2023年7月1日、2,196席の「富山市芸術文化ホール(オーバード・ホール)」大ホールの北隣に、中ホールが開館。最大652席の可動式客席を備え、さまざまな用途に応える多目的な空間が特長です。その中ホールの音響システムの施工をヤマハサウンドシステムが担当しました。その仕事ぶりなどについて、オーバード・ホール舞台技術課の課長 曽根 朗 氏、音響担当の池田 大輔 氏、家城 隆一郎 氏、川岸 勇也 氏、辻 晴妃 氏にお話をうかがいました。
オーバード・ホール 舞台技術課 課長 音響 曽根 朗 氏(前列中央)
オーバード・ホール 舞台技術課 音響 池田 大輔 氏(前列左端)
オーバード・ホール 舞台技術課 音響 家城 隆一郎 氏(前列左から2番目)
有限会社石金音響 一級舞台機構調整技能士 川岸 勇也 氏(前列右端)
有限会社石金音響 エンジニア 辻 晴妃 氏(前列右から2番目)
ヤマハサウンドシステム株式会社(後列左から)
品質管理部 検査課 宮﨑 萌萌子
名古屋営業所 営業課 土川 晋司
営業部 福岡営業所 営業課 月見 壮一
技術部 名古屋技術課 村上 大樹
設計部 システム設計2課 山田 千恵(リモート参加)
舞台や客席の配置の自由度が高く、多目的な用途に対応する最大652席の「オーバード・ホール/中ホール」
● 富山市芸術文化ホール(以下、オーバード・ホール)」についてご紹介ください。
曽根氏:
「オーバード・ホール」は1996年に開館した大ホールと2023年に開館した中ホールで構成されています。大ホールはオペラ公演として建築された日本では珍しい三面半舞台を備え、客席は1,800席から最大約2,200席まで可変できます。オペラ以外にもミュージカル、演劇、バレエ、オーケストラなどを上演しています。
● 「オーバード」という言葉には「朝」という意味があるそうですね。
曽根氏:
「オーバード」はフランス語で「朝の曲」という意味で、小夜曲の「セレナーデ」の対になる言葉です。このホールを建てるにあたって、「新しい技術や芸術の夜明け」のような意味が込められていたのかもしれません。
オーバード・ホール 舞台技術課 課長 音響 曽根 朗 氏
● 中ホールは、どのような経緯で作られたのでしょうか。
曽根氏:
中ホールは2023年7月1日にオープンしました。もともと大ホールを計画している時から、中ホール、もしくは小ホールを併設する計画はあったのですが、諸事情により遅れていました。そのような状況で、大ホールは2,000席規模で一般の市民の方が利用するには大きいので、もう少し小さくて自由度の高いホールの需要が高まり、大ホールから27年を経て最大652席の中ホールが完成しました。
● 中ホールは大ホールとは違う用途が想定されているのですね。
曽根氏:
中ホールは舞台や客席の配置の自由度が高く、多目的な利用に対応できる点が最大の特長です。ステージと客席は可動式で、通常のステージ形式だけでなく囲み型のセンターステージ平土間使用も可能です。平土間ではブースを設置した展示会なども行えます。客席数の規模も最大で652席と手頃なので、大ホールの規模では大きすぎた催しで活用できるようになり、地域の方や企業の方にとって利用しやすい施設となっています。
通常のステージ形式
平土間形式
設計段階から音響担当者の意見を採り入れることで使い勝手のいい音響システムを導入
● 音響的には、どんなところが中ホールの特長なのでしょうか。
曽根氏:
大ホールはオペラ公演を意識した音響設計となっています。コンサートホールのような豊かな響きよりも客席に伝える言葉、台詞の明瞭性の高さを優先する建築です。残響時間はおよそ1.3秒。大ホールと中ホールでは劇場の様式は違いますが、音響設計は似ていると言えるかもしれません。中ホールは客席に声が明瞭に届くことを目的としており、建築音響的に響きを抑えられています。残響時間は1.2秒程度と短いのですが、素直で質のいい響きだと思います。変な響きが残らないところがPAを使用する音楽系の方からは好評です。一方で豊かな響きを必要とするクラシックや合唱などの催しでは可動式の反響板を設置することで自然な響きを増強できます。ですから音響面でも講演や学会、展示会から音楽用途までさまざまな用途に対応できる自由度の高いホールだと言えます。
可動式の反響板を使用したステージ
● 中ホールの音響システム構築には、曽根さんの意見も多く反映されたそうですね。
曽根氏:
はい。ホールの指定管理者が意見を言う機会は少ないと思いますが、現場担当として音響や照明、楽屋についての意見を出す機会をいただき、コンサルタントの方と相談しながら実際の使用にマッチした音響システムを構築しました。
