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対談・インタビュー「Intermission(幕あい)」第二幕 Act10 東京文化会館 末廣 友紀 様

東京文化会館 管理課 管理係 主任(舞台管理担当) 末廣 友紀 氏(写真 左)
ヤマハサウンドシステム株式会社 営業部 首都圏営業所 齊藤 健太(写真 右)

東京文化会館
管理課 管理係 主任(舞台管理担当) 末廣 友紀 氏(写真 左)
ヤマハサウンドシステム株式会社
営業部 首都圏営業所 齊藤 健太(写真 右)


「Intermission(幕あい)」とは、一幕が終わって、次の一幕が始まるまでの間。舞台に幕が下りている間のこと。このシリーズでは、ヤマハサウンドシステムが日頃お世話になっているホール・劇場の世界を牽引するキーマンの方々に、市場のトレンドやヤマハサウンドシステムへの期待などを、その仕事の「Intermission(幕あい)」に語っていただきます。

第二幕 Act10にご登場いただくのは、東京文化会館 管理課 管理係 主任(舞台管理担当) 末廣 友紀氏です。「クラシックの殿堂」と称される「東京文化会館」の音響担当として日頃思っていることや取り組み、さらに舞台音響業界について感じていることを語っていただきました。

高校生の時に観た大地真央さんの舞台に魅了され舞台音響の世界へ

齊藤:末廣さんはどんなきっかけで音響の仕事をしようと思われたのですか。

末廣氏:高校生のころ母に連れられて観に行った舞台に衝撃を受けたことがきっかけかもしれません。 大地真央さんが主演の「クレオパトラ」でした。古代エジプトにタイムスリップしたような感覚になり、休憩になっても立ち上がれないほど感動しました。それがきっかけでいろんな舞台を観るようになり、ある時ミュージカルを観て「お芝居に歌と踊りが入るとこんなにも面白くなるのか」と音楽の力に魅了されました。その後すっかりミュージカルにはまってしまったんです。
ただその時はまだ自分自身が舞台の世界に関われるとは思ってもみませんでした。その後大学に進学し、音響とは関係のない世界に就職しようとしたのですが、どうしても興味が持てなくて。それで「自分の本当にやりたいことは何だろう」と真剣に考えたときに、舞台の世界が好きだと改めて思いました。

第二幕 Act10 東京文化会館 末廣 友紀 様

東京文化会館 管理課 管理係 主任(舞台管理担当) 末廣 友紀 氏

齊藤:そこからどのように音響の世界に入ったのですか。

末廣氏:漠然と舞台の仕事がしたいと思ったのですが、どうすればいいのか全くわかりませんでした。 ある時公演チラシに載っていたスタッフの「音響」の文字が目に入り「音に関わる仕事らしい、これをやろう!」と決心し、大学卒業後に専門学校に入学して音響の勉強をしました。

齊藤:一般大学に行ってから、音響の専門学校に入り直すのは珍しいパターンですね。専門学校卒業後に音響の世界に入るのですか。

第二幕 Act10 東京文化会館 末廣 友紀 様

ヤマハサウンドシステム株式会社 営業部首都圏営業所 営業課 齊藤 健太

末廣氏:専門学校を卒業して劇団四季に音響として就職しました。劇団四季では大きな仕事にも関らせていただき充実した日々を送っていましたが、5年半が経過した頃に「学ぶことは一通り学んだ」という気持ちと「仕事の幅をもっと広げたい」と思うようになり劇団四季を退職して、フリーランスとして音響に携わるようになりました。

齊藤:その後、どんなきっかけで劇場の職員になるのですか。

末廣氏:フリーランスの時に「東京芸術劇場」のサウンド・ディレクターの石丸 耕一さんにお声がけをいただきました。石丸さんは実は私が通っていた専門学校で講師をされていたので面識があり、あるときフリーとしてお仕事をいただいた際に「東京芸術劇場のリニューアル改修に際してスタッフを探しているけどどうか」と誘っていただきました。いい機会だと思い2012年4月に「東京芸術劇場」の職員になりました。

齊藤:その後、「東京芸術劇場」から「東京文化会館」に移ったのはどうしてですか。

末廣氏:単純に異動です。「東京芸術劇場」も「東京文化会館」も東京都歴史文化財団が指定管理を担っている劇場ですので、財団内での異動でした。

「東京文化会館」の“奇跡の響き”の理由の一つは反響板

齊藤:「東京文化会館」の音響は“奇跡的”と称されるほど素晴らしいことで有名ですが、具体的にはどんな特長があるのでしょうか。

末廣氏:「東京文化会館」には大ホール(2,303席)と小ホール(649席)がありますが、どちらも豊かな響きを持ちながら細部まで緻密に聴こえる点で奇跡的だと言えると思います。最初は「東京芸術劇場」のリッチな響きに比べるとちょっと寂しく感じましたが、「東京文化会館」はどの席でもセリフや演奏の音が届きますし、楽器を小さく弾いたら小さく、大きく弾いたら大きく、しかもどの席でも違和感なく聴こえます。これは当たり前のようでなかなか難しいことです。

