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対談・インタビュー「Intermission(幕あい)」第二幕 Act12 新国立劇場 上田 好生 様

新国立劇場 技術部 音響課長 上田 好生 氏(写真 左)
ヤマハサウンドシステム株式会社 事業企画部 計画設計課 齊藤 健太(写真 右)

新国立劇場
技術部 音響課長 上田 好生 氏(写真 左)
ヤマハサウンドシステム株式会社
事業企画部 計画設計課 齊藤 健太(写真 右)


「Intermission(幕あい)」とは、一幕が終わって、次の一幕が始まるまでの間。舞台に幕が下りている間のこと。このシリーズでは、ヤマハサウンドシステムが日頃お世話になっているホール・劇場の世界を牽引するキーマンの方々に、市場のトレンドやヤマハサウンドシステムへの期待などを、その仕事の「Intermission(幕あい)」に語っていただきます。

第二幕 Act12にご登場いただくのは「新国立劇場」技術部 音響課長 上田好生氏。これまでに影響を受けたことや最新技術に対して思うこと、若手の育成についてお話をうかがいました。

舞台俳優だった父の影響で、舞台音響の道へ

齊藤:上田様が舞台や音響の仕事に携わるきっかけを教えてください。

上田氏:実は私の父が舞台俳優だったんです。父は高校を卒業してすぐに俳優座の養成所に入り、ずっと役者として演劇に携わっていました。いわゆるバイプレーヤーだったのでいろんな舞台やテレビドラマに出ていて、子どもの頃からそれをよく見ていました。時々家に父の仲間の俳優さんたちが遊びに来ては、お酒を飲みながら演劇について熱く語り合っていて、その声で夜中に目が覚めることもありました。人気の刑事ドラマに父が出演した時、クラスの友だちから「マカロニを殺したの、お前の親父だろ」と言われ「ちゃんと見たのかよ、俺の親父が殺したんじゃないぞ」って言い返したりしてました(笑)。

第二幕 Act12 新国立劇場 上田 好生 様

新国立劇場 技術部 音響課長 上田 好生 氏

齊藤:演劇が身近な環境だったのですね。お父様と同じ舞台俳優になろうとは思わなかったのでしょうか。

上田氏:よくそう言われますが、私は人前で話したり演技をするのは向いていないと思っていました。ただ音楽が好きでバンドをやったりしていたので、高校を卒業する時に一番やりたい仕事は音響かなと思って父に相談したところ、深川定次さんという優れた音響さんがいるから、と紹介してくれました。それで深川さんの東京演劇音響研究所という会社に入りました。

齊藤:そこですぐに音響の仕事に携わるようになったのですか。

第二幕 Act12 新国立劇場 上田 好生 様

ヤマハサウンドシステム株式会社 事業企画部 計画設計課 齊藤 健太

上田氏:いいえ。父が役者だったとはいえ、私自身は舞台のことをなにひとつ知らない素人でしたから、最初の数ヶ月は演出の裏方として丁稚をして、そこで舞台用語や礼儀作法のいろはを学んだ後に音響の仕事に就きました。
音響の仕事も最初は先輩について仕込みやケーブルの巻き方から始まりました。当時、月給制ではありませんでしたので、週に何度か深夜の道路工事の旗振りのバイトをして食いつないだこともありました。その後、だんだん仕事を任されるようになりました。

齊藤:音響の仕事を面白い、続けていきたいと思ったきっかけは何かあったんでしょうか。

上田氏:なかなか大きな仕事は任されなかったので、しばらく先輩の仕事の仕込みや舞台稽古を手伝って勉強しました。そんな時に関わった作品で、主人公が猫を殺すシーンがあり、深川さんがそのシーンのために猫の断末魔の悲鳴を作ったんです。「上田くん、あの音ってどうやって作ったか分かる?」って聞かれて「猫のギャーっていう鳴き声と、何かを叩きつける音を混ぜたのですか?」と言ったら「実はあれ、猫の鳴き声にマントヒヒの赤ちゃんが母親にじゃれる鳴き声を混ぜたんだよ」って言うわけですよ。その発想に驚きましたね。それを教わったときに、これはすごい世界だな、と思いました。そのあたりからどんどん音響の仕事が楽しくなり、引き込まれていきました。

齊藤:お芝居の音素材を作る仕事も多いのですか。

上田氏:多いですね。しかも当時は今のように音素材のライブラリーなんてほとんどなかったので、よく音素材を録音しにあらゆるところに行きました。ある時先輩に「上田くん、建設工事の音を録音してきて」って言われ、近くの建設現場の囲いの下からマイクを入れてオープンリールの小型レコーダーで録音してたら、現場関係者らしい方から「お前、どこの回し者だ!」と怒鳴られてマイクを取り上げられてしまったこともありました。まだ名刺も持ってない頃で、あのときは大変でした(笑)。