● 曽根さんの意見が反映されたのはどのような点ですか。
曽根氏:
中ホールは舞台の形状だけでなく、音響に関しても多目的な用途に応える自由度の高いものにしたいと考えました。例えば、決まった機材を渡してこうやって使ってください、とお願いするのではなく、お客様のさまざまな用途に柔軟に対応できるシステムが理想でした。
調整卓には高機能で可搬性の高いヤマハのデジタルミキシングコンソール「CL5」と「CL3」を選定
● 具体的な音響システムについて教えてください。
曽根氏:
調整卓の選定にはこだわりました。お芝居では出力数がたくさんあった方がいいですし、バスやMATRIXも多い方が有利です。さらにバラしたり組み直しができればより自由度が増します。それにはハイエンドな大型卓が1台だけドーンと置いてあるよりは、高機能ながら可搬性の高いミキサーが2台あった方が柔軟な使いこなしができると考えました。それで、ヤマハのデジタルミキシングコンソール「CL5」と「CL3」の導入を決めました。
音響調整室のデジタルミキシングコンソール ヤマハ「CL3」(左)と「CL5」(右)
デジタルミキシングコンソール「CL5」
デジタルミキシングコンソール「CL3」
プロセニアムスピーカーと移動型サイドスピーカーにNEXO「GEO M10シリーズ」で構築されたラインアレイを採用
● プロセニアムスピーカー、サイドスピーカー、ウォールスピーカー、バルコニーなどの補助スピーカーなどほとんどのスピーカーでNEXOのスピーカーを採用されました。これはどうしてですか。
曽根氏:
実は大ホールでNEXOのスピーカーを長く使っているんです。そのため、NEXOの音はよく知っていて、中ホールにもNEXOの音が合うだろうと考えました。
● プロセニアムスピーカーや移動用スピーカーにNEXOの「GEO M10シリーズ」が導入されました。選定した理由を教えてください。
曽根氏:
「GEO M10」はサイズとパワーのバランスがとれており、この中ホール規模での使用に適しています。実際にいくつかのモデルと比較検討してみたのですが、「GEO M10」がマッチしていました。特に重視したのは取り回しの良さとサイズ感で、音量も十分でありながら、設置や移動が容易な点は大きな利点です。当時小柄な女性がスタッフもいましたし、今後音響業界においてさらに女性比率が上がっていくでしょうし、誰にでも楽に扱えることを考えました。
センター、下手、上手のプロセニアムスピーカー(NEXO「GEO M1025」によるラインアレイ)
グランドスタックされた移動型サイドスピーカー(NEXO「GEO M1012」とサブウーファー「MSUB15」)
運搬や使い勝手など現場の利便性を徹底的に追求した音響システム
● オーバード・ホールの音響スタッフの皆さんにうかがいます。辻さんはNEXOのスピーカーの使い勝手はどうですか。
辻氏:
私は中ホールのオープンのタイミングで入ったばかりなので、まだ先輩方のサポートが多いのですが、サイドスピーカーの出し入れなどではあまり苦労せずにできるので助かっています。
有限会社石金音響 エンジニア 辻 晴妃 氏
サイドスピーカーのスタックを設置する音響スタッフの辻さん
● 川岸さんはいかがですか。
有限会社石金音響 一級舞台機構調整技能士 川岸 勇也 氏
川岸氏:
私は中ホールのホール管理や乗り込みエンジニア用のデータを作ることが多いですが、「CL5」、「CL3」、そしてNEXOのアンプまでホール全館がフルDanteで構築されていて、仮設するDante機器をつなぐ回線を各所に設置してもらったので、とても自由度が高くて助かります。
● 家城さんはいかがですか。
オーバード・ホール 舞台技術課 音響 家城 隆一郎 氏
家城氏:
私は大ホールと中ホールの管理を行っていますが、調整卓の「CL5」、「CL3」が非常に使いやすくていいと思います。それとスピーカーON/OFF制御する「システムリモートパネル」なども使いやすく作っていただいたと思います。
音響調整室のシステムリモートパネル
● 池田さんはいかがでしょうか。
オーバード・ホール 舞台技術課 音響 池田 大輔
池田氏:
私も同じく大ホールと中ホールそれぞれでホール管理を行っています。中ホールは機材の組み合わせが柔軟で自由が利く点がいいと思います。ヤマハのデジタルミキサー「TF-RACK」が下手袖に常設してあるので、袖で操作を完結できますし、とても使い勝手がいいと思います。
下手袖に設置したヤマハのデジタルミキサー「TF-RACK」
完璧に仕上げるのではなく、演目によって調整できる余白を残した調整を行う