第二幕 Act10 東京文化会館 末廣 友紀 様

東京文化会館 大ホール (写真提供:東京文化会館)

大ホールに関しては雲のような形状の木材を組み合わせた拡散板レリーフが特長的です。大きいものだと1トンを超える重厚なブナ材が壁面に取りつけられています。これは彫刻家 向井良吉氏の作品で天童木工の職人さんたちがホール内で手作りされ取りつけていったものだそうです。

第二幕 Act10 東京文化会館 末廣 友紀 様

東京文化会館 大ホール壁面の拡散板レリーフ

一方小ホールは当初国際会議場兼用として作られ、結局会議は開催されないまま専ら音楽ホールとして利用されてきたと聞いています。小ホールの特長も反響板で、こちらは蛇腹のような形状です。これは彫刻家の流 政之氏が手掛けました。流さんはタバコの紙箱をパンッと上から潰して「こういう形の反響板にしようと思う」と説明されたそうです。また凸凹があるコンクリートの壁も音を拡散する機能を持っています。

第二幕 Act10 東京文化会館 末廣 友紀 様

東京文化会館 小ホール (写真提供:東京文化会館)

第二幕 Act10 東京文化会館 末廣 友紀 様

東京文化会館 小ホール 反響板と壁面

伝統を守りつつ、同時に劇場界をリードする新たなチャレンジも

齊藤:「東京文化会館」の音響担当として、大切にしていることがあれば教えてください。

末廣氏:「東京文化会館」は建築音響としてもともと素晴らしい響きを持つホールですので、電気音響による拡声が必要な時でも、できるだけ自然に聴かせたいと思っています。ですから、違和感のない自然な電気音響、ということに気をつかっています。

第二幕 Act10 東京文化会館 末廣 友紀 様

齊藤:これまでの公演で特に印象に残るものはありますか。

末廣氏:私が「東京文化会館」に異動してすぐに関わった国際共同制作の主催事業「Only the Sound Remains」です。これはいわゆる現代オペラで、再生音もあれば北欧の珍しい楽器の生楽器もあったりと、前例のない事柄が多かったため、協力要請があり私も参加しました。古典的なオペラなら経験者も多いと思いますが、現代オペラで何をやるのかわからなかったので、音響プランナーや舞台監督等多くの関係者に話を聞いて準備をしました。

齊藤:音響的に無理難題を言われることもあったんじゃないでしょうか。

末廣氏:はい。その時も難しいことはいろいろ言われましたし、それは日常的にもよくあります。しかし劇場の人間として「できない」とは言いたくない。ですからなんとかします(笑)。もちろん不可能な場合もあります。その時はできない理由を明確に伝え、代替案を提案します。映像やLED照明など、これまでなかった技術や機材が出現すれば、それを使って新しいことをやりたいという人も出てきますし、演出家やスタッフ、出演者の数だけ考え方があります。本当に何が出てくるかは予測できませんが、「東京文化会館」の人間としてはどんと構え、何が来ても打ち返さなきゃいけないと思ってます。

どんな要望に対しても、平均点以上のクオリティを担保する

齊藤:「東京文化会館」は「クラシックの殿堂」なので、新しいことにはあまりチャンレンジしないのではないか、というイメージを持っていました。でもそうではないのですね。

末廣氏:「東京文化会館」は伝統を守ると同時に、日本を代表する劇場として常に新しい技術や試みに挑戦し、劇場のあり方をリードする役割も担っています。ただ、そんな中で私はあえて、「平均点を取る」ことも大事なのではないか、とも思います。常に満点を取りに行くのではなく、どんな要望に対しても必ず平均点以上をとる。どんな場合でも一定のクオリティを担保すること。それはそれで大切なことだと思うんです。

第二幕 Act10 東京文化会館 末廣 友紀 様

齊藤:なるほど。機材やシステムがある一つの方向に特化してしまうと、ある方向ではいい結果が出せても、違う方向の要望には対応できない、ということもあり得ますよね。全国の劇場をリードする「東京文化会館」として、どんなものに対しても一定のクオリティで応える、ということですね。
劇場の音響担当として末廣さんがこれまでに影響を受けたことを教えてください。

