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対談・インタビュー「Intermission(幕あい)」第二幕 Act18 音響 小宮 大輔 様 × 音響効果 熊谷 健 様 × 演劇プロデューサー 白石 朋子 様

協力:日比谷シアタークリエ

株式会社SOUND BORN 小宮 大輔 氏(写真左端)
株式会社THINK AUDIO 熊谷 健 氏(写真左から2番目)
東宝株式会社 演劇部 プロデューサー 白石 朋子 氏(写真左から3番目)
ヤマハサウンドシステム株式会社 事業企画部 マーケティング課 木村 優佳(写真右端)


「Intermission(幕あい)」とは、一幕が終わって、次の一幕が始まるまでの間。舞台に幕が下りている間のこと。このシリーズでは、ヤマハサウンドシステムが日ごろお世話になっているホール・劇場の世界を牽引するキーマンの方々に、市場のトレンドやヤマハサウンドシステムへの期待などを、その仕事の「Intermission(幕あい)」に語っていただきます。

第二幕 Act 18にご登場いただくのは、これまでの朗読劇のイメージを覆す人気シリーズ「VOICARION」などの音響を務める小宮 大輔 氏、熊谷 健 氏、そして同作のプロデュースを務める東宝株式会社 演劇部 プロデューサーの白石 朋子 氏。動きや情報の限られる舞台で、観客の想像力を引き出す音づくりに向き合ってきたお三方に、これまでの歩みと、これから目指していることについてお話をうかがいました。

3人それぞれのバックグラウンド

木村:まずは、皆さんが舞台、音響の世界に入られたきっかけから教えてください。

小宮氏:私の場合、最初はなんとなく「コンサートに携わりたい」というところから始まったんですけど、なぜか「コンサートをやるなら音響」と思い、そのまま音響の専門学校へ進学しました。卒業後はPA会社で15年ほど経験を積み、10年ほど前に独立しました。これまでバンドものやイベント、株主総会などいろんなジャンルを手掛けてきましたが、現在は劇作家の藤沢文翁さんが手掛ける朗読劇シリーズ「VOICARION」などに携わっていることもあり、舞台の比率が増えています。

第二幕 Act18 音響 小宮 大輔 様 × 音響効果 熊谷 健 様 × 演劇プロデューサー 白石 朋子 様

株式会社SOUND BORN 小宮 大輔 氏

熊谷氏:私の場合は大学時代に組んでいたバンドが原点です。バンド内では率先して音響係をやっていたのですが、次第にライブ現場にいるPAさんがかっこいいなと思って「ちょっと触らせて」とお願いしたのが、本格的に音響の道を意識したきっかけでした。その後はライブハウスや音響さんのお手伝いをするようになり、そのままフリーランスとして活動を始めました。現在は小宮さんと同じく「VOICARION」をはじめ、ライブ、イベント、舞台など幅広い現場の音響をやっています。

第二幕 Act18 音響 小宮 大輔 様 × 音響効果 熊谷 健 様 × 演劇プロデューサー 白石 朋子 様

株式会社THINK AUDIO 熊谷 健 氏

木村:プロデューサーの白石さんはいかがでしょうか。

白石氏:演劇に興味を持ったきっかけは、舞台好きだった叔母によく劇場へ連れて行ってもらったことです。ただ、私自身は理系クラスで物理が大好きでした。だから劇場に行くと、「コンサートホールの音響設計も面白そうだな」と思ったりしてました(笑)。

第二幕 Act18 音響 小宮 大輔 様 × 音響効果 熊谷 健 様 × 演劇プロデューサー 白石 朋子 様

東宝株式会社 演劇部 プロデューサー 白石 朋子 氏

木村:音響の世界に進む可能性もあったのですね!そこから、なぜ演劇をプロデュースへ進まれたのでしょうか。

第二幕 Act18 音響 小宮 大輔 様 × 音響効果 熊谷 健 様 × 演劇プロデューサー 白石 朋子 様

ヤマハサウンドシステム株式会社 事業企画部 マーケティング課 木村 優佳

白石氏:古典物理を学んでいた頃は「これで世の中の全てを方程式で解き明かせる」と感動していたんです。でも勉強が進んで相対性理論などの近代物理になると、「この世の全ては実は数式では表せない」という境地に行き着いてしまった。「世の中に正解がないのなら、いっそのこと全く答えがないものを学ぶ方が面白いんじゃないか」と思い立ち、高3で理系をやめて文学部へ進路を変えました。そして卒業後、東宝に入社し、演劇部に配属されたという流れです。