第二幕 Act12 新国立劇場 上田 好生 様

新国立劇場の制作スタジオにある音素材用CD棚

齊藤:その後は順調に音響の仕事が回ってきたのですか。

上田氏:だんだん忙しくなっていきました。ただ当時会社には20人くらい社員がいたんですが、新人が入ってきてもすぐ辞めちゃうので、かなり長い間僕が一番下でした。だから、お世辞にも収入が安定しているとは言えませんでした。

「新国立劇場」の使命は伝統的な演目と最新技術の融合にある

齊藤:それからどのような経緯で「新国立劇場」に関わるようになるのでしょうか。

上田氏:「新国立劇場」に入る前に28歳でフリーランスになりました。フリーランスとして仕事をするのは楽しかったんですが、仕事があるときとないときの差が大きくて安定しなかったんです。仕事を続けるうちに、だんだん安定した環境でじっくりと音響の仕事をしたいと思うようになりました。ちょうどそんなタイミングで「新国立劇場」から「欠員が出るから入らないか」とお誘いがあり、自分としてもいい機会だと思ってお受けしました。それで辞令が出たのが2000年の9月1日。37歳の時でした。

齊藤:「新国立劇場」の音響担当になったことで、仕事内容に変化はありましたか。

第二幕 Act12 新国立劇場 上田 好生 様

上田氏:フリーランスの時代とはガラッと変わりました。「新国立劇場」はハコの規模が大きいし、当時の最新のデジタルコンソールが入っていたので音響の仕事としてはまずそれを使いこなさなくてはいけない。
また、劇場の職員になったことで、音響の仕事だけに専念するわけにはいかなくなりました。新しい音響技術の導入や機器の更新はもちろん、いわゆる貸館業務も担当します。それに伴い、外部団体との調整やトラブル対応を行うことも求められます。これまでは乗り込みの音響さんとして私がいろいろな場所に足を運ぶ立場でしたが、立場が逆転し、今度は劇場側として貸館時のさまざまな出来事に対応しなければならなくなり、その責任の重さは感じましたね。

齊藤:「新国立劇場」は日本の舞台芸術の先頭に立つ劇場だと思います。その音響担当としての使命のようなものはあるのでしょうか。

上田氏:「新国立劇場」の使命は伝統的な演目と最新技術との融合だと思います。そのために最新技術への対応は重要な業務の一つです。それもあって新国立劇場はデジタルコンソールや音像定位のための技術をかなり早い段階で導入しています。
たとえば先日は ヤマハの立体音響技術「AFC Image」を使ってシェイクスピアの演劇の公演 外部サイト を行いました。拡声をしているのに違和感のない定位感が作れましたし、その事による音痩せもなくとても上手くいきました。このような立体音響の試みも日本ではかなり早いほうだったと思います。とはいえ我々は最新技術を飛び道具として使うわけではありません。あくまで舞台において自然な音響表現を目指すためのものです。またこうした最先端のアプローチは確立されたシステムや方法論がありませんから、なかなかイメージ通りにはいかないという苦労もあります。そこも含めて挑戦するのが私たちの使命だと思っています。

第二幕 Act12 新国立劇場 上田 好生 様

若手の育成のために実践を通じた成長の機会を与えたい

齊藤:現在、劇場の音響業界が直面している課題について、上田さんが感じていることを教えていただけますか。

上田氏:大きく分けて、若手の育成と最新技術の導入の2つがあると感じています。

第二幕 Act12 新国立劇場 上田 好生 様

まず若手の育成についてですが、昨今の働き方改革の影響で、現場での実践を通じた機会が減少しています。もちろん働き方改革は労働環境の改善に大きく寄与するもので大切なことですが、一方で若手が現場で経験を積む時間が短くなるので、技術や知識を習得する機会がどうしても限られます。やはり机の上で教わったことより現場で学んだことの方が身につくんですよね。でもこれってすごく時間がかかる。今の時代は夜中まで仕事をさせられないので、そのあたりが難しいところです。いちばん大事な所で「時間だからお前は帰れ」と言わなくてはならないこともあって、大事なところで帰される若手にとっても辛いということもあると思います。