● ここからは「オーバード・ホール/中ホール」の音響設計、施工、保守に関わるヤマハサウンドシステムの社員も参加します。システム設計を担当した山田さんは、どんなところにこだわったのでしょうか。
山田:
最初に図面を見たとき、音響回線がいろいろな箇所につながっているので、音響演出としてやりたいことがたくさんあることを理解しました。今回はメインの音響設備だけでなく、楽屋呼び出しを含んだ連絡設備も構築しました。このような楽屋呼び出しは私自身初めてだったので、そもそもどういう使われ方をしているのか、というところから勉強させていただいて、このホールにとって最適なシステムになるように曽根様と打ち合わせを重ねました。
ヤマハサウンドシステム株式会社 設計部 システム設計2課 山田 千恵
● 例えばホール側からはどんなご要望があったのでしょうか。
山田:
楽屋系統にはエアモニターマイクの音、ライン、ブザー、楽屋呼び出しのマイクとさまざまな音源を送ります。通常はエアモニターマイクの音とラインのミックスを流していますがブザーや楽屋呼び出しがかかったら、それ以外の音はダッカーで自動的に下げる仕組みです。ブザーや楽屋呼び出しのような重要な音は、他の音量を抑えて内容を明瞭に伝えたいというご要望でした。
楽屋呼び出しボタン
● 施工管理担当の村上さんがこだわった点を教えてください。
村上:
今回は工事が始まる段階から曽根さんとお話しする機会が多かったので、曽根さんが実現したいと思われていることを現場に落とし込むことができました。工事で実際に形にしていく過程では、図面だけでは伝わりにくい細かい部分もあるのですが、そうした細かい部分を曽根さんと会話をしながら、工事で対応できるものは対応しました。具体的に運営される方の意向を反映しつつ工事を進めることができました。これは、ホールができあがってから運営の方が決まる現場では実現しにくいことだと思います。
ヤマハサウンドシステム株式会社 技術部 名古屋技術課 村上 大樹
● 音響調整を担当した宮﨑さんは、どんなところに力を入れましたか。
宮﨑:
一般に私たちが音響調整を行う際、全ての席に音が均一に届くことを目指して調整することが多いのですが、今回は曽根さんから「あえて私たちが調整できる余地を残したい」とお話を伺いました。これは匙加減が難しいところではありましたが、曽根さんとじっくり検聴しながら音響調整が行えたので良かったと思います。
ヤマハサウンドシステム株式会社 品質管理部 検査課 宮﨑 萌萌子
曽根氏:
中ホールは舞台や客席形状が変化しますので、その変化に私たちで柔軟さ、自由さを意識しました。上演する作品がかわれば、期待される「最高なもの」も変わると思っています。これは自分たちの作品の携わり方もあるし、外オペさんとの関係もあります。ホールとして、「どんな音にしたいですか? どういう風に鳴らしたいですか?」と話し合いをして、「最高なもの」を提供するのが、私たちの仕事かなと思っています。
● 月見さんは、営業としてどのように「オーバード・ホール」に関わってきたのですか。
月見:
先ほど曽根さんからお話があったように、このホールは工事段階から運営をされる方が関われていましたので、運用について明確なイメージがありました。そのイメージに応えられるようなベストな機種やシステムをご提案し、フィードバックをいただく、ということを何度も繰り返しました。
ヤマハサウンドシステム株式会社 営業部 福岡営業所 営業課 月見 壮一
● 土川さんは、月見さんからオーバード・ホールの営業を引き継いだそうですが、今後どのようにオーバード・ホールとの関係性を築いていきたいと思いますか。
土川:
保守業務で本格的に関わるのはこれからになりますが、YSS企業広告にある保守について「お客様とチームになる」というフレーズをモットーに、お客様保守営業という関係性からさらに、お客様のチームの一員となって10年、20年と長く関わらせていただき、メンテナンス以外のご要望にも対応していきたいと思っています。
ヤマハサウンドシステム株式会社 名古屋営業所 営業課 土川 晋司
● 最後に曽根さんにおうかがいします。YSSの仕事ぶりはいかがでしょうか。
曽根:
ヤマハサウンドシステムさんには、僕の意見を丁寧に聞いていただき、しかも僕の拙い言葉をうまく汲んでいただいて本当に助かりました。よく仕上げていただいたなと思います。今後も実際に運営する中で「ここをこうしたらもっと自由度が上がるのかもしれない」と閃くこともあるかもしれないので、またご相談させていただきます。今後ともよろしくお願いします。
● こちらこそ、末永くよろしくお願いいたします。本日はご多忙中ありがとうございました。
ダウンロード「納入事例リーフレット」
外部リンク