木村:大胆な進路変更ですね! 現在は東宝のプロデューサーとしてご活躍されていますが、今でも理系的な考え方は生きていますか。

白石氏:そうですね。今でも物理的な条件や新しい技術が、人間の感覚にどう作用するのかにすごく興味があります。だからいまだに方程式を作りたがる(笑)。私自身、右脳と左脳が極端なんだと思います。「いい」と思う感覚は右脳的ですが、それを現場で形にするためには、技術スタッフに論理で説明しなければなりません。これは左脳的な作業です。この右脳と左脳とをつなぐ“翻訳家”、あるいは“ハブ”になるのが私の役割だと考えています。

観客の想像力で完成する朗読劇「VOICARION」

木村:お三方は、どのようなきっかけで「VOICARION」で集まったのですか。

白石氏:私が劇作家の藤沢文翁さんとご一緒するようになったのが2011年頃。その後、2018年に博多座で上演した『信長の犬』という作品が、「VOICARION」としては初めて1,000席を超える大きな劇場での公演となりました。その時に熊谷さん、小宮さんとチームを組むことになり、現在の体制ができあがりました。

ヤマハサウンドシステム株式会社 事業企画部 計画設計課 齊藤 健太(写真右)

熊谷氏:白石さんと一緒に仕事をするようになったのはそこからでした。僕と小宮さんは、それ以前から別の流れの藤沢さんの作品に関わっていたんですけど。

木村:朗読劇というと、椅子に座って静かに朗読する、というイメージが強かったのですが。

白石氏:それがいちばん有名な朗読劇のスタイルですね。その概念を覆したのが藤沢さんです。オペラやミュージカル、歌舞伎など古今東西のエンターテインメントを見てきた彼が作り上げた「VOICARION」は、豪華な舞台衣装に派手な照明や特効、生バンドまで入る朗読劇なんです。

熊谷氏:役者さんがマイクの前から動かないというスタイルは朗読劇ですが、体感としてはまったく別物です。

小宮氏:初めて参加したときは、私も衝撃でした。弦楽四重奏などが静かに流れる催し物かと思っていたら、ロックの生演奏に合わせて朗読して、レーザービームまで飛び交う!ある作品ではオーケストラピットを水槽にして、高さ約15mの噴水を上げるというもの凄い演出もありました。あのダイナミズムは本当に鮮烈でした。

第二幕 Act18 音響 小宮 大輔 様 × 音響効果 熊谷 健 様 × 演劇プロデューサー 白石 朋子 様

音楽朗読劇『VOICARION』シリーズ「女王がいた客室」写真提供:東宝演劇部

第二幕 Act18 音響 小宮 大輔 様 × 音響効果 熊谷 健 様 × 演劇プロデューサー 白石 朋子 様

音楽朗読劇『VOICARION』シリーズ スタッフのみなさま
写真左から
音響 那和勇介 氏、 舞台監督 加計涼子 氏、 特殊効果 星野達哉 氏、
照明 久保良明 氏、 制作 室橋鮎 氏、 音響 熊谷健 氏、 音響 小宮大輔 氏

「VOICARION」における音響の役割

木村:マイクを立て、その前に役者さんが立って動かないとなると、音響やSEによる演出の比重が高くなりますよね。

熊谷氏:おっしゃる通りです。普通の舞台なら、役者の動きやセットによってお客様は視覚的に状況を理解してくれます。しかし朗読劇は動きがないので、音を聴いただけで「何の音なのか」「どういう動きが起きているのか」などを表現しなければなりません。

白石氏:たとえば、その人物が泊まっているホテルの部屋がどれくらいの広さなのか、床は絨毯なのか大理石なのか――そうした情報のすべてを「音」から想像してもらう必要があります。『信長の犬』という演目では、大きな白い犬(魔犬)を発見するシーンがあるのですが、最初にミステリアスな音楽と間合いに合わせて、熊谷さんに出してもらうSEは完全に「魔獣」の声です。でも、役者が「よく見ろ、犬だ」と言った瞬間に、キャイーンという犬の声に変わる。そこでお客さんの中で整合性が取れて、頭の中に情景が組み上がっていくんです。まさに音による表現ですね。

