ヤマハサウンドシステム株式会社

札幌文化芸術劇場hitaru 様 / 北海道 /
Japan / Hokkaido April. 2019

札幌文化芸術劇場 hitaru 様 /北海道/

2018年10月にオープンした「札幌文化芸術劇場 hitaru」は、道内で初となる多面舞台を備え、演劇や音楽コンサートはもちろんオペラ、バレエ、ミュージカルなど本格的な舞台芸術の鑑賞が行える、札幌における舞台芸術の新たな拠点となる劇場です。ヤマハサウンドシステムは、「札幌文化芸術劇場 hitaru」のホール音響設備、舞台連絡設備の工事を担当しました。そのコンセプトや使い勝手などについて、公益財団法人札幌市芸術文化財団 市民交流プラザ事業部 舞台技術部舞台技術課 佐藤令奈氏と、音響を担当されている株式会社北海道ステージアートアライアンス 音響責任者の杉村拓亮氏にお話をうかがいました。

公益財団法人札幌市芸術文化財団 市民交流プラザ事業部舞台技術部舞台技術課 舞台技術係 佐藤令奈氏(写真右)
株式会社北海道ステージアートアライアンス 音響責任者 杉村拓亮氏(写真左)
公益財団法人札幌市芸術文化財団 市民交流プラザ事業部舞台技術部舞台技術課 舞台技術係 佐藤令奈氏(写真右)
株式会社北海道ステージアートアライアンス 音響責任者 杉村拓亮氏(写真左)

「シンプル」をコンセプトにヤマハのデジタルミキシングシステム「RIVAGE PM10」とデジタルオーディオネットワークDanteによるデジタル伝送を中心とした音響システムを構築

● まず「札幌文化芸術劇場 hitaru」についてお教えください。

佐藤氏:
「札幌文化芸術劇場 hitaru」は「創造都市さっぽろ」の札幌における多様な文化芸術活動の中心的な拠点となることを目指して作られた複合施設「札幌市民交流プラザ」の一部を構成する、客席数2,302席の劇場です。2018年9月に閉館した「ニトリ文化ホール(旧北海道厚生年金会館)」の後継施設にもあたり、札幌の、そして北海道の舞台芸術の新たな発信地となります。

公益財団法人札幌市芸術文化財団 
市民交流プラザ事業部舞台技術部舞台技術課 舞台技術係 佐藤令奈氏
公益財団法人札幌市芸術文化財団 
市民交流プラザ事業部舞台技術部舞台技術課 舞台技術係 佐藤令奈氏
札幌市民交流プラザ。この複合施設内に「札幌文化芸術劇場 hitaru」がある

札幌市民交流プラザ。この複合施設内に「札幌文化芸術劇場 hitaru」がある

● 「札幌文化芸術劇場 hitaru」の音響システムはどんなコンセプトで設計されたのでしょうか。

杉村氏:
基本的な音響システムのプランニングを設計図書に基づいて具体的にヤマハサウンドシステムさんにご提案いただいて、そこから詰めていきました。ヤマハの「RIVAGE新PM10」と96kHzのDanteを採用したところがここのシステムの中心となっています。

株式会社北海道ステージアートアライアンス 音響責任者 杉村拓亮氏
株式会社北海道ステージアートアライアンス 音響責任者 杉村拓亮氏

● ヤマハ「RIVAGE PM10」はどの点がいいと思われますか。

杉村氏:
電源を入れて卓を触れば音が出るというシンプルなシステムを理想としているので「RIVAGE PM10」はとてもいいと思います。私のポリシーとして、音響システムはどのエンジニアが触っても簡単に扱える“シンプル”なシステムにしたいというのがあります。というのも、外部のオペレーターの方が劇場の卓を使用するケースがけっこうあるんです。そんな時、音響システムが複雑だと「ここはこうしないと音が出ません」などと、その都度操作の方法を説明しなくてはなりませんし、もしパソコンを使うシステムであれば、誤クリックや誤動作などで「音が出ない」という大きなリスクがあります。ですから、できるだけ分かりやすくシンプルで、しかもパソコンを使わずに物理的なスイッチだけで音が出るようなシステムがいいと思っています。

音響調整室に設置されたヤマハ「RIVAGE PM10」
音響調整室に設置されたヤマハ「RIVAGE PM10」

● 「RIVAGE PM10」は操作性がシンプルでアナログ感覚で扱えるということでしょうか。

杉村氏:
「RIVAGE PM10」は、デジタルミキサーでありながら、つまみやフェーダーのコントローラーで操作でき、タッチパネルもあって直感的に、パッと触れば動かせることもあり、アナログ感覚で使うことができます。

移動卓としても「RIVAGE PM10」のコントロールサーフェス「CS-R10」が導入されている
移動卓としても「RIVAGE PM10」のコントロールサーフェス「CS-R10」が導入されている

