「大船渡市民文化会館 リアスホール」は、1,100席の大ホールに加え、マルチスペース、アトリエ、会議室、練習室、スタジオ、図書館を併設した複合施設です。岩手県大船渡市の名勝「穴通磯(あなとおしいそ)」をモチーフとした意匠が特徴的で、多くの市民から愛されています。2021年から2022年に2期にかけて行われた音響設備改修ではシステム設計、施工をヤマハサウンドシステムが担当しています。改修の概要や音響システムの使い勝手などについて、大船渡市民文化会館 音響担当 赤井 寛和 氏にうかがいました。
大船渡市民文化会館 舞台技術員 赤井 寛和 氏(前列右)
ヤマハサウンドシステム株式会社 技術部 技術3課 正岡 晶(前列左)
同 設計部 計画設計課 岩渕 聖子(後列右)
同 品質管理部 検査課 伊賀川 淳(後列左)
岩手県大船渡市の名勝「穴通磯」をモチーフとしたホール
● 「大船渡市民文化会館 リアスホール」について教えてください。
赤井氏:
「大船渡市民文化会館 リアスホール」は、2009年にオープンし、2024年で15年目を迎えました。それまで大船渡市には市営の文化施設がなく、市民が待ち望んでいた文化会館がようやくできた、ということになります。大船渡市の名勝「穴通磯」をモチーフにデザインされた美しく複雑な形状が特徴で、天井は空を漂う雲、壁は波打ち寄せる岩肌や岩礁を、座席の色は8種類のブルーのグラテーションで波を表現しています。壁の凸凹は音響反射板としての役割も果たしています。
大船渡市民文化会館 リアスホール 外観
大ホールホワイエ
大船渡市民文化会館 リアスホール 大ホール
波を表現した座席
● 自主事業も多く行われているそうですが、どのような公演があるのでしょうか。
赤井氏:
月に1回程度自主公演を行っていて、主に外部のアーティストを招聘しています。これとは別に、毎年、「リアスウェーブフェスティバル」というイベントを開催しています。これはアマチュアバンドのライブやフリーマーケットが出店する、施設全体を使った大規模なイベントです。また、近隣に映画館がないという事情もあり、定期的に映画の上映会も行われています。ここでの上映は迫力のあるいい音で聴けるのでお客様から好評いただいています。このように地元の方に寄り添った催しを考えていくことも、公共の文化施設には必要なことだと考えています。その他には市のイベントとして成人式や講演会など、そして選挙の開票所としても利用されています。
大船渡市民文化会館 舞台技術員 赤井 寛和 氏
● 「大船渡市民文化会館 リアスホール」では多様な公演が行われていますが、多目的に使用されるホールとして大切にしていることはありますか。
赤井氏:
事前のお客様との打ち合わせを入念に行うよう心がけています。たとえば音楽の催しであればPAを使うのか、音響反射板を使うのかなどを聞いておきます。当日になって反射板を降ろしたりしていると貴重な時間をロスしてしまいますので、事前に準備できることはやっておきたいと思っています。
2期に分けた改修工事で調整卓やスピーカーを更新し
ホールの音質が格段に向上
● 音響システムの改修についておうかがいします。改修の趣旨を教えてください。
赤井氏:
最大の理由は機材の更新です。開館から10年以上が経過し、機材が老朽化してしまいました。
● 改修工事は2期に分けて行ったそうですね。それはどうしてですか。
赤井氏:
あまり長い休館ができない事情がありました。市民にとっては一生に一度でもある1月の成人式を優先したとも聞いています。
● 改修後の音の印象はいかがでしょうか。
赤井氏:
1期工事ではそれまでのデジタルミキサーをヤマハのデジタルミキシングコンソール「RIVAGE PM5」に更新しました。フルデジタル化したことで解像度が向上し、同時にEQやリバーブなど以前使っていたアウトボードが「RIVAGE PM5」内蔵のものを使えるので、エフェクターなどの周辺機器をシェイプアップできました。2期工事ではスピーカーなどの出力系を更新し、そのタイミングでホール全体の最終的な音響調整をしていただき、音が格段に良くなりました。
音響調整室
音響調整室に導入されたヤマハ デジタルミキシングコンソール「RIVAGE PM5」
● 音響だけでなく映像設備の更新も行ったそうですね。
赤井氏:
はい、映像設備も更新しました。先ほど映画上映の話をしましたが、講演でもプレゼンテーションの画像投影で映像機器を使用します。今回の改修で舞台袖からプロジェクターまでの映像回線をアナログから光ファイバーのデジタルにし、プロジェクターも8,500ルーメンから12,000ルーメンのものにグレードアップしました。おかげで画像がシャープになり、文字もくっきり見えるようになりました。
更新した12,000ルーメンのプロジェクター
● 2期の改修ではマルチスペースに光ケーブルを敷設したそうですが、マルチスペースはどのように利用されているのですか。
赤井氏:
普段は講演会やピアノ発表会などで使用されることが多いです。そこに光ケーブルを敷設したことで、大ホールとマルチスペース間でデジタル信号のやりとりができるようになりました。映像や音声のやりとりが簡単に、しかも高品位に行えるようになりました。
