1979年に開館し、秋田県湯沢市の芸術・文化の拠点として長年親しまれてきた「湯沢文化会館」。同館は大規模な改修工事を経て2025年4月にリニューアルオープンし、さらにネーミングライツの導入により2026年6月から「秋田エプソンゆざわホール」として新たなスタートを切りました。ヤマハサウンドシステムは「音楽のまち“ゆざわ”」を象徴する同館の音響システムの改修工事を担当しました。今回は、改修の概要や実際の運用状況について、「秋田エプソンゆざわホール」のご担当者の方々にお話をうかがいました。
(前列:左より)
湯沢市社会教育施設マネジメントグループ 全施設長 須田 豊 氏
同 事務統括 古川 洋一 氏
株式会社ライナーハウス 県南事業部 遠田 圭佑 氏
同 木村 潔 氏
秋田県湯沢市教育委員会事務局 教育部 生涯学習課 社会教育班 阿部 吉彦 氏
同 照井 匡毅 氏
(写真後列:左より)
ヤマハサウンドシステム株式会社 営業部 仙台営業所 岩沢 直樹
同 技術部 技術2課 上田 淳
同 設計部 システム設計2課 来栖 真弓
「音楽のまち“ゆざわ”」の象徴であり
豊かな音楽文化を発信する拠点
● まず「秋田エプソンゆざわホール」についてご紹介ください。
照井氏:
「湯沢文化会館」は湯沢市民の芸術文化活動や生涯学習活動の普及・振興を図り、それらを支援する施設です。1979年の開館当初から周辺地域で最大規模の文化施設として、多くの方々に親しまれてきました。
秋田県湯沢市教育委員会事務局 教育部 生涯学習課 社会教育班 照井 匡毅 氏
阿部氏:
「秋田エプソンゆざわホール」という愛称は、市の財源確保としてネーミングライツを導入したことに由来します。地元・湯沢市に拠点を置く「秋田エプソン株式会社」様にネーミングライツパートナーとしてご参画いただき、契約を締結することとなりました。この愛称は、秋田エプソン株式会社様の創業40周年の記念事業に合わせ、2026年6月19日から使用されています。
秋田県湯沢市教育委員会事務局 教育部 生涯学習課 社会教育班 班長 阿部 吉彦 氏
● 「音楽のまち”ゆざわ”」の取り組みについても教えてください。
阿部氏:
湯沢市は、市内中学校の吹奏楽部や合唱部が全国大会にも出場するなど、音楽活動が非常に盛んな地域です。そうした背景のもと、2008年8月に「音楽のまち”ゆざわ”」を宣言しました。その取り組みのひとつとして、同年に第1回「サマーミュージックフェスティバル」を開催しました。合唱や吹奏楽をはじめ、若手演奏家による演奏、キッズステージ、グループパフォーマンスなど、市民参加型の音楽イベントとして親しまれており、今年で18回目を迎えます。
また、毎年3月には「スプリングミュージックフェスティバル」を開催しています。こちらは児童・生徒や湯沢市にゆかりのある演奏家をお招きし、地元のみなさまの前で演奏を披露していただくイベントです。
● 吹奏楽をはじめ、音楽が大変盛んな土地柄なのですね。
須田氏:
湯沢市は吹奏楽が大変盛んな地域です。地域内で社会人の吹奏楽団体が3つも活動しているというのは、湯沢市の文化的な成熟度を示す大変誇らしいことです。社会人になってからも音楽に打ち込み、表現活動を続けられる環境があることはとても素晴らしいことだと感じています。
また、当館は市民のみなさまへ本格的な文化芸術に触れる機会を提供する拠点でもあります。フルオーケストラの演奏会やミュージカル、落語、お笑いなど、ジャンルを問わず質の高い催しを開催し、多様な文化を楽しんでいただけるよう努力しています。
湯沢市社会教育施設マネジメントグループ 全施設長 須田 豊 氏
● これまでにどのような催しが行われてきたのでしょうか。
古川氏:
クラシックでは、山形交響楽団や仙台フィルハーモニー管弦楽団による公演を開催してきました。また、ポップスやロックなど、幅広いジャンルの著名アーティストをお迎えしてきました。これまでに、高橋優さん、きゃりーぱみゅぱみゅさん、森高千里さん、岩崎宏美さん、浜崎あゆみさんなどにご出演いただいたほか、最近では岩本公水さんやゴスペラーズさんのコンサートを開催しました。
湯沢市社会教育施設マネジメントグループ 事務統括 古川 洋一 氏
多くのアーティストを魅了する良質な建築音響を誇るホール
● 多くのアーティストからこのホールが選ばれる理由や特長は何でしょうか。
古川氏:
やはり「音響の良さ」が一番だと思いますね。来館される一般のお客様からも「とにかく音が良い」とお褒めの言葉をいただきます。
照井氏:
実際にこのホールの響きを気に入ってくださるアーティストは多く、矢沢永吉さんは全国ツアーをスタートする際に、当館で数日間にわたってリハーサルを行いました。優れた音響に加えて舞台に十分な奥行きがあって使いやすいこと、都市圏のホールに比べてスケジュールが確保しやすいこともあると思います。
秋田エプソンゆざわホール 大ホール