第二幕 Act18 音響 小宮 大輔 様 × 音響効果 熊谷 健 様 × 演劇プロデューサー 白石 朋子 様

木村:視覚の情報がないからこそ、観客それぞれが頭の中で情景を作るわけですね。

白石氏:そうなんです。私は、演劇、特に朗読劇である「VOICARION」は“トルソー芸術”だと思っているんです。映像のようにすべてをリアルに作り込むのではなく、そこには見えない部分や欠けた部分があり、そこにお客さんの想像力を使って演出する舞台芸術、いわば観客が能動的に情報を取りに行く芸術なんですよね。だからこそ、ヤマハのイマーシブオーディオ「Sound xR」のように、空間の広がりや位置関係を精密に表現できる音響システムが、非常に重要な道具になってくるんです。

生声を支え、空間を拡張する 音場支援システム「Sound xR Enhance」

木村:このチームがヤマハのイマーシブオーディオ「Sound xR」を本格的に導入したのは、2025年のオリジナルミュージカル『Under The Mushroom Shade』初演からですよね。そのきっかけを教えてください。

熊谷氏:『Under The Mushroom Shade』のプロデューサーであり演出家でもあった白石さんから「100席ほどの小劇場でミュージカルを上演する。俳優の生声を直接届けたいのでマイクは使いたくない。でも劇場自体は響きが少ないので、そのままだと俳優が無理をして喉を痛めてしまうかもしれない。何かいい方策はない?」と相談されたんです。そこで、ヤマハの「Sound xR Enhance」が最適だと考え、提案しました。

木村:実際に使ってみて効果はいかがでしたか。

熊谷氏:俳優からは「響きがいい」「歌いやすい」とたいへん好評でした。小劇場はどうしてもスピーカーと観客の距離が近くなりますが、「Sound xR Enhance」はPAを感じさせず、作品そのものを自然に引き立ててくれました。

第二幕 Act18 音響 小宮 大輔 様 × 音響効果 熊谷 健 様 × 演劇プロデューサー 白石 朋子 様

木村:演出面ではどのようなメリットがありましたか。

白石氏:観客は音を聴いているとき、無意識に脳のCPUを空間把握に割いているんです。視覚情報と聴覚情報のズレの補正とか。「Sound xR Enhance」は生声を自然に補助してくれるので、視覚情報と聴覚情報のズレをなくすことができます。そうすると観客は情報処理のストレスがなくなり、セリフに集中でき、没入感が大きく高まります。
それともう一つ、シーンによって劇場内の響きを積極的に変えることで、劇場の空間そのものをコントロールできたのも、演出手法としてはとても面白かったですね。

熊谷氏:具体的にはラストの方のあるシーンで、白石さんから「セリフに全集中させたい」という意図があり、それまで付けていた響きをすべて消しました。そうすると、まるでズームアップしたように耳がセリフに引き寄せられる。これは響きのある大きなホールではできない、小劇場と「Sound xR」ならではの演出でした。

第二幕 Act18 音響 小宮 大輔 様 × 音響効果 熊谷 健 様 × 演劇プロデューサー 白石 朋子 様

白石氏:派手な演出に慣れているお客さんに対して、あえて無い世界(引き算)を作り、「これから何が始まるのか」という期待を生む。観客にある種の負荷をかける演出としても、この技術はすごく使い出があると感じました。

木村:音像制御システム「Sound xR Image」も使われていましたね。

熊谷氏:はい。ピアノの音を「Sound xR Image」でオブジェクト化し、オープニングではピアノの音が遠くから近づいてきて物語の世界に誘うように入る、エンディングではその逆でピアノの音がだんだん遠ざかっていく、という空間移動の演出を行いました。また、客入れの時間には鳥や虫などの音を動かして、まるで深い森の中にいるような没入感を演出しました。従来のシステムでは難しかった表現ですが、非常にいい効果が出せました。

