高崎芸術劇場 様 / 群馬県 /
Japan / Gunma April. 2020
提供:高崎芸術劇場
2019年9月20日に上信越・北関東最大級のホールとして開館した「高崎芸術劇場」。群馬県JR高崎駅から徒歩5分の好立地で、栗梅色の色彩が美しい2,027席の大劇場、スタンディングで1,000人収容できるスタジオシアター、さらに本格的な音楽ホールを備えています。設計・監理は株式会社 佐藤総合計画、施工は竹中・東鉄・佐田特定建設工事共同企業体、公益財団法人 高崎財団が指定管理者として運営をしています。ヤマハサウンドシステムは同劇場の音響設備、舞台連絡設備の工事を担当しました。 ホールの音響設備や特長、そして今後の展望などについて、高崎芸術劇場部舞台技術課の小見直樹氏と、同 音響担当の長門祥平氏にお話をうかがいました。
「創造と発信」をコンセプトとした、上信越・北関東の新たな文化の殿堂
● まず「高崎芸術劇場」についてご紹介いただけますか。
小見氏:
「高崎芸術劇場」には”創造と発信。進化と継承”というコンセプトがあります。まず”進化と継承”ですが、高崎市には群馬交響楽団のホームグランドでもあり、非常に歴史が長い「群馬音楽センター」という音楽ホールがあるのですが、規模を同等としながら現代の公演の要求に対応できる形で本劇場は誕生しています。また、”創造と発信”は音楽の練習や作曲などが行えるリハーサル室を備えており、実際に舞台に立つような創造をする、もちろん、鑑賞の場として質の高い舞台芸術を発信していくことを示しています。
● 高崎芸術劇場には3つのホールがありますね。
長門氏:
「群馬音楽センター」を継承した2,027席の大劇場に加えて、高崎は日本を代表するロックバンド「BOØWY」が生まれたバンドの街でもあるのでスタンディングで1,000人収容できるライブハウス「スタジオシアター」を持っています。さらにアコースティック楽器専用で残響時間2.1秒と北関東でも随一の豊かな響きを持った「音楽ホール」も併設しています。「高崎芸術劇場」はこの3つのホールで構成されています。
大劇場は調整卓にヤマハ「RIVAGE PM7」を導入
デジタルオーディオネットワークDante伝送で運用し、再生系はラインアレイスピーカーをセンターと左右に配置
● まず大劇場からおうかがいします。音響調整卓として「RIVAGE PM7」を導入した理由を教えていただけますでしょうか。
小見氏:
いまは劇場でもデジタルオーディオネットワークの時代である、という前提がありました。デジタルオーディオネットワークにもいろんなフォーマットがありますが、Danteが主流になってきていますので、Danteに最適化されたミキサーであることを選定の第一条件としました。
● 大劇場ではDanteを96kHz伝送で運用されていますね。
小見氏:
大劇場は高音質で音声を伝送できる96kHzのDanteを採用することに決めたうえで機材の選定を行いました。機能や入力数から当初は「RIVAGE PM10」を想定していたのですが、選定中に「RIVAGE PM7」が発表され、設計・監理を行っている佐藤総合計画さん、コンサルタントの永田音響設計さんと検討した結果、「RIVAGE PM7」に変更しました。予算の点もありますが、オーディオネットワークのフォーマットをDanteだけで完結したいという点もありました。
● 大劇場のスピーカー構成について教えてください。
小見氏:
大劇場にはステージのセンターと下手上手にラインアレイスピーカーを用意しています。またサブウーファーに関してはラインアレイのクラスターの上に積んでいるものと舞台の床置きのものもあります。劇場常設としては能力の高い出力システムを用意しています。
ライブハウスに負けないパワーが出せるスタジオシアターの音響システム
● スタジオシアターの調整卓ではヤマハ「QL5」を導入いただきました。
長門氏:
スタジオシアターでは「QL5」を3台使うことができます。コントロールギャラリーに設置したものとPAブースにて使う移動卓が1台、さらに舞台袖にモニター卓が1台という構成にできます。スタジオシアターはライブや演劇などいろいろな用途で使えるホールです。ホール空間と機材を合わせてお貸しするケースも多いため、どなたにでも使えるような操作性を重視しました。「QL5」は音響をやっている多くの方が扱えるのではないでしょうか。
小見氏:
スタジオシアターを利用する際にうちにあるホール機材をどんどん運用してください、とアピールしているんです。主催者の方もアーティストに「自分のマイク1本だけ持って来れば大丈夫です」という触れ込みで声がけしていると聞いています。
長門氏:
