
公益財団法人高崎財団 高崎芸術劇場部 舞台技術課 小見 直樹 氏(写真中央)
株式会社共立 高崎芸術劇場部 舞台技術課 音響担当 長門 祥平 氏(写真左)
ヤマハサウンドシステム株式会社 事業企画部 計画設計課 齊藤 健太(写真右)
公益財団法人高崎財団 高崎芸術劇場部
舞台技術課 小見 直樹 氏(写真中央)
株式会社共立
高崎芸術劇場部 舞台技術課 音響担当 長門 祥平 氏(写真左)
ヤマハサウンドシステム株式会社
事業企画部 計画設計課 齊藤 健太(写真右)
「Intermission(幕あい)」とは、一幕が終わって、次の一幕が始まるまでの間。舞台に幕が下りている間のこと。このシリーズでは、ヤマハサウンドシステムが日頃お世話になっているホール・劇場の世界を牽引するキーマンの方々に、市場のトレンドやヤマハサウンドシステムへの期待などを、その仕事の「Intermission(幕あい)」に語っていただきます。
第二幕 Act13にご登場いただくのは、公益財団法人高崎財団 高崎芸術劇場部 舞台技術課の小見 直樹 氏と、株式会社共立 高崎芸術劇場部 舞台技術課 音響担当 長門 祥平 氏です。音楽のまち・高崎市の新たな文化の発信地を支える立場として、常に心がけていること、そして次世代へのメッセージなどをうかがいました。
生まれ育った地で、音楽文化を支えたい
齊藤:本日はよろしくお願いします。まず小見様、長門様のそれぞれ担当業務を教えてください。
小見氏:私は「高崎芸術劇場」を管理・運営している高崎財団に所属し、主に音響設備の管理や運営を担当しています。実際の音響や照明のオペレート業務、および外部の乗り込み業者への対応など実務は株式会社共立の長門さんをはじめとするスタッフの皆さんが担当しています。劇場の自主公演事業などは私も現場に出てみんなで一緒に作品をつくっています。
齊藤:お二人はどのようなきっかけで舞台音響に関わるようになったのですか。
小見氏:私は高崎の生まれで学生時代に地元でライブ活動をしていました。卒業後はいったん音楽とは関係のない仕事に就きましたが、群馬の中心的な文化施設だった「群馬音楽センター」で音響技術者の募集があることを知り、生まれ育った高崎市で音楽に関連した仕事ができるならと応募したところ採用されました。そして「群馬音楽センター」で音響や舞台照明の技術や知識を身につけた後に「高崎芸術劇場」が新たにできるということでこちらに異動してきました。
公益財団法人高崎財団 高崎芸術劇場部 舞台技術課 小見 直樹 氏
長門氏:私も群馬県の沼田市出身でバンド活動をしていました。最初は別の音響会社に勤めていましたが、あるとき高崎に大きなホールができるにあたり、株式会社共立がその劇場勤務を前提にした技術者を募集していたのです。地元に音楽ホールができるのなら、ぜひそこで働きたいと思い、転職する形で2019年に音響技術者として赴任しました。現在は音響セクションのチーフエンジニアを務めています。
株式会社共立 高崎芸術劇場部 舞台技術課 音響担当 長門 祥平 氏
オペラから、室内楽、そしてライブハウスまで3つのホールを擁する「高崎芸術劇場」
齊藤:「高崎芸術劇場」は、大編成のクラシック音楽に特化した大劇場、室内楽やピアノなど小編成のクラシックに適した音楽ホール、そしていわゆるライブハウスクラスの音響機器を持つ「スタジオシアター」という3つのホールがあるのが特徴的ですね。
ヤマハサウンドシステム株式会社 事業企画部 計画設計課 齊藤 健太
小見氏:「高崎芸術劇場」の大劇場は、オーケストラ、オペラ、バレエ、ミュージカル、歌舞伎、ポップス、ジャズ、ロックなど幅広い音楽や舞台芸術の公演が可能な多機能型ホールです。大編成のクラシック音楽公演ができる国内最大級の舞台をもっています。客席数も2,027席と多く、「新国立劇場」でのオペラや「帝国劇場」でのミュージカルなどがここで公演されています。
高崎芸術劇場 大劇場
小見氏:音楽ホールは、室内楽やピアノといった比較的小規模な編成のクラシック音楽の演奏に適した音響の空間です。群馬交響楽団は長らく「群馬音楽センター」を本拠地としていましたが、「高崎芸術劇場」ができたタイミングでこちらに本拠地を移しました。今は群馬交響楽団の大劇場での定期演奏会に加え室内楽演奏会などもこの音楽ホールで頻繁に開催しています。
高崎芸術劇場 音楽ホール
小見氏:「高崎芸術劇場」で一番ユニークなのが「スタジオシアター」かもしれません。ここはいわゆるロック系のライブハウスのような公演ができるようにパワーのある音響機器を備えた空間です。スタンディングで1,000人近く収容できるため、公共ホールでありながら群馬県内で最大規模のライブハウスとも言えます。これまで群馬県には大きなライブハウスがほとんどなかったのですが、「スタジオシアター」ができたことで、有名なロックバンドや海外アーティストのツアーにも組み込んでいただけるようになりました。