齊藤:具体的にはどんなことが若手の育成につながると思いますか。

上田氏:教えるというより、仕事ぶりを見せるということでしょうか。たとえば私の部下に今26歳になる女性の音響技術者がいます。彼女はもともと舞台課を志望していましたが、音響担当として採用されました。最初はケーブルの巻き方すら知らなかったんですが非常に努力家でセンスも良く、今ではうちの一番の稼ぎ頭です。そんな彼女に私が音響をプランした公演でオペレーターをやってもらいましたが、そこで私が演出家とやり取りするところを見てもらいました。現場の力関係などで急に音響プランが変わったりするところなどもリアルに見せる、結局私もそうやって先輩方の背中を見て自分で学びました。

第二幕 Act12 新国立劇場 上田 好生 様

独創的な音響の世界を創り上げたアニメ音響の第一人者、柏原満さんのこと

齊藤:育成という意味で、上田さん自身が若い頃に影響を受けた方はいらっしゃいますか。

第二幕 Act12 新国立劇場 上田 好生 様

上田氏:最初に入った東京演劇音響研究所に、アニメの音響の第一人者だった柏原満さんがいらっしゃいました。その柏原さんの仕事ぶりには大変感銘を受けました。僕はいつも他人と同じことはしたくないって思っているんですが、そうはいっても他人と違うアイディアなんてそうそう出るもんじゃないんです。その点柏原さんはすごかったです。
柏原さんは国民的なアニメ「サザエさん」や「宇宙戦艦ヤマト」の音響を手掛けたことで知られていますが、特に「サザエさん」のタラちゃんの歩く音は柏原さんでなければ思いつかない独創的なアイディアで、誰もがあのポヨポヨとした音を聴けば「タラちゃんだ」と直感的に思いますよね。これは普通の発想で作った足音では実現できない表現です。
また「宇宙戦艦ヤマト」の波動砲の音もすごかったですね。ヤマトシリーズではある時に音響効果をデジタル化したいと制作側から依頼された際「私の音はデジタルでは表現できない」と柏原さんは音響担当を降りたんです。その柏原さんが降りた作品が上映された後、ファンから「波動砲はこんな音じゃない」と多くのクレームが寄せられ、その反応を受けて柏原さんは波動砲の音を提供しました。その後のシリーズでは柏原さんの音響表現が復活し、ファンから高く評価されたと聞きます。音でここまでファンを掴む柏原さんはすごいな、と思いました。

今後の「新国立劇場」の音響機器はどうあるべきか

齊藤:もう一つの課題である、最新技術の導入についてはいかがでしょうか。

第二幕 Act12 新国立劇場 上田 好生 様

上田氏:財政的な制約や既存システムとの互換性がネックとなり、必ずしも最新技術を導入できないケースが多いのが現状です。劇場の改修時に新しい設備を導入する際、予算だけでなく、既存のシステムとどの程度適合するかも検討しなければなりません。結果として、最新の技術が導入されにくいという課題があります。
いずれ「新国立劇場」も音響改修を行うことになると思いますが、その時どうするかですね。よく言っているのは、今ある機器や回線が全て必要かよく精査するべきだということです。 たとえばスピーカーは今と同じだけの数が必要なのか。技術の進展でもっと少ないスピーカーでよりいい音響が実現できるかもしれない。またほとんど使っていない回線は、もういらないかもしれない。その方が保守の負担も軽くなります。
最近よく言うんですけど、もう大きな船はいらないんです。大きな船ってすごいけど、動かなくなったら何の役にも立たない。それより小回りが利く小さなタグボートを100艇持っていたほうが効率的かもしれない。しかもタグボートは1種類じゃなくて、いろんな種類のタグボートを用意すればさらに柔軟なことができる。最新の機材を試しながら、そんな発想で今後の音響機器のあり方について考えています。

齊藤:音響機器やシステムに対して、上田さんご自身が求めるものはありますか。

上田氏:誰もが同じことを言うと思いますが、一番は安定性です。安心して本番を迎えられることが一番望ましい。とはいえどの時代でも、結局使うのは人間です。扱う人間がしっかりしたスキルを身につけていないと使いこなせない。機材には安定性は求めますけど、それよりもまずは、使う側のスキルと舞台に向かう姿勢が重要かな、と思っています。

第二幕 Act12 新国立劇場 上田 好生 様

齊藤:最後に弊社、ヤマハサウンドシステムに対しての希望や期待があればお願いします。

上田氏:ヤマハサウンドシステムさんには保守などで長年お世話になっており、その堅実な仕事ぶりには感謝しています。膨大な劇場音響に関する経験や、「AFC」をはじめとする最新技術への知見を生かし、これからも「新国立劇場」にふさわしい新たな音響表現の方法を一緒に模索していただけたらと思います。

齊藤:本日はお忙しい中、ありがとうございました。

第二幕 Act12 新国立劇場 上田 好生 様

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