音響が高く評価されている背景には、設計段階から音響性能を重視し、ホールの構造や形状が緻密に検討されたことがあります。そのため2023年から2024年にかけて実施した大規模改修の際も、構造や素材を極力変えず、従来の響きを維持できるよう細心の注意を払いました。
● 中ホールには、どんな特長があるのでしょうか。
照井氏:
中ホールは平土間で椅子が可動式となっていて、最大320席のキャパシティです。大ホールの規模や機能とは異なる催し物の受け皿としても活用されています。主に演劇や落語、講演会などの催し物が多いですね。
秋田エプソンゆざわホール 中ホール
また、床がフローリングのため、アルコール飲料を含む飲食を伴うイベントを開催できることも特長のひとつです。指定管理者制度への移行をきっかけに実現した取り組みですが、実施してみると大変好評でした。今後は屋外広場にステージを設けてキッチンカーを招き、飲食と音楽を楽しめるフェスティバルのような催しなど、館全体を活用した取り組みを広げていきたいと考えています。
音響システムのフルデジタル化で、
明瞭なサウンドと効率的な操作性を獲得
● 2023年から2024年にかけて実施された大規模改修の概要についてお聞かせください。
照井氏:
躯体自体は耐震基準を満たしていたため外観はほぼ変わっていませんが、設備面を刷新しました。照明のLED化やトイレ・空調設備の更新によって施設全体の快適性向上や環境負荷の低減と同時に、音響システムについてもアナログからフルデジタルに刷新しました。
● 音響調整卓、ヤマハのデジタルミキサー「QL5」の使い勝手はいかがでしょうか。
遠田氏:
直感的に操作できて、やりたいことがすぐにできる卓です。個人的には以前から扱い慣れていたモデルだったため、スムーズに導入できました。
音響調整室のデジタルミキサー ヤマハ「QL5」
株式会社ライナーハウス 遠田 圭佑 氏
木村氏:
私は以前、舞台袖に仮設していたヤマハの「TF1」の操作に慣れていたため導入当初は「QL5」への移行に少し戸惑いもありました。ですが実際に運用してみると、業務において利便性の高い機能が備わっており、今では扱いやすいと感じています。
株式会社ライナーハウス 木村 潔 氏
● 大ホールのメインスピーカーがNEXO「GEO M12シリーズ」に更新されました。音の印象はいかがですか。
木村氏:
もともと建築音響自体は素晴らしいホールですが、以前はマイクを通した拡声音に関しては標準的な印象でした。それがNEXOに更新されたことで、明瞭性が大きく向上したと感じています。
マイクを通した第一声を聴いた瞬間、その違いに驚きましたし、BGMなどの音を出した時の音質も良くなったと実感しました。
大ホール プロセニアムスピーカーが収まる天井部分
遠田氏:
メインスピーカーについてですが、大ホールはNEXOの「GEO M12シリーズ」、中ホールは同じくNEXOの「P+シリーズ」を中心に構成しました。大ホール、中ホールともにサブウーファーを使用していないのですが、中低域が非常に豊かだなと感じました。また出力に十分余裕があるので、必要以上に音量を上げなくてもしっかりと音が届きますし、EQで補正しなくても自然な音を再生できます。例えば吹奏楽演奏会でソロ楽器を拡声する際も、過度な拡声感を与えることなく、生音と自然に調和しながら後方席までクリアに音を届けることができます。
● HYFAXのデータロガーシステム「DL3 System」を使用した感想はいかがですか。
遠田氏:
主にパワーアンプの出力監視で使用していますが、レスポンスが速く安定感もあります。視認性の高い画面デザインに作ってもらって助かっています。

HYFAXのデータロガーシステム「DL3 System」ディスプレイ

「DL3 System」データロガーマスター
● HYFAXの電動吊マイク装置「MHN1」を使用した感想はいかがですか。
遠田氏:
昇降時の駆動音がとにかく静かで感動しました。他の現場でも3点吊マイクを操作したことがありますが、これほど静粛なシステムは初めてです。動きも滑らかで非常に扱いやすいです。

HYFAXの電動吊マイク装置「MHN1」マイク部

「MHN1」リモート操作器
木村氏:
以前の吊マイクは経年劣化が進んでいたため運用に不安がありました。当時は天井を見上げながら感覚で位置調整をしていましたが、「MHN1」は数値をセンチ単位で入力するとワンタッチで正確に狙った位置へ制御できます。すごい進化だな、と驚いています。
地域密着型ホールを支える現場志向の
設計・施工と手厚いサポート
● ここからはヤマハサウンドシステムの担当者に話を聞きます。設計の来栖さんは、どんなコンセプトでシステムを設計したのですか。
来栖:
