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トップ対談 #08
一般社団法人日本音響家協会 会長 八板 賢二郎 様

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トップ対談 #08 一般社団法人日本音響家協会 会長 八板 賢二郎 様

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トップ対談 #08 一般社団法人日本音響家協会 会長 八板 賢二郎 様

一般社団法人 日本音響家協会 会長 八板 賢二郎 氏(写真 右) Talks with
ヤマハサウンドシステム株式会社 代表取締役 武田 信次郎(写真 左)

一般社団法人 日本音響家協会 会長 八板 賢二郎 氏(写真 右) Talks with
ヤマハサウンドシステム株式会社 代表取締役 武田 信次郎(写真 左)


「幕あい」とは、一幕が終わって、次の一幕が始まるまでの間。舞台に幕が下りている間のこと。このシリーズでは、ヤマハサウンドシステムが日頃お世話になっているホール・劇場の世界を牽引するキーマンの方々に、市場のトレンドやヤマハサウンドシステムへの期待などを、その仕事の「幕あい」に語っていただきます。
第8回は国立劇場の開館以来45年にわたり音響を手掛けてこられた日本の舞台音響の重鎮であり、日本音響家協会の会長として日本の音響家の技術を高め、親睦を深めるために尽力されている八板賢二郎氏にご登場いただきます。国立劇場で長年培ってこられた音響に関するお考えや、協会やご著書などを通じて後進に伝えたいことについて、お話をうかがいました。

プロフィール 八板 賢二郎(やいた けんじろう)

プロフィール 八板 賢二郎(やいた けんじろう)
1944年、栃木県那須烏山市に生まれる。1966年から国立劇場で音響創造に従事。以来、雅楽・能楽・歌舞伎・文楽・日本舞踊・寄席芸能・沖縄芸能などの上演にたずさわる。かたわら、現代演劇やミュージカル、オペラ、ジャズなどの音響デザインも手掛け、伝統芸能の海外公演や他ジャンルとのコラボレーション公演にも多数参加。2010年に、地域住民のための公共劇場を快適に管理運営するノウハウを研究する「ザ・ゴールドエンジン」を設立。2019年に文化庁長官表彰を賜る。現在、一般社団法人日本音響家協会会長。

テレビ技術者になるつもりだった

武田:八板さんはどんなきっかけで音響の世界に入られたのでしょうか。

八板氏:私、もともとはテレビ局の技術者になるつもりだったんですよ。

武田:えっ、そうなんですか。

八板氏:専門学校の2年生の時に東京オリンピック(1964年)があったのですが、その時NHKの中継部がアルバイトを募集したんです。私の学校から15名ぐらい派遣されることとなり、その1人として私もNHKに行きました。できたばかりの半導体のテレビカメラを使ってオリンピックの中継をしたのですが、カメラがとても大きかった。開会式や重量挙げ、柔道などの中継でアシスタントをしました。学校はまだ1年ありましたが、その後もずっとNHK中継部の非正規雇用者として働いていました。

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武田:それがなぜ国立劇場に入ることになったのですか。

八板氏:その頃ちょうど国立劇場が建つということで、そこの技術課長がNHKのOBだったのでお呼びが掛り、「給料いくら欲しい?」「お任せします」という簡単な面接だけで採用されました(笑)。国立劇場には映像部門もあったのですが、なぜか音響部門に配属されました。ですから私は、もともと音響に興味があったわけではないので面食らいました。それは21歳のときでした。

武田:それは意外です。そこから何年ぐらい国立劇場にいらっしゃったんですか。

八板氏:45年です。

武田:八板さんは国立劇場にいらっしゃったし、演芸場の時代もありましたよね。

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八板氏:国立劇場、国立演芸場、国立能楽堂の3カ所に行きました。演芸場や能楽堂には舞台のチーフとして行ったので、照明や舞台の面倒もみました。能楽堂では映像記録も担当しましたので、収録機器のリース契約によるハイビジョン化、全座席に2カ国語のパーソナル字幕装置の設置を最後に退職しました。

「メーターで仕事をするようじゃダメだ、耳でやれ」

武田:21歳で、できたばかりの国立劇場に音響係として入られて、いきなり舞台音響の仕事をやるわけですか。

八板氏:やらされました。最初に虫の笛を吹かされましたよ。国立劇場の音響係は電気音響もやりますが、擬音笛を吹いたり犬の鳴き声もするんです。映画の世界では「フォーリー」と言いますよね。いわゆる擬音ですが、我々は「生音」と言っていました。虫の笛は難しくてね。毎日練習しました。あとはウグイスの笛もやったし、赤貝の殻を擦ってカエルの鳴き声もやったし、犬の鳴き声は私、得意ですよ。何度もNHKの中継に出ています(笑)。人間国宝の歌舞伎役者さんと一緒に舞台でやるわけですから、これは大変な仕事です。

