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第二幕 Act6
滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール
舞台技術部 部長 押谷 征仁 様【後編】

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舞台技術部 部長 押谷 征仁 様【後編】

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第二幕 Act6 滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール
舞台技術部 部長 押谷 征仁 様【後編】

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滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール
舞台技術部 部長 押谷 征仁 様【後編】

第二幕 Act6 滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール 舞台技術部 部長 押谷 征仁 様【後編】

滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール 舞台技術部 部長 押谷 征仁 氏(写真 左)
ヤマハサウンドシステム株式会社 営業部 東京営業所 営業課 齊藤 健太(写真 右)

滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール
舞台技術部 部長 押谷 征仁 氏(写真 左)
ヤマハサウンドシステム株式会社
営業部 東京営業所 営業課 齊藤 健太(写真 右)


「Intermission(幕あい)」とは、一幕が終わって、次の一幕が始まるまでの間。舞台に幕が下りている間のこと。このシリーズでは、ヤマハサウンドシステムが日頃お世話になっているホール・劇場の世界を牽引するキーマンの方々に、市場のトレンドやヤマハサウンドシステムへの期待などを、その仕事の「Intermission(幕あい)」に語っていただきます。
今回は、滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール 舞台技術部 部長 押谷 征仁氏に前・後編でご登場いただいています。後編では、「メトロポリタン歌劇場」での研修のお話、そして日本各地のホールや劇場が文化を発信する場として存続するためにはどうすべきか、などについてうかがいました。

第二幕 Act6 滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール 舞台技術部 部長 押谷 征仁 様【後編】

プロフィール 押谷 征仁(おしたに まさひと)
滋賀県出身。公益財団法人びわ湖芸術文化財団 滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール 舞台技術部 部長。株式会社 大阪共立にて、コンサートツアー・大阪厚生年金会館勤務を経て、現在に至る。開館当初からびわ湖ホールの財団職員として勤務し、主としてオペラや、バレエ等の音響デザインを手がける傍ら、舞台監督・技術監督としても活躍しており、劇場音響コンサルタント等も手がける。公共劇場舞台技術者連絡会 事務局長。一般財団法人 日本音響家協会 西日本支部 監査。

オペラを学ぶために「メトロポリタン歌劇場」へ研修に

齊藤:オペラは、他の芝居や音楽とは異なる知識が必要となる総合的な舞台芸術だと思うのですが、押谷さんはどのようにしてオペラを学んだのですか。

押谷氏:おっしゃるとおりオペラを上演するためには非常に多くの知識が要求されます。私は「滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール」で数多くの海外のオペラ公演を担当するうちに、オペラの本場では、オペラの劇場がどのように運営されているのか理解したいと思うようになりました。そこで2002年に文化庁の在外研修員制度を活用しニューヨークの「メトロポリタン歌劇場」へ研修に行きました。

第二幕 Act6 滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール 舞台技術部 部長 押谷 征仁 様【後編】

滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール 舞台技術部 部長 押谷 征仁 氏

齊藤:ヨーロッパではなく、ニューヨークのオペラハウスにしたのはなぜですか。

第二幕 Act6 滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール 舞台技術部 部長 押谷 征仁 様【後編】

ヤマハサウンドシステム株式会社 営業部 東京営業所 営業課 齊藤 健太

押谷氏:オペラの本場といえばヨーロッパかもしれません。しかし私が追求したかったのは古典的なオペラの手法ではなく、音響、照明、舞台機構におけるオペラの最先端技術でした。エンターテインメントが文化として深く根ざしているアメリカがそれらを学ぶには格好の場所だと思い、ニューヨークの「メトロポリタン歌劇場」を選びました。