大劇場は音響調整卓を含めDanteの96kHz伝送を行っていますが、スタジオシアターも「QL5」から後はDanteの96kHz伝送で統一しています。移動用の「RIVAGE PM7」を持ち込めばスタジオシアターでも96kHzでライブが行えます。実際にすでにロック系のライブなどでは「RIVAGE PM7」を使って96kHzでライブを行っています。やはり迫力がありますね。
●スタジオシアターのスピーカー構成について教えてください。
小見氏:
こちらもセンターのスピーカーに加えてラインアレイスピーカーを下手上手に配置し、さらに重低音が再生できるサブウーファーも左右に設置しています。スタジオシアターは「高崎=バンドの街」ということでライブハウス的な用途も考えたホールです。ですからスピーカー構成に関しても、ライブハウスに負けないレベルのパンチがあるサウンドが出せていると思います。
センタースピーカーはd&b audiotechnikの「E12-D」を1台、「E8」を2台です。下手上手のラインアレイスピーカーは大劇場と同じd&b audiotechnikのVシリーズで、片側に「V8」が5台、「V12」が3台、サブウーファーの「J-SUB」が3台、インフィルに「E12」という構成です。
● サブウーファーがすごいですよね。二階の手すりには移動用のスピーカーが設置されていました
長門氏:
二階の手すりには移動できるスピーカーがあり、用途に応じて位置を変えることができます。実はスタジオシアターには高精度のプロジェクターも用意していて定期的に映画上映会も行っており、その時には7.1サラウンドの再生環境にしています。その場合には移動スピーカーをサラウンド用として使用しています。
● スタジオシアターはライブハウスのような空間ですから、ロック系のライブなどはかなり盛り上がるのではないでしょうか。
小見氏:
まだオープンして間もないのですが、先日はクレイジーケンバンドのライブがかなり盛り上がりましたね。スタジオシアターはスタンディングでアルコールを含めてドリンクOKなので、本当にライブハウス寄りです。公共施設のホールとしてはユニークだと思います。
音楽ホールでは壁面埋め込み型スピーカーを採用
● 音楽ホールはどのように使われているのでしょうか。
小見氏:
音楽ホールは、生演奏に特化したホールで音響機器を使うのは主にMCですね。また、この音楽ホールは建築的にホールの響きがとても良く、レコーディング用途の予約が数件入っています。一週間程度ホールを貸し切りにしてクラシックのピアノやバイオリン、声楽などの録音が行われます。レコーディングの際にはマイクの音声をステージのコンセント盤からDante経由で音響調整室のヤマハ「QL5」に立ち上げる、といった使い方をしています。
● 音楽ホールのスピーカーについて教えてください。
小見氏:
建築意匠の面からスピーカーはつけたくないという意向もあったようですがクラシックのコンサートでもMCをする機会が増えていますので、スピーカーはホールの雰囲気を壊さないように埋め込みとなっています。主にd&b audiotechnikの棒状のスピーカー「24C」、「16C」で構成しています。
● 音楽ホールでは二階席の足元にコンパクトなヤマハ「VXS1MLW」とサブウーファーの「VXS3SB」を導入いただきました。これはどういう理由だったのでしょうか。
小見氏:
最近のコンサートは演奏だけでなく曲の間にMCをするアーティストも多いのでアコースティックのホールであっても電気音響は大切です。ここの音楽ホールの一階席には壁面にスピーカーが埋め込まれていますが二階席用として手すりの下にコンパクトなサーフェスマウントスピーカー「VXS1MLW」を2席に1つずつの割合で合計40基、埋込金具を使用して設置しています。また中低域を補強するサブウーファーの「VXS3SB」を座席下の床面に合計18台設置しています。
● 実際に運用してみた感想はいかがでしょうか。
小見氏:
足元にあるスピーカーはかなり効果を発揮していると思います。最近は演奏の合間にトークをする方が多いですが、残響が長いこの空間でもすっきり聞こえます。
タッチパネルによる連絡システムや、
ヤマハ「RIVAGE PM7」、「QL5」はiPadでの遠隔操作のメリットが大
● 館内連絡システムにタッチパネルの連絡システムを今回導入されましたが、使用してみた印象はいかがでしょうか。
小見氏:
正直に言うと最初は戸惑いがあったんですけど、使っているうちに押さえていくべきポイントがわかってきたんです。音を出したくないエリアをタッチすればMUTEでき、自由に設定できますし、今ではとても便利に使っています。またトークバックや楽屋呼び出しができ、貸館をした時に舞台監督さんが便利だと仰ってます。
あと画面は任意で登録ができ、ページもめくれるので慣れてくるといろんな設定もできます。これにより設置スペースが小さいこともメリットです。
