベントで導入された事例があります。

P S :ありがとうございました。

参考リンク:
https://usa.yamaha.com/products/contents/proaudio/immersive/projects/index.html

「池袋グローバルリングシアターの技術面をサポートした「ヤマハ」および「ヤマハサウンドシステム(YSS)」の皆さん。後列左から、 五十嵐 拓也氏(YSS営業部東京営業所営業課)、松岡 亨氏(YSS品質管理部検査課)、橋本 悌氏(ヤマハ音響事業本部オーディオ事業統括部空間音響グループ)。前列左から、阿部 真氏(YSS技術部東京技術2課)、河野峻也氏(YSSシステム設計室)

「池袋グローバルリングシアターの技術面をサポートした「ヤマハ」および「ヤマハサウンドシステム(YSS)」の皆さん。後列左から、 五十嵐 拓也氏(YSS営業部東京営業所営業課)、松岡 亨氏(YSS品質管理部検査課)、橋本 悌氏(ヤマハ音響事業本部オーディオ事業統括部空間音響グループ)。前列左から、阿部 真氏(YSS技術部東京技術2課)、河野峻也氏(YSSシステム設計室)

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