マルチスペース (写真提供:大船渡市民文化会館 リアスホール)
大ホールの隣、会議室や和室などが並ぶエリアの中央に位置するマルチスペース(画像提供:大船渡市民文化会館 リアスホール)
● ロビーや楽屋など、の音響も改修したのでしょうか。
赤井氏:
ロビーにおいては多くのお客様から「アナウンスが聴き取りにくい」と言われていました。ヤマハサウンドシステムさんにロビーのスピーカーを念入りに調整いただき、劇的に音質向上したと感じています。
大船渡市民文化会館 リアスホール ロビー
● 改修後、音に関してお客様からの反響はありましたか。
赤井氏:
大変多くのお客様から「音が良くなったね」という声をいただきました。音響担当の私は、この改修で音質が劇的に向上したと感じていましたので、音に関心のある方からそのようなご意見をいただくことは予想していましたが、あまり音を気にされていないと思っていた日本舞踊のお師匠さんからもお褒めいただいたので、ちょっと驚きましたね。
ホールの意匠や使い勝手を維持しながら
飛躍的な音質を実現するために
● ここからは、改修工事に携わったヤマハサウンドシステムのメンバーにも話を聞いていきます。まず、現場で施工管理を担当した正岡さんは、今回の工事で工夫した点やこだわった点はありますか。
正岡:
今回の改修は1期工事と2期工事の間に3カ月くらい間があり、そこで成人式という大事な催しがあるということで、1期工事終了後にホールの意匠や運営に影響が出ないよう気を配りました。2期工事はスピーカーなどの出力系を更新でしたが、「大船渡市民文化会館 リアスホール」はスピーカーが壁面などに隠蔽設置されているため、設置や調整に細心の注意を払いました。特にホールの形状が特殊ということもあって、音響調整の担当の伊賀川といっしょに、スピーカーから音を出して測定して、スピーカーの設置位置や角度を細かく追い込んでいきました。
ヤマハサウンドシステム株式会社 技術部 技術3課 正岡 晶
隠蔽されたサイドスピーカー
壁際に設置した補助スピーカー
● 音響システムの設計を担当した岩渕さんは、今回の工事で特に工夫した点やこだわった点はありますか。
岩渕:
工期が2期に分かれることは珍しくありませんが、1期のあとに大事な催し物があったので、最終ゴールを見据えつつ途中にもゴールがある、という感じでした。このような工事は初めてだったので、緊張感がありました。操作性に関しては既存のシステムのいいところを維持しながら、最新の機器を違和感なくお使いいただけるようにする、という点に気を配りました。
ヤマハサウンドシステム株式会社 設計部 計画設計課 岩渕 聖子
音響調整室に設置したシステムリモートパネル
● 音響調整を担当した伊賀川さんはどうでしょうか。
伊賀川:
1期工事では音響調整卓を最新のデジタル卓に更新しました。その時点ではスピーカーは既存のままですが、ミキサーを変えると音質は変わります。1期工事では違和感がないよう既存の音質を意識して音響調整を行いました。その際に赤井さんと綿密なやりとりをさせていただいたので、この改修工事で赤井さんが目指している音がつかめました。この経験から、2期工事のスピーカー更新のタイミングで新しい音に仕上げました。
ヤマハサウンドシステム株式会社 品質管理部 検査課 伊賀川 淳
● 赤井さんが求めていた音とは具体的にどのようなものだったのでしょうか。
伊賀川:
「大船渡市民文化会館 リアスホール」は多目的ホールなので、まずフェーダーを上げると俊敏に反応することや、映画上映などでは迫力がある音を出したい、特に低域を今までよりふくよかにしたいと理解しました。
● 赤井さん、結果的に目指す音に変わりましたか。
赤井氏:
はい、今までとガラッと変わってすごく良くなりました。
● ヤマハサウンドシステムのみなさんにうかがいます。この改修工事で得たものやその後の業務に活かしていることがあれば教えてください。
正岡:
2期に渡る工事を通じて、ホールの意匠を変えることなく新しい配線を増やすためのルートを探したり、設置場所を工夫したりという試行錯誤は、今後の現場でも活きてくると思います。
岩渕:
1期と2期の工期の間に大切な成人式が控えていました。そのため1期の後に無事に音が出たと聞いてほっとしたのを覚えています。映像システムも含め、自分としてはここで初めて入れた機材もありましたので勉強することがたくさんあり、とてもいい経験になりました。
伊賀川:
この改修は建築意匠を変えないことも大事でしたので、限られたスペースで新しいスピーカーの向きや角度をカット&トライを繰り返し、調整を行いました。ここでこれだけの音を仕上げられたという経験は今後の自分の糧になると思います。
● 赤井さんから見てヤマハサウンドシステムの仕事ぶりはいかがでしたか。
赤井氏:
素晴らしかったです。このホールは意匠を大切にしているので工事する側は大変だと思いますが、意匠上のせめぎ合いを含めて非常によくやっていただいたと感謝しています。今後もヤマハサウンドシステムさんのご協力を得ながら、より良い音響システムへと更新していきたいと思います。
● 本日はご多忙中ありがとうございました。
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