高崎芸術劇場 スタジオシアター
長門氏:これまで群馬県にあったライブハウスは300人〜500人弱が最大で、それもコロナ禍で閉めたところも多いんです。でも「スタジオシアター」ができたので首都圏ではアリーナでライブをしているようなバンドがツアーファイナルをここで開催してくれたりしています。
小見氏:さらに公共ホールとしては異例ですが、高崎芸術劇場とブルーノート東京とが提携して、本格的なジャズクラブのプログラムも月に1回開催しているんです。
齊藤:世界トップレベルのアーティストを月替わりで見られるのは、音楽ファンにはたまらないですね。
長門氏:来日アーティストが大阪や名古屋公演の一環で高崎にも来てくれることが多く、都内からも新幹線で1時間以内とアクセスもいいので最近はすぐに席が埋まるようになりました。

スタジオシアターにはライブハウスクラスの音響システムが用意されている
「手ぶらでライブ」を実現する
充実した音響機器と柔軟な対応力
齊藤:「運営」の小見さん、「音響」の長門さん、それぞれの立場で大事にしていることを教えてください。
小見氏:運営の立場から言うと、開館当初のコンセプトである「手ぶらでライブができるホール」という点を重視しています。これは外部から音響機材を持ち込まなくても、劇場備え付けの機材だけで質の高いライブが実現できるという意味です。そのためにはいい機材を揃えている、そして常に良い状態に保たれているということが必須ですし、機材の利用法などについても、できる限り柔軟に対応するよう心がけています。公共劇場というとどうしても前例主義で固定観念に縛られがちですが、安全性を担保しつつ「まずは検討してみよう」という姿勢を持つことが重要だと考えています。
長門氏:私は前職では乗り込みの音響技術者としてさまざまなホールを利用してきたので、乗り込みさんの気持ちがよく理解できますから、できる限り要望に応えたいと思います。また単に要望に応えるだけではなく、音響技術者としての知識と経験を活かし「ここではこんなオペレートができます」といった提案も積極的に行っています。
市民と劇場とをつなぐ「オープンシアター」
齊藤:「高崎芸術劇場」の代表的な取り組みとして「オープンシアター」がありますが、これはどんな目的で行われているのですか。
小見氏:「オープンシアター」は「高崎芸術劇場」の代表的な取り組みの一つでコロナ禍以降の2021年からスタートし、これまでに18回開催してきました。企画の目的は劇場の存在を広く市民に知ってもらうことです。劇場は閉鎖的で敷居が高いイメージを持たれがちですが、建築や音響、照明、舞台機構などの設備や日々の活動をより身近に感じてもらえるように実施しています。
小見氏:当初はバックステージツアーの拡張版として舞台機構がどのように動くのかを実演して「劇場ではこんなことができるのか」という驚きを提供する内容でした。その後音響設備にも焦点を広げ、音響業界のプロや学生など多くの方々に足を運んでいただく場へと発展しています。直近の第18回では「高崎芸術劇場の音響」をテーマに、大劇場全体に届くクリアな音、意図に合わせた演出、音の立体的な定位、電気音響の効果などについて詳しく解説しました。さらにヤマハのイマーシブオーディオソリューション「AFC」を活用した体験企画も行いました。これはドラマーとコンテンポラリーダンサーを招き、音の広がりや没入感を、実演を交えながら体感してもらうというものです。「オープンシアター」は回を重ねるごとに進化し、予想を上回る来場者を迎えています。市民のみならず他の自治体関係者や設計事務所、音響・照明を学ぶ学生など、県外からの参加者も増加し、ますます注目を集めています。
齊藤:第18回「オープンシアター 高崎芸術劇場の音響<設備編>」では私たちヤマハサウンドシステムも講演をさせていただきました。来場者のみなさんが熱心に聞いていたのが印象的でした。
劇場から若手アーティストを飛び立たせる「T-Shotシリーズ」
齊藤:「オープンシアター」のほかに「高崎芸術劇場」として積極的に取り組んでいることはありますか。
小見氏:「高崎芸術劇場」が若手アーティストをプロデュースし、活動をサポートしていく「T-Shotシリーズ」という試みがあります。ゴルフのティーショットにかけて、この劇場から世界に羽ばたくアーティストを応援していこうという思いが込められています。この企画は「高崎芸術劇場」の芸術監督である大友直人氏の呼びかけで立ち上がりました。芸術監督自らがさまざまなアーティストに声をかけてくださり、主に群馬県に関わりのあるソロ・アーティストを選んで、その方のコンサートを開催しています。