● デジタルオーディオネットワークのDanteも導入されていますね。いかがでしょうか。

杉村氏:
一般的なデジタルネットワーク技術で信頼性の高いもの、そしてシンプルでわかりやすく、将来性も含めて考えるとデジタルオーディオネットワークではDanteが最良だと考えました。こういう大きな劇場では配線距離も長くなりますので、アナログ回線は、音質面のロス、トラブルなどのリスクを考えて避け、マルチモード・光ファイバーケーブルを使用しています。

ヤマハ「RIVAGE PM10」のI/Oなどが収められた舞台袖下手のラック群
ヤマハ「RIVAGE PM10」のI/Oなどが収められた舞台袖下手のラック群

● Danteでも96kHzでの伝送は非常に先進的ですね。

佐藤氏:
ヤマハサウンドシステムのスタッフが、Danteの48kHzの音と96kHzの音を聴き比べる機会を作ってくださったんです。それで比較して聴いてみたところ、私もやはり96kHzだと思いました。

杉村氏:
Danteの96kHz伝送については、まだ採用している劇場やホールは数少ないようですが、やはり音が良かったですし、96kHz伝送にすることのデメリットもありませんでしたので、96kHzで良かったと思います。
卓からプロセッサーを経てパワーアンプまでデジタルで伝送がされていますが、その全てが96kHzで動作していることも特長ですね。

音響調整室のラック 「RIVAGE PM10」のDSPエンジン、I/Oラックなどが収められている
音響調整室のラック 「RIVAGE PM10」のDSPエンジン、I/Oラックなどが収められている

● この劇場は舞台連絡設備も充実しているとうかがいました。

佐藤氏:
「札幌文化芸術劇場 hitaru」は多面舞台を謳っていて、舞台袖が非常に広くなっています。また吊物機構が北海道初の全電動となっているため、地声だけでの安全管理はなかなか難しいということで、舞台袖用の拡声システムを用意したり、ワイヤレスインカムを導入するなど連絡設備も充実させています。

舞台袖はかなり広いスペースが確保されている
舞台袖はかなり広いスペースが確保されている

杉村氏:
ワイヤレスインカムは多少離れた場所にいても必ず周知できるので安全管理がぐんと変わると思います。ただ新しいものなので、我々使い手側がまだ発展途上という感じで、使いこなすまでには至っていません。

佐藤氏:
地声の良さも必ずあると思っていますので、ワイヤレスインカムの良さと地声を融合させて運用できれば、もっともっと便利で使いやすいものになると期待しています。

舞台連絡用の機器。手前にあるのがワイヤレスインカム
舞台連絡用の機器。手前にあるのがワイヤレスインカム

ヤマハサウンドシステムのHYFAX機器が活躍

● 音響用システムの中でヤマハサウンドシステム製であるHYFAXのプロセッサーを導入されていますが、それらの役割と使い勝手について教えてください。

杉村氏:
音響システムは、「RIVAGE PM10」を中心に構築していますが、「RIVAGE PM10」からの出力はマトリクスプロセッサー「LDM1」を介し、そしてアコースティックメジャーメント/EQプロセッサーの「AMQ3」に入り、さらにもう一基のプロセッサーを通ってアンプに入っています。また、アンプの出力をモニターするデータロガーシステム「DL3 System」も導入しています。「LDM1」「AMQ3」「DL3 System」がヤマハサウンドシステムさんのHYFAX機器となっています。

● まずアコースティックメジャーメント/EQプロセッサーのHYFAX「AMQ3」について、どのように使われているか教えてください。

杉村氏:
「AMQ3」は音場にあわせて音質(イコライザー)やディレイの調整を行うものですが、初めて説明を受けた時は、これさえあれば誰でも音場補正チューニングができちゃうんじゃないかと思いました。実際、非常に短時間で精度の高い音響調整を行うことができます。「AMQ3」は劇場空間のベースチューニングで使っているので普段は基本的に触りませんが、持ち込みのスピーカーなどがあった場合、常設のスピーカーとディレイのズレがあるので、そういう場合は「AMQ3」で調整します。

音響調整室に設置されているHYFAX「AMQ3」(ラック中段)
音響調整室に設置されているHYFAX「AMQ3」(ラック中段)

● 「AMQ3」のメリットはどんなところにありますか。

杉村氏:
理想通りのEQが簡単にできる点、そしてたくさんEQを使ってもレイテンシーが非常に短い点ですね。音響システムにおいてレイテンシーは本当に大きな問題なので、極めて低いレイテンシーで処理できることは大きなメリットだと思っています。96kHzで動作していることもメリットですね。

佐藤氏:
最終的な出音がよいというイメージがあります。客席形状に合わせて補助スピーカーが各所に設置されているんですが、メインスピーカーとの音質がそろっているというか、運用がとてもしやすいです。あと、外部からの持込みスピーカーに設備のスピーカーで補助をすることもあるのですが、持ち込まれるスピーカーのブランドに関わらずスムーズというか、自然な感じがします。これはd&b audiotechnikさんのスピーカーも素晴らしいと思いますが、「AMQ3」での調整もうまくできているんだと思います。