末廣氏:2012年に、劇場職員として初めて「東京芸術劇場」の改修に関わった際の石丸さんの音響に対する考え方にはとても感銘を受けました。劇場の音に向き合い、スピーカー一つを決めるにしても、こういう音を作りたい、こういう音響デザインをしたいからこの機種を選ぶという明確なイメージを持って臨んでいました。私は今、「東京文化会館」の音響を任されている立場ですが、改修に私が関わるとしたら、私の知見だけではとてもおぼつかないと思いますが、全力で取り組みたいと思います。

第二幕 Act10 東京文化会館 末廣 友紀 様

劇場文化を育て、未来のお客様やスタッフを増やしていきたい

齊藤:今後の劇場のあり方についてはどうお考えですか。

末廣氏:近年は音響技術を目指す女性が増えてきて、現場で多くの女性の音響担当が活躍しています。その一方で舞台の専門学校では生徒数が減少しているという現実もあります。なぜ生徒が減っているのかを考えた時、要因の一つに舞台音響業界の仕事の社会的な立場や経済力に夢を見いだせないという問題があると思います。「働き方改革」といわれて久しいですが、今の舞台音響業界は仕事の内容に対して報酬が見合っているとは言えないのではないでしょうか。若い方が舞台音響の仕事に魅力を感じられるような仕事環境を整えていくのも、我々の課題だと思っています。

第二幕 Act10 東京文化会館 末廣 友紀 様

それともう一つ、私には理想があります。それは劇場に足を運んで公演を楽しむ文化、芸術に親しむ文化を日本にもっと根付かせたいということです。以前フランスに3ヶ月ほど研修に行かせてもらったことがあります。そこでフランスでの芸術の浸透度の深さを痛感しました。この時は新作を制作するカンパニーに音響担当として参加しました。はじめはフランスのとある田舎町にアーティストやスタッフが一つ屋根の下に滞在し、その町の劇場で稽古をして作品を作り上げ、最終的にモンペリエで初演するというものでした。費用はすべて国や公的機関がサポートしていました。このようにカンパニーの新作に関わる費用(食事や住まいも含めて)のほとんどを公的機関が支援するのは日本ではあまりないことだと思うので、非常に驚きました。でもそれ以上に驚いたのは、フランスの人々が日常の中で芸術を楽しみ、同時に芸術を支えるという気持ちが浸透していたことです。日本ではあり得ませんが、制作中の稽古場に一般の人が出入りして稽古をのぞいていたりもしていましたし、カンパニー側の人もそれを全然気にしていませんでした。また日々の暮らしでも芸術家は大切にされていました。たとえばあるアーティストが借りている部屋で粗相をして大家さんにめちゃくちゃ怒られていたんですよ。そこで「自分たちは芸術家でこの町で公演をやるため来ていて……」と経緯を話したら「芸術家なのか、じゃあいいよ」ってチャラにしてくれた上で「頑張れよ。何をやるんだよ」って突然笑顔になって。やはりフランスでは芸術家が尊敬され、大切にされているし、きちんと職業として確立しているのだと強く感じました。

第二幕 Act10 東京文化会館 末廣 友紀 様

齊藤:そういう土壌を日本でもぜひ育んでいきたいですね。

末廣氏:はい。「東京文化会館」では、そうした取り組みの一環として10年ほど前から「東京文化会館ミュージック・ワークショップ」を開催しています。これは音楽や芸術の楽しさを伝えるための、0歳から大人までさまざまな年代を対象としたワークショップです。主に小ホールやリハーサル室を利用し、ワークショップリーダーと呼ばれる出演者が、参加者とともに楽器やボディ・パーカッションでリズムを奏でるような、アットホームなイベントです。演目もどんどん増え、今では60種類以上になります。私はそのワークショップに音響として参加しています。

齊藤:きっと未来の音響さんも参加されていることでしょう。
最後に音響の世界を目指されている方へのメッセージやアドバイスをお願いします。

末廣氏:音楽も映像も、配信で視聴できる時代ですが、やはりライブの感動は格別でお客様もそれを求めて劇場に足を運んでくれているのだと思います。劇場に来たお客様が拍手をしてくださったり、笑顔で帰られる瞬間に立ち会えるのは、劇場の人間としてはすごくうれしいですし、そのためにこの仕事をしているんだと実感します。そういった世界を、多くの方が目指してくれることを期待しています。

第二幕 Act10 東京文化会館 末廣 友紀 様

齊藤:本日はお忙しい中、ありがとうございました。

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