劇場やホールで「電気音響」といえば、客席や舞台上のスピーカーを真っ先に思い浮かべる方が多いのではないでしょうか。しかし、実際の運用では、ロビー(ホワイエ)の音が原因で困るケースも少なくありません。
ロビーの音は、どれだけ丁寧に整えても褒められることはほとんどありません。一方で、「アナウンスが聞こえない」「うるさい」「落ち着かない」といった違和感は、来場者や施設利用者の不満につながってしまうことがあります。
今回は、「きちんと情報を届けられる」ロビーの音づくりのポイントについて解説します。
ロビーの音は思っている以上に“聞かれている”
ロビーは「客席に入る前の場所」ですが、来場者にとっては非日常を感じるホール体験の入口でもあります。
開場して最初に耳に入る音、終演後に最後に耳に残る音——それがロビーの音であることも少なくありません。
客席の音がどれだけ良くても、ロビーで「うるさい」「落ち着かない」「何を言っているのかわからない」と感じさせてしまうと、施設全体の印象を損ねてしまうことがあります。
ロビーの音は目立たない存在でありながら、施設全体の印象を左右する重要な要素だという意識を持っておきましょう!

押さえておきたい2つのポイント
では、どのような点に気を付けて音づくりをしたらよいのでしょうか。
ロビー周りの音について、ポイントごとに見ていきましょう!
音量
ロビーは一つの空間に見えても、実際には吹き抜けや低天井の通路、階段周りなど、音の響き方が異なるエリアが混在しています。それにもかかわらず、すべてが同じ音量で鳴っていると、どこかで無理が生じてしまいます。吹き抜けに合わせれば通路がうるさくなり、通路に合わせれば吹き抜けでは音が十分に届かない、といった問題が発生します。そのため、エリアごとに特性を見極め、それぞれに適した音量に調整する必要があります。
また、音量を調整するのは音響担当者とは限りません。客入れ時や公演中など、必要に応じてロビースタッフが対応する場面もありますよね。このような状況も想定し音響担当以外のスタッフでも直感的に操作できる仕組みにしておくと、運用がよりスムーズになります。
音響システムを設計する段階からエリアごとの音量調整をシンプルにし、音声系統の分け方やスピーカー選定を工夫することが重要です。


届けるべき情報(音)
では、ロビーではどのような音を届ける必要があるでしょうか?
一般的には、次の3つの要素が重要だと考えられています。
・チャイム
開演や休憩終了を知らせる重要な要素です。施設によっては、演目によってチャイムとブザーを使い分けるところもあります。
・客席内の音(エアモニター)
会場内の様子を知るための要素です。遅れて到着した来場者を案内するタイミングを判断したり、ロビーにいる来場者が場内の様子や公演の進行状況を把握したりすることができます。
・アナウンスの声
開演前の案内や公演中の注意事項、緊急時の避難誘導のほか休憩・終演時の案内など、来場者に対してマナーや進行情報を伝える要素です。安全かつスムーズな公演運営を支える重要な役割を担っています。
ロビーでは、来場者がじっくりと音楽やセリフを聴いている客席内とは異なり、別のことに気を取られている中で情報を届ける必要があります。そのため、チャイムやアナウンスといった重要な情報は、確実に聞き取れる状態であることが求められます。
特にチャイムは開演を知らせる重要な要素であり、場所によって聞き逃してしまうことがないように配慮が必要です。
以上のポイントを踏まえ、ロビーの音を改めて聞いてみてください。
届けるべき情報を整理し、必要な音が必要な場所へ自然に伝わる音環境をつくることが大切です。
音量調整をスムーズに行うために
ロビーの音量調整では、
・ミキサー
・プロセッサー
・スピーカーやアンプ
のどこで制御できるかを把握しておくことで現場対応のスピードは大きく変わります。
そのため運用者として、
「ロビーにある各スピーカーの音量はどこで制御されているのか」
「エリアごとに切り替えられるのか」
といった点を把握しておくことが、迅速な対応につながります。
実際の音響システムは複雑で、さまざまなボリュームが関わっています。あれこれと複数の箇所を触ってしまうと、予期しないトラブルにつながる可能性があります。このような誤操作を防ぐためにも、「ロビーのスピーカーの音量は○○と△△で調整し、他は変更しない」といったルールを決めて運用することが有効です。
また、ロビーに複数のスピーカー回線がある場合(1階、2階、階段、吹き抜け…など)は、どの回線のスピーカーも同一の場所から操作できる状態になっていると扱いやすくなります。例えば、2階はミキサーで調整できるが3階はアンプでしか調整できない、といったシステム構成は避けるのが望ましいでしょう。
一方で、音響担当者ではなくロビースタッフが対応することが多い施設では、まずはスピーカー側の音量をボリュームで調整し、必要に応じてミキサーで調整する、といったように、運用に合わせたルール作りができていると安心です。
まとめ
ロビーの音は、成功しても評価されることは少ない一方で、失敗すると、「なんとなく居心地が悪い」「運営が雑に感じる」といった印象が強く残ってしまいます。だからこそ、「何も言われなかった」という状況を実現することは、立派な成果のひとつと言えます。
「ロビーは一つの音量で成立する場所ではない」という認識を持ち、どのエリアがどの回線(スピーカー)に紐づいているのかを把握しておくことが大切です。
今回の記事をきっかけとして、ぜひロビーの音に意識を向けていただけたら幸いです。