● マトリクスコントローラーHYFAX「LDM1」はどのように使われているのでしょうか。

杉村氏:
「LDM1」は120入力×120出力のマトリクスなので、クロスポイントの画面が細かくて触りたくないなぁと思ったのが正直な第一印象です(笑)。でも触ってみるととても使いやすくて、ミキサーに近い形なので取説を見なくても使えました。ベースチューニングは「AMQ」で調整しているんですが、私たちの音作りは「LDM1」で行ってプリセットしています。外部の音響スタッフさんが使う際「EQを抜いてもらっていいですか」と言われたら、「LDM1」でEQを抜いたシーンを作ってあるので、そのプリセットを呼び出す、といった使い方をしています。電源を入れて必ず立ち上がるのは「LDM1」なので、ここにさまざまな設定をプリセットしてあります。
この「LDM1」も96kHzで動作しているので、システム全体で96kHzが成立していますね。

音響調整室に設置されているHYFAX「LDM1」(写真手前)
音響調整室に設置されているHYFAX「LDM1」(写真手前)

● データロガーシステムのHYFAX「DL3 System」についてはいかがでしょうか。

杉村氏:
音響システムにおいて音量管理、いわばメーターが生命線なのですが、ミキシングコンソールのレベルメーターだけではどうしても限界があります。データロガーは、アンプの異常検知・記録を行う出力監視システムなんですが、レベル表示の部分をデータロガーでカバーしています。データロガーでアンプの出力だけで見ていてどれくらいわかるのか、という懸念は最初はありましたが、実際やってみたら、データロガーの数値さえ覚えてしまえば、ある程度正確に出てくれるのでストレスなく作業できています。

音響調整室のヤマハ「RIVAGE PM10」の右隣にデータロガー用のモニターが設置されている

音響調整室のヤマハ「RIVAGE PM10」の右隣にデータロガー用のモニターが設置されている

アンプ室のラックに設置されたマトリクスコントローラー(信号処理部)HYFAX「LAP4S-LDM120」

アンプ室のラックに設置されたマトリクスコントローラー(信号処理部)HYFAX「LAP4S-LDM120」

アンプ室に設置されたアンプ群。アンプ群にはそれぞれデータロガーシステムのインターフェースHYFAX「DL3SA」が設置、d&b audiotechnikのパワーアンプ電源は200Vで駆動されている

アンプ室に設置されたアンプ群。アンプ群にはそれぞれデータロガーシステムのインターフェースHYFAX「DL3SA」が設置、d&b audiotechnikのパワーアンプ電源は200Vで駆動されている

ヤマハサウンドシステムは竣工後もさまざまな提案をしてくれる

● 最後にヤマハサウンドシステムについて、お聞かせください。

佐藤氏:
本当なら既存設備の保守だけでいいところを、竣工後においても私たちの要望に対してさまざまなことをヤマハサウンドシステムさんが追加工事の提案をしてくださいました。具体的には3階にクリエイティブスタジオというスペースがあります。ここは単独の公演も行うスペース兼稽古場なのですが、バレエなどの大きな舞台がある場合にはダンサーさんなどの大きな楽屋として使用する場合があります。クリエイティブスタジオには今まで劇場側からの呼び出しなど連絡システムがなかったので、楽屋として使用する際に仮設でシステムを組んでいたのですが、これをスピーカーから流せるようにしてもらっています。また奈落にも呼び出しを追加してもらいました。実際に公演で使ってみたらオーケストラピットで演奏する奏者さんが奈落で休憩することがあり、これもあとから必要になったので札幌市から追加工事としてお願いしました。

3階のクリエイティブスタジオ
3階のクリエイティブスタジオ

● 実際の運用に合わせて、使いやすくなる提案をする、ということでしょうか。

杉村氏:
はい。竣工後、実際に劇場の運営が動き始めると、さまざまな変更点や改善したい点が出てきます。そういった点をよく見ていて、より使いやすくなるような提案をしてくださいます。そんなきめ細やかな柔軟性と、それを実現する技術力と対応力が、ヤマハサウンドシステムさんのいいところだと思います。 僕がヤマハサウンドシステムさんにお願いしたときに不安だったのは、東京にいるヤマハサウンドシステムの技術者の方々が、何かあったらその都度北海道に来てくださるか? ということでした。つまり距離の問題です。でも、実際は札幌にいるんじゃないかと思うくらい頻繁に足を運んでくださっていて、僕はすごくありがたいと思っています。それぐらい身近に感じられるような対応をしてもらっています。

3階のクリエイティブスタジオ

佐藤氏:
札幌市も行政として熱意を持ってこの劇場施設を良くしようと思っていることを感じています。我々劇場スタッフと、施工・保守のヤマハサウンドシステムさんと、そして札幌市との三者が、この劇場をより良くしていこうという同じゴールを向いていますので、すごくいい芸術文化の場にできるのではないかと思っています。

3階のクリエイティブスタジオ

● 本日はお忙しいところお時間をいただきありがとうございました。

[設計]  日建設計・北海道日建設計 共同企業体
[元請]  大成・岩田地崎・伊藤・岩倉・丸彦渡辺 共同企業体

札幌文化芸術劇場 hitaru

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