小見氏: T-Shotシリーズではコンサートを開催するだけでなく、劇場で録音した音源でCDやDVDを制作し、コンサート開催日に劇場で販売もしています。すでに「T-Shotシリーズ」では、何組もの期待のアーティストを紹介しています。「オープンシアター」で劇場を運営する人材を育成することに加え、演者側の若手アーティストの支援も行うことで、この劇場を盛り上げたいと思っています。
齊藤:なるほど、劇場スタッフ側の人材だけではなく、若手アーティストの支援も同時に行うことで劇場の活気が持続可能なものとなっていくのですね。
群馬の風土が育む、劇場運営の「柔軟さ」と「フレンドリーさ」
齊藤:劇場運営において、スタッフ間のコミュニケーションで意識していることはありますか。
小見氏:私には「まずは高崎芸術劇場で働くスタッフが高崎芸術劇場を好きになってほしい」という思いがあり、そのためにスタッフそれぞれの思いを提案しやすい空気づくりを心がけています。それは舞台技術課だけでなく、劇場のスタッフみんなでそういった意思疎通ができるような雰囲気づくりを大事にしています。
長門氏:私もスタッフ間の自由な雰囲気は大切だと思います。舞台や音響セクションの若いスタッフが「こんな動画を作ってみたい」とか「空き時間に音源を制作したい」と言えば比較的自由にやらせてもらえる環境があり、それが「オープンシアター」などの自主企画に生きていると感じています。
小見氏:割と柔軟な運営ができているのは、群馬県という風土もあるかもしれません。我々と共立さんもフレンドリーな感じで、ディスカッションしながら運営しています。
ヤマハサウンドシステムの柔軟な対応に感謝
齊藤: 「高崎芸術劇場」では、オールDanteのデジタルオーディオネットワークをはじめ、最先端の音響設備を導入していますが、私たちヤマハサウンドシステムのサポート体制について、率直なご意見をお聞かせください。
長門氏:ヤマハサウンドシステムさんには定期的に保守点検をお願いしていて、いつもきちんと機材の状態をチェックしてもらっています。またこちらからの要望や質問にも気軽に答えてもらえるのでとても助かります。
小見氏: 2019年のオープン当初は配線やセッティングも試行錯誤でした。でもヤマハサウンドシステムさんに相談すると、すぐに「それならこういう方法がありますよ」と具体的な解決策を提案してくれるので安心でした。たとえば他のメーカーさんだと「ここまでは対応できません」とか「それはサポート外です」といったケースもあるのですが、いつも親身に対応してくれます。劇場ではトラブルは公演に直結するので、迅速かつ、柔軟な対応力は本当にありがたいです。
長門氏:特に「これが使えないと公演が始まらない」という緊急時に、電話で即座にサポートしてもらったりしてリモートでも何度も助けられました。ありがとうございます!
齊藤:しっかりとしたサポート体制があると、新しい技術の導入にも前向きになれますね。
小見氏:まさにその通りです。ヤマハサウンドシステムさんは機材を納品して終わりではなく、アフターサポートもしっかりしているので、安心して新しいことにも挑戦できます。それが結果的に、劇場のクオリティ向上にもつながっていると思います。
やりがいのある現場が次世代の技術者を育てる
齊藤:長門さんにうかがいます。これから音響の世界で求められることはどんなことでしょうか。
長門氏:これまでパワーアンプとスピーカーなどの音響機器をつないで音を出すということをしていましたが、今はデジタル機器やアプリをどう扱うかが重要になってきました。信号がどう流れるかを見極めるよりもスマホやタブレットを上手に扱える人のほうがデジタルミキサーなどの習熟が早いです。でも、やっぱり「いい音」は感性が重要になってきますから、僕も含めてその両方を勉強していかなくちゃいけないと思っています。
齊藤:最後に小見さんにうかがいます。これから劇場や舞台の音響の仕事をしたいと思っている若い世代に、メッセージをいただけないでしょうか。
小見氏:群馬県の人口は現在約190万人ですが、2050年には約40万人の減少が予測されています。少子化の影響もあり、今後、舞台や音響の仕事に興味を持つ若者の数も減っていくでしょう。だからこそ、劇場で働く若い世代には、やりがいを持って仕事に取り組んでほしいと考えています。特に地方の劇場では人手不足が深刻で、スタッフを募集しても人が集まるとは限りません。だからこそ劇場の仕事を楽しみながら働ける環境を整えることが重要です。これからの劇場の仕事は、単なる「小屋管理」にとどまらず、より創造的な分野へと発展させ、ホールや劇場で働くこと自体が憧れとなるような場にしていきたいと考えています。
齊藤:本日はお忙しい中、ありがとうございました。
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