齊藤:「メトロポリタン歌劇場」でのオペラ運営は、どのようなものでしたか。

押谷氏:かつてのオペラ劇場には木造の舞台装置があり、舞台装置のブリッジは手で操作していました。手動ではバトン1本に載せられる重量は最大でも約200kg程度です。現在の舞台装置は鉄骨製で重量は1トンを越えるものも多いため、「メトロポリタン歌劇場」ではモーターで電動化されています。また、舞台構成も非常に合理的です。午後8時から本番が行われるのですが、作曲者もそのスケジュールを見越して?なのか、出演者の配慮が伺えます。例えば、治安面を考えると子役は終演よりも前に帰宅させる必要があるので、第一幕、第二幕での出演が終わったらすぐに帰します。またオペラには影コーラスという、ステージ脇で歌う演者がいますが、最後の出番の時は帰り支度をしたまま舞台脇で歌い、そのまま帰宅します。カーテンコールは残った出演者だけで行います。本番終了後は「ナイトギャング」と呼ばれるクルーたちが朝までに舞台を撤収し搬出します。シーズン中は、レパートリー・システムと呼ばれる「日ごとに違う演目」を行っていることから、運営面についてもよく練り上げられたシステムで運営されていました。

齊藤:「メトロポリタン歌劇場」での研修を通じて、日本とニューヨークとで一番違うと感じたことは何ですか。

押谷氏:2つあります。1つは運営が非常にシステマチックに行われている点。たとえば舞台に出演する人、劇場で働く人たちはそれぞれの職業別のユニオンに所属しています。俳優は俳優のユニオン、舞台監督は舞台監督のユニオン、音響エンジニアは音響エンジニアのユニオン、ヘアメイクはヘアメイクのユニオンに所属しています。そしてユニオンに所属することで不当な低賃金や過重労働などから守られます。ブロードウェイのミュージカルが出演者やスタッフのストライキで時折公演が休止になるのはそのためです。一方劇場の支配人にはこれらのユニオンと契約を結んで円滑に劇場を運営する能力が求められます。このような劇場関係者全員の労働環境を保護するシステムを導入し、業界全体の労働環境を向上させることは、日本でも形態は違ってもシステムとしては必要だと強く感じました。

齊藤:もう一つは何ですか。

押谷氏:人材を育成するシステムです。アメリカでは人材育成システムがしっかりと確立されていることに感銘を受けました。まずアメリカには「ステージマネージャーハンドブック」のような舞台や劇場について学べる本がたくさんあります。さらに大学には舞台の様々な職種に特化したコースがあります。ですから大学のテクニカルマネージャーコースを修了した人々がその役職を得るわけです。このような仕組みも日本でも確立していかなければならないと思いました。

第二幕 Act6 滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール 舞台技術部 部長 押谷 征仁 様【後編】

齊藤:音響について「メトロポリタン歌劇場」で学んだことはありましたか。

押谷氏:たくさんありました。特に印象に残ったのはマイクの使い方です。例えばPAをする時、私たちはついマイクをたくさん設置してしまいます。でもマイクが多ければ多いほど、そこにいろんなノイズが入り位相も乱れ、結果的に音が濁ってしまいます。この濁りはマルチマイクの最大のデメリットだと思っています。「メトロポリタン歌劇場」では大人数の影コーラスでもワンポイントのマイクしか使いませんでした。コーラスが20人、30人でも、XY型にマイクを配置すれば広範囲に音が拾えます。
またオーケストラのPAでもエンジニアは多数のマイクを立ててレベルをいじりたがる傾向がありますが、オーケストラの場合は演奏の時点で指揮者がいちばんいいバランスを取っています。それに対してエンジニアが、技術者の手を加えるのは違うと思うんです。
音はそのまま出すのが一番いい。いかに「そのままの音を出すか」こそが、エンジニアが腕を振るうべき場所だと思います。むしろスピーカーからの音を壁に反響させてスピーカー臭さをとってから客席に出す。「原点に還る」ことの大切さを改めて学びました。

舞台芸術に関わる仕事の地位を向上させたい

齊藤:押谷さんは舞台関連の人材の地位向上に使命感を持って仕事をされていると聞きました。それも「メトロポリタン歌劇場」での研修の影響でしょうか。

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押谷氏:そうです。ニューヨークでは舞台芸術が産業としてきちんと機能しています。そして舞台に関わる仕事をしている人に対しても「劇場で働いているってすごい!」と高く評価されています。一方で今の日本で劇場で働いているというと「裏方さん?なにをする仕事ですか?」と言われてしまいます。一般的に劇場に技術者が居ること自体を認知されていません。それが残念でなりません。ですから舞台に関わる人間の職業の地位を向上させ、日本でも「劇場で働いているってすごい!」と言われるようにしたいんですよ。だって舞台で働いていることは本当にすごいことですから。
こうした地位向上のためには、職種ごとにきちんとカテゴライズし産業として成立するような環境を作る必要があります。また大学や専門学校等で学んだ後に特定の技術のスペシャリストになる道筋を作るとか、劇場が核となり教育機関と連携するような環境を作る必要もあると考えています。