最初は何パターンか作っていろいろ試してみたんですけど、最近は任意でどこを出したいか、あるいはオールオフか、と選択するだけなのですごく楽になりました。
特に音響調整卓以外は全て袖に集中しており、調整室に行かないとできないことがないんですよ。うちの若いスタッフはこのタッチパネル操作に慣れるのが早いですね(笑)。袖で連絡システムのすべてを作業できるということもとてもいいです。
● 実際に「RIVAGE PM7」や「QL5」を導入してみて使い勝手はいかがでしょうか。
小見氏:
圧倒的に便利なのはiPadの「StageMix」で、ミキサー本体から離れた場所で操作ができることですね。舞台袖やステージで音を聴きながら操作できるのは画期的です。以前はどうしても調整室に缶詰にならざるを得なかったんですが、「RIVAGE PM7」や「QL5」なら、もう調整室から飛び出してオペレートできちゃう感覚です。特にライブハウス的な使い方をするスタジオシアターではメリットは大きいです。
長門氏:
僕は「RIVAGE PM7」のSILKプロセッシングがとても気に入ってます。SILKを通すだけでぐっといい音になるんですよ。いろんなところで使いまくっています(笑)。
小見氏:
便利なので使いすぎているところがちょっと気になりますが(笑)。そのほかDan Duganオートマチックミキサーもトークショーなどで複数の話者がいるときには使い勝手がいい機能ですね。正直に言うと、ミキシングを学んでいる若手には、ちょっと便利すぎるんじゃないかなと心配しています(笑)。
市民が音楽や文化を発信する場所としての高崎芸術劇場
● まだオープンして間もない高崎芸術劇場ですが、今後どのような施設になれば良いと思いますか。
小見氏:
まだ動き始めたばかりですので、運用をしながら細かくチューニングをし、さらによい音のサービスをめざしているところです。スタッフとしてもやりがいのあるホールです。スタジオシアターはデッドな建築音響特性を持ち、とても音づくりがしやすく、ステージの奥行きを3間、5間、7間そして平土間と変えられて多機能です。電気音響面でもさまざまなトライができるので、オペレーションしていても面白いホールです。長門くんを見てると、ちょっとやり過ぎかな、と思うぐらいです(笑)。
長門氏:
スタジオシアターはライブハウス的な使い方でロック系のライブも行っていますが、一方で市民のための映画上映も定期的に行っています。いろんなことが行われるので、やりがいがありますね。
小見氏:
高崎市は「音楽のある街、高崎」と言われていて、日本有数のオーケストラである群馬交響楽団もありますし、「BOØWY」をはじめ、ロックやポップスの分野でも多くのアーティストを輩出しています。それに合唱や吹奏楽が盛んな街なので、「高崎芸術劇場」には大きな期待が寄せられていると思います。ここにいらっしゃるお客さまも、いつか自分も舞台に立ってみたいという演者目線で見てくださっています。第一線のプロの演奏が見られるだけでなく、地元の方が音楽を発信する場にもなっていければいいなと思っています。
● 本日はありがとうございました。
ミニインタビュー
株式会社 佐藤総合計画で行った「高崎芸術劇場」の設計・監理において、音響コンサルティングを担当した株式会社 永田音響設計の稲生眞氏にホールの音響コンセプトや設置したスピーカーについてお話をうかがいました。
● 「高崎芸術劇場」の音響について教えていただけますか。
稲生氏:
まず前提として「高崎芸術劇場」の音響で良かった点は、実際に劇場を運営する側の高崎財団が設計の時点から入っていたことです。その結果、設計時点で運用の企画を含めた練り合わせができ、それを音響の必要条件に落とし込んでいくということができました。
● 具体的な機材についてうかがいます。まず大劇場の特長を教えてください。
稲生氏:
「高崎芸術劇場」の大劇場は2,027席と、収容人数が大きいホールなんですよ。日本でも有数の大きさです。この大劇場にはラインアレイスピーカーを下手、上手とセンターの3本入れています。ラインアレイは3ウェイ構成です、さらにサブウーファーをアレイの上に積んでいます。そして下にはより低域を再生するスーパーサブウーファーを袖に床置き設置しているので、5ウェイ構成となっています。
● 劇場としてはかなりスピーカーが充実していると言えるのでしょうか。
稲生氏:
他と比較すればそうかもしれませんが、基本的にホールの固定設備の音響は、式典や講演会でのスピーチ用の拡声がベースとなっているので、ポップ系コンサート用に足りているとはいえません。80年代の終わり頃にコンサート用スピーカーの「設備仕様」を各メーカーから発売され、設備でもそれらが一般的に使えるようなりました。大劇場はコンサート用スピーカーを5ウェイで構成しました。それでも非常に広いホールなので低域減衰もありサイズからすると、ポップ系コンサートをするにはもっと欲しいって思いますね。