第二幕 Act18 音響 小宮 大輔 様 × 音響効果 熊谷 健 様 × 演劇プロデューサー 白石 朋子 様

「Sound xR Image」コントローラー。PC画面上でオブジェクト化した音像を自由に配置可能

【 ヤマハイマーシブソリューション「AFC」使用事例レポート 】Musical「Under The Mushroom Shade」/ 東京

ステレオとイマーシブを共存させる「ハイブリッド運用」

木村:その後、客席数の多い劇場でも「Sound xR Image」を積極的に使用されていますが、使ってみていかがですか。

小宮氏:いろいろな形で試していますが、システム構成や仕込み条件を踏まえ、現状ではステレオとイマーシブオーディオを共存させる“ハイブリッド運用”が、現実的な選択の一つだと感じています。

木村:ハイブリッド運用とは具体的にどのような方法でしょうか。

小宮氏:LRのメインスピーカーと、劇場常設のウォールスピーカーを使った「Sound xR Image」を併用する方法です。たとえばセリフは作品の核となる要素なので、LRのメインスピーカーで明確に拡声します。その一方で、バンドの楽器やSEは「Sound xR Image」で空間的な拡がりや立体感を持たせる、といった形です。実際試してみたのですが、音の違和感はほとんど感じられませんでした。
楽器に関しては、キックやベースのリズムはステレオ再生でしっかり芯を出しつつ、管弦楽器は「Sound xR Image」で立体的に配置する、といった使い分けを行うことがありますが、これも表現として有効だと感じています。

木村:セリフの明瞭さを保ちながら、立体的な表現を加えていく、という考え方ですね。

小宮氏:はい。それぞれの解像度が高いので一つ一つの音がしっかり聴こえますし、従来のステレオ再生とはまったく異なる空間表現ができています。

第二幕 Act18 音響 小宮 大輔 様 × 音響効果 熊谷 健 様 × 演劇プロデューサー 白石 朋子 様

音による感情の動きから演劇を考える

木村:2026年6月には池袋の小劇場「シアターグリーン」での『Under The Mushroom Shade』の再演が控えていますね。

白石氏:再演は、初演よりも会場が少し広くなります。その環境で「Sound xR」をどう演出的に使うか、今まさに小宮さんや熊谷さんと相談しているところです。

第二幕 Act18 音響 小宮 大輔 様 × 音響効果 熊谷 健 様 × 演劇プロデューサー 白石 朋子 様

白石氏:お客様に、ダイレクトに音響に関する感想をお聞きしてみたいですね。人によっての感じ方の違いが、どういう物理条件から来ているのかを突き詰めて書き出し、人間の営みや感情の動きを数式化・ロジック化していく――そういうのが私は大好きなんです。それこそが究極の「演劇研究」だと思っています。

第二幕 Act18 音響 小宮 大輔 様 × 音響効果 熊谷 健 様 × 演劇プロデューサー 白石 朋子 様

UNDER THE MUSHROOM SHADE 2026

木村:理屈を超えた感情を、論理的に解き明かそうとしているわけですね。最後に、お三方が今後の舞台で目指すものを教えてください。

小宮氏:最初は賛同者が少なくても、こうした新しい技術を取り入れて形にし、「面白そうじゃん」と人が集まってくるような開拓を続けていきたいですね。

熊谷氏:僕が音響効果の仕事として大事にしているのは、「エンターテインメントを作ること」と「没入感」です。子供のように素直に楽しめる感動体験をどう作るか。そのために「Sound xR Image」も含め、さまざまな技術をどう活用できるか、これからも探っていきたいと思っています。

白石氏:舞台芸術には、みんなが良いと思う「正解」はありません。ミュージカルはこう、朗読劇はこう、といったいわゆる常識に囚われず、「この作品のこのシーンでお客さんに何を届けるのが一番いいか」を考え続ける誠意を持っていたいですね。それと素人考えと言われることを恐れず、「こんなことはできませんか?」と技術陣に問いかけるハブ的な存在であり続けたいと思っています。

木村:本日はお忙しい中、貴重なお話をありがとうございました。

第二幕 Act18 音響 小宮 大輔 様 × 音響効果 熊谷 健 様 × 演劇プロデューサー 白石 朋子 様

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