齊藤:舞台関係者は「裏方」ではなく、アーティストとして評価されるようにしたい、ということですね。

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押谷氏:そうです。我々はアーティストではありませんが、アーティスティックな感性を持った技術提供が必要と思います。社会的認知度を高めるためには資格認定制度を作る方法もあるかとは思いますが、感性とは資格を取ればいい、というものでもありませんから、他の解決策を見つけたいと考えています。

人材育成事業を通じて劇場を育てる

齊藤:劇場やホールは、その地方の文化発信の拠点だと思いますが、財政的な問題などさまざまな要因で閉館するホール・劇場が増えています。存続させるための対策はあるでしょうか。

押谷氏:日本全体の人口減少、そして財政難もありますから、閉館する劇場は今後どんどん増えていくでしょう。その状況を回避するためにはホール・劇場にアカデミーとしての機能を持たせることが必要だと思います。具体的には、学校事業を劇場に持ってくるんです。学校の授業を劇場で行うことも一例ですし、音楽会などのイベントや作品制作、研修会、文化祭の活動なども劇場で行う。そのように教育が劇場とマッチすれば劇場は存続できると思います。

齊藤:「滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール」は大学と積極的に連携されていますね。

押谷氏:私たちは大学との連携を重視しており、今年で10年目となります。国の「劇場、音楽堂等の活性化に関する法律」(劇場法)とも合致した施策で、第13条の劇場、音楽堂等と大学等との連携及び協力の促進として、滋賀県にある成安造形大学などの芸術系の大学と、立命館大学の映像学部とも連携し、共に作品を創ることで就職にも役立てられる知識を得られるばかりか、次世代のリーダーを育てる人材育成事業を行う「びわ湖ホール舞台技術研修〜人材育成講座〜」を開催しています。

齊藤:「びわ湖ホール舞台技術研修〜人材育成講座〜」は ワークショップでしょうか。

押谷氏:年に4回開催するスタッフワーク講座でプロから学び、学生たちが衣裳・舞台装置・映像美術などのプランナーとして作業します。また、出演者はオーディションで選ばれ稽古をして出演者も育てます。公演前には全国の劇場関係者が集い約1週間かけてオペレートの考え方を教える、実践型の講習です。

第二幕 Act6 滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール 舞台技術部 部長 押谷 征仁 様【後編】

齊藤:それは素晴らしい公演参加型講習会ですね。

押谷氏:ありがとうございます。大学は「技術を教える場所」、劇場は「作品制作を教える場所」だと考えています。大学で学んだ技術や知識を、劇場で作品にどう生かすかを実地で学んでもらいます。一方で小中学生には滋賀県と協力して音楽会を通じたフローティング授業を提供しています。フローティング授業とは学校の授業の一部として劇場に来る活動です。これらを通じ、広範囲に人材育成を行っています。

齊藤:子どもから専門の学生まで非常に幅の広い人材育成を行っているのですね。

押谷氏:裾野は広く頂点は高い、いわば富士山のような形を目指しています。頂点はもちろんオペラです。頂点を極めることはもちろん大切です。しかし広範囲にわたる裾野は地域に根ざした文化レベルを高める活動であり、その広さも高さと同じぐらい重要だと考えています。

ヤマハサウンドシステムには
トータルコーディネートされたシステムを提案してほしい

齊藤:押谷さんから我々ヤマハサウンドシステムにアドバイスをいただけないでしょうか。

押谷氏:ヤマハサウンドシステムさんは我々にとっても大切なパートナーですが、ヤマハサウンドシステムのみなさんによく言っているのはトータルコーディネートした提案をしてほしい、ということです。

第二幕 Act6 滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール 舞台技術部 部長 押谷 征仁 様【後編】