ただ「高崎芸術劇場」の場合はスタジオシアターに同じ超低域用のサブウーファーがあり、これをスタジオシアターから大劇場に移動して使うことも想定しています。どちらかが故障した場合にすぐに差し替えられるという運用の安全性も含めた考え方です。
● 大劇場ではDanteの96kHz伝送も行っていますね。
稲生氏:
音質のクリアさとは、スピーカーだけの問題じゃなくて伝送系もあるわけです。しかも単にクリアなだけではなく「自然でよい音」と感じられる音にするにはどうすればいいかを論議し、調整卓に選定したヤマハの「RIVAGE PM7」も96kHzに対応していたので、96kHz伝送にしました。
● やはり48kHz伝送と96 kHz伝送では音が違いますか。
稲生氏:
絶対的にどちらかがいいというわけではありませんが、私は96kHzの方が自然な感じがします。きめが細かく、密度が高い印象です。ただしこれらは測定しても特性としては出てこないので、自分の耳で聴いて判断するしかありません。
● スタジオシアターはいかがでしょうか。
稲生氏:
ここはプロのロックミュージシャンが来て演奏する場所でもある、ということでしたので、どこのライブハウスにも太刀打ちできるような音響システムにしています。
さっきも言いましたが、ここにはラインアレイに加えて大劇場と同じ超低域用のサブウーファーがあります。音量的には十分だと考えています。
● 音楽ホールはいかがでしょうか。
稲生氏:
音楽ホールは結構苦労しました。生楽器を演奏するコンサートホールだから、スピーカーは一切入れたくない、という考え方もまだ根強くあります。ただチェレスタなどの弱音楽器っていうのがあって、これらは音量バランス的に補助をする必要があります。
またここ15年ほど前からクラシックでは「エデュケーショナルプログラム」が増えてきました。エデュケーショナルプログラムとは、音楽愛好家を増やすためにステージで曲の解説をしたり時代背景を説明するコンサートです。さらに通常のコンサートでも演奏者がステージ上でMCをする機会が増えてきました。そうなると、マイクでの音声がお客さまにきちんと聞こえる必要があります。そのためには電気的な拡声装置は必須です。
● とはいえ音楽ホールにはスピーカーが一見、みあたりません。
稲生氏:
最初はステージの正面にラインアレイを吊るしたらどうかと提案しました。そのほうがちゃんと聞こえるし、音像定位もステージに向きます。でも「スピーカーがあるのはダメ」というお客さまもやはりいらっしゃるのでスピーカーは隠したい、ということになり、1階はホールの壁面に埋め込んでいます。台数としては舞台向きのはね返り×1、メインスピーカー×1、補助スピーカー×2の4本が両サイドに埋め込まれており、合計8本のスピーカーがあります。
● 2階には補助スピーカーが設置されています。
稲生氏:
2階も本来は壁に設置したかったのですが、意匠上の問題で2階の壁面への設置が難しいということになり手すりの下に小型のスピーカーを設置しています。選定したヤマハのサーフェスマウントスピーカー「VXS1ML」は手すり下に入るというサイズ、首が振れる点、そしてサブウーファーと組み合わせられるということで選定しました。サブウーファーがあると全然自然さが違います。
ホールの電気音響は常に意匠や建築構造的な問題と隣り合わせになります。音楽ホールでは特にそこを調整しながらいい音にするのが一番の難関でした。
● 本日はありがとうございました。
稲生 眞 氏 プロフィール
1953年愛媛県生まれ、1975年 株式会社 永田音響設計入社、現在、理事。サントリーホール、幕張メッセ、新国立劇場、秋吉台国際芸術村、新木場STUDIO COAST、座高円寺、新歌舞伎座、臺中国家歌劇院、高崎芸術劇場、渋谷公会堂など200館以上の音響設計や舞台音響設備計画を担当。音響技術のみならず、舞台芸術の上演を支える活発で使いやすい劇場・ホールをめざす。
[設計]株式会社 佐藤総合計画
[音響コンサルタント]株式会社 永田音響設計
[劇場コンサルタント]株式会社 シアターワークショップ
[元請]竹中・東鉄・佐田高崎文化芸術センター(仮称)建設工事特定建設工事共同企業体
外部リンク
オタリテック【 d&b audiotechnik 製品導入事例 】
サウンド&レコーディングマガジン【心に届く音を創る ヤマハサウンドシステム Vol.5:高崎芸術劇場 】
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