音響システムの基幹伝送をアナログからDanteによるフルデジタルに転換することが大きな目的でした。一時休館を伴う大規模改修という機会を活かし、アンプ室から舞台袖まで光ファイバーケーブルを新設するとともに、舞台袖にはネットワーク盤を増設しました。ヤマハ製品とNEXO製品を組み合わせ、パワーアンプまで含めてシステム全体をDanteで統一したことで、将来的なシステム拡張にもフレキシブルに対応できます。
ヤマハサウンドシステム株式会社 設計部 システム設計2課 来栖 真弓
来栖:
また、大ホールと中ホールでシステム構成や機器構成を可能な限り統一している点も特長です。これによって、どちらのホールでも同じ操作感で扱えます。さらに、もう一つの狙いとしてバックアップ体制の強化があります。万が一どちらかのホールで機材トラブルが発生しても、相互に機材を融通しながら運用を継続できるようにしました。
● 施工管理を担当した上田さんが特にこだわったポイントは何ですか。
上田:
今回の工事では、まず天井を吊る二次鉄骨の耐震補強が行われました。そのため、私たちはこの耐震補強工事に先立ち既存スピーカーを取り外し、工事完了後に新たなスピーカーシステムの取り付けを行いました。その際、既存の配線用開口を使って古いアナログ回線を撤去し、新たな回線を引き直しました。しかし、限られたスペースの中で施工する必要があったため、どの回線を撤去するかの選定には苦労しました。また、新たな配線ルートの確保が必要な箇所については、建物の躯体にダメージを与えないように事前にX線撮影による調査を実施し、鉄筋のない箇所を正確に確認した上で施工を進めました。建物への影響を最小限に抑えながら施工を行ったことが、特にこだわったポイントです。
ヤマハサウンドシステム株式会社 技術部 技術2課 上田 淳
上田:
また、大ホールのプロセニアムスピーカーにおいては、3ウェイのポイントソーススピーカーからラインアレイへの更新となったため、吊り込み構造を一から見直す必要がありました。施工方法の検討や拡声時のスピーカーの揺れをどのように制御するかについて試行錯誤を重ねましたが、その結果、既存のスペースを最大限に活かした最適な状態で設置することができました。
大ホール プロセニアムスピーカーの設置
● 営業の岩沢さんは、湯沢文化会館との関わりにおいてどのような点を大切にしていますか。
岩沢:
私たちは常に、実際に音響システムを運用する現場スタッフの方々の意見を重視しています。今回のような長期休館を伴う改修工事では、とりわけ指定管理施設の場合、休館期間中に舞台技術会社との契約が終了してしまうことがあります。そうなると、実際に設備を操作される方々の声を十分に反映できないまま施工を終えるケースも少なくありません。しかし今回は、施工の前後を通じて直接ご要望をヒアリングすることができ、それを具体的なシステムへと落とし込むことができました。今後もこうした現場目線の姿勢を大切にしていきたいと考えています。
ヤマハサウンドシステム株式会社 営業部 仙台営業所 岩沢 直樹
● 改修後のサポートや運用面について意見を聞かせてください。
遠田氏:
いまお話があったように、改修が完了し、いよいよ運用開始という時期に、ヤマハサウンドシステムのみなさんと密に連携を取ることができたことは大変心強かったです。Danteのチャンネルプランなど、運用初期の細かな要望にも迅速に対応していただきました。定期点検の際にも、こちらの要望にきめ細やかに応えてくださるので、非常に頼りにしています。
● 最後に須田館長にうかがいます。今後どのようなホールを目指していかれますか。
須田氏:
地域の過疎化が進む中、ホールをいかに維持し、魅力的な企画をどのように持続可能な形で届けていくかは大きな課題ですね。一方で、この地域には音楽が好きな方が本当にたくさんいらっしゃいます。そこで今年から、地域のみなさまが気軽に音楽に触れられる場として、予約不要・無料で参加できる「初心者ギター講習会」を始めました。毎月月末に開催し「気軽に遊びに来てください」と呼びかけています。直近の講習会では、貸出用ギターの数を上回るほど多くの方々にご参加いただきました。少しでもこの施設に足を運んでいただくきっかけになればと思い、今後も続けていこうと思っています。
また、8月に自主事業として、地域のバンドやアーティストが出演する市民参加型の音楽イベント「ZAWA FES. 2026 YUZAWA ROCK FESTIVAL」を開催しました。出場者を募集したところ19組もの応募があり、たいへん賑やかなイベントとなりました。出演者のみなさんはもちろん、ご来場いただいた方々にも楽しんでいただき、若い世代や子どもたちが「自分もステージに立ってみたい」と思うきっかけになっていれば嬉しいですね。そうした地域文化の発信や交流の場として、これまで以上に「秋田エプソンゆざわホール」を利用していただければと思っています。
● 本日はご多忙中ありがとうございました。
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外部リンク