齊藤:「システム全体としてのトータルコーディネート」とはどういうことですか。

押谷氏:感覚的にはリフォーム業者と似た感じですね。たとえばバスルームをリフォームするとして、バスタブはいくら、シャワーはいくら、と個々の設備の費用を提示するのではなく「リフォームするとこんな素晴らしいバスルームになります」、と全体のビジョンを提示しますよね。それと同じようにたとえば、ミキサーやスピーカー、アンプなどの個々の機材や製品の性能や価格の話ではなく、今、この劇場に最も求められている音響システムをトータルに提案することが効果的ですし、結果的に良い音が出せるようになるのだと思います。今の劇場のニーズに応える音響システム全体を提案するんです。
そのためにはまずその劇場の現在の音響状況を調査し、そこに対してどのような音響環境が実現できる音響システムなのかを具体的に説明できること。それを文書や資料にまとめて提供することが大切だと思います。

齊藤:それは音響を可視化した説明資料が必要だと言うことでしょうか。

押谷氏:その通りです。専門的な知識がない人にも十分に内容が伝わる資料が必要です。音は目に見えません。そして音響の人間にとっての常識は、一般の人にはわからない。ですからできればスピーカーの音が客席に届いている状態を可視化した資料があったほうがいい。より多くの方にその音響システムの必要性が伝わるような資料を作成することが大切だと思います。

音響を目指す若者に「ホール・劇場」という就職先があることを知ってほしい

齊藤:最後に音響を目指す若い方々に、メッセージをいただけますか。

押谷氏:私は、音響を目指す若い人々に、ホールや劇場という就職先の選択肢があることをもっともっと知ってほしいと思います。最近、音響の専門学校で就職説明会に参加する機会があります。そこの多くの生徒たちは照明会社や音響会社への就職を考えていますが、劇場にも雇用の機会があることが十分に知られていないんです。
確かに昔は、劇場には専門の技術者がいなかったため、音響専門職として劇場に就職するという選択はあまりありませんでした。事務の人しかいないところも多かった。しかし現在の劇場には専門職の技術者がいます。ここ30年ぐらいで、きちんとした知識や技術を持っている人、海外で活躍されている専門の人間が増えてきました。「滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール」ではインターンを募集するなど、さまざまな取り組みを行っています。ぜひインターンに来てもらって、若い音楽好きの音響担当者が楽しく仕事しているところを見せていきたいですね。

齊藤:「滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール」のような創造型劇場であれば、通常の劇場よりも楽しさややりがいが感じられるのではないでしょうか。

押谷氏:指示されたとおりに操作するだけではなく、自分自身のアイデアを生かしてさまざまなことを実現できる。それが創造型劇場で働く魅力です。
例えばPA会社に就職した場合、モニターオペレーターになるまでに5年、メインオペレーターになるまでに10年といった時間が必要になることもしばしばあります。しかし劇場に就職したらすぐに音響卓を操作してもらいます。基本的な操作方法は先輩が教えてくれるし、コンサートのようにスピーカーや卓が仮設ではなく固定されているので、リファレンスやプリセットが簡単に作れるし活用できます。ですから技術的な問題にあまり悩むことなく、初めから作品に集中できるようになります。私は音響担当者にとって大切なこととは、技術的なスキルアップよりも作品に対するスキルの向上だと思います。自分の技術をどう作品に生かすか。それを学ぶという意味では、劇場が最も学びやすい環境だと思います。

第二幕 Act6 滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール 舞台技術部 部長 押谷 征仁 様【後編】

齊藤:実は私自身もホール出身です。当初はレコーディングエンジニアになりたいと思っていましたが、しばらくしてからとあるクラシックコンサートを聴きにいったことで「ホール・劇場」で働くという選択肢が存在することに初めて気づきました。ですから一般の方々はホールに音響スタッフがいることも知らないのだと思います。私たちヤマハサウンドシステムも、ホール・劇場に携わる仕事をしていますから、若手の育成や業界の発展を促進するような活動にも力を入れて行くべきだと強く感じました。

押谷氏:劇場は本当に素晴らしいものです。劇場に関連する仕事がみんなの「憧れの職業」になるように、一緒にその魅力を伝えていきましょう!

齊藤:ヤマハサウンドシステムも微力ながら劇場の仕事が「憧れの職業」になるように頑張りたいと思います。本日はお忙しい中、ありがとうございました。

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