武田:いわゆる電気音響も、同時にやられたのですか。

八板氏:やりました。上司から「メーターを見てやるようじゃダメだ、耳でやれ」と言われて、いきなりVUメーターをガムテープで隠されました。今はほとんどの人がメーターで仕事をしていますが、私は今でも「メーターなんかでバランスが取れるか!まずは耳で音を判断しろ」と教えています。

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武田:なるほど八板さんの音響の原点はそこなんですね。国立劇場で最初はどんな仕事を手掛けたのですか。

八板氏:最初は日本舞踊の地方さんという演奏者の音響でした。国立劇場の音響はお客さんに「拡声している」ということを全く気づかせないようにやります。今風に言えばステルス音響です。

武田:弱音の補助ですね。生音と電気音響が区別なく聞こえるようにしないといけないわけですね。

八板氏:そうです。大事なセリフ、聞かせたいセリフをきちんとお客さまに聞かせてあげること。特にお年寄りの俳優さんのセリフや、邦楽の歌の方でお年寄りだと声が枯れていますよね。それをマイクで拾ってみずみずしい音にする。音響の仕事はそういうベテランの方々の声を補正することでもあります。あるとき舞台美術家に言われたことがあります。「音響の仕事は、枯れた声をみずみずしくする仕事でもあるんですね」って。その時は「マジックです」と言っておきましたが、イコライザーなどで、ある部分の音を補強するのです。

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武田:それは確かに「耳」で判断するしかないですね。

八板氏:よくPAではHi-Fiの音質で音量を上げますよね。それでは生音が全然聞こえないです。それはロックコンサートでやってください。我々がやっているSR(サウンド・リインフォースメント)は違うのです。音のある部分を補強するんです。この人の声のどこを上げたらいいかを考え、足りない周波数をイコライザーで足したり、レベルを少し足したりします。フェーダーで言えば1dBアップしたかどうかの世界です。1dBの音の変化がわからないとダメですね。もちろん、そんなのメーターには出ないですよね。
また邦楽を収録するときのマイクセッティングも難しくて、最初の頃は大阪にある毎日放送のベテランの方やNHKの方々に教えていただきました。その方たちは「邦楽のことをわかるのは10年かかるぞ」と言われましたが、10年どころじゃないです。30年かかりました(笑)。

編集に7年かかった「プロ音響データブック」

武田:八板さんは、長い経験を通じて培ってこられた技術やノウハウを書籍や学校、そして日本音響家協会のセミナーなどを通じて積極的に後進に伝承してくださっていて、私たちは大変感謝しています。 たとえば「プロ音響データブック」という書籍は、我々音響マンにとってはまさにバイブル的な存在で、私もこの業界に入ってから常に机の上に置いていました。この本がなかったら恐らく音響の方々との会話はできなかったと思います。我々ヤマハサウンドシステムのウェブサイトの「舞台音響用語集」でもコラボレーションさせていただいています。この本についても少しご紹介ください。

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» ヤマハサウンドシステム 舞台音響用語集

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八板氏:今から33、4年前かな、日本音響家協会の10周年記念で作りました。編集に7年もかかってます。当時はまだパソコンなんてありませんから、原稿は全て鉛筆書き。とにかくわかりやすくしたかったので何度も書き直し、我が家の片隅に消しゴムカスが山のように溜まっていました。

武田:この本はご自身の知見や知識を、なるべく多くの音響家に伝えたいという思いで作られたのですか。

八板氏:もちろんそうです。最初、芝居をやる団体の人にも一緒にやりませんかと誘ったけど「用語なんか統一できないよ」って断られちゃった。だから統一なんてしないで、いろいろな用語が入っています。オープンテープレコーダーなんかも載っています。だって昔のことも知らないと困っちゃうからね。カセットもまだ使われているし、レコードだって復活していますから。

武田:「サウンドバイブル」という本も出版されています。

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八板氏:これは1966年に、この業界に入ったときから音の専門書を作りたいと思っていたのですが、40年以上かかりました。内容は、31歳の時からさまざまな専門学校で教えながら学んだことと、先輩から酒を交わしながら教えてもらったことなんです。

武田:「音で観る歌舞伎」という本も書かれましたね。

八板氏:これは私が国立劇場を卒業するための卒業論文のつもりで書きました。国立劇場での最後の年に出版し、65歳で劇場を辞めました。一般の方に歌舞伎を音の面からも楽しんでいただきたいと思い執筆しました。

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武田:こちらの「マイクロホンバイブル」の本は音響エンジニア向けの書籍ですか。

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八板氏:これは技術者というより、むしろ演奏家、ミュージシャンに読んでほしい本で、楽器ごとにマイクを立てるべき位置が書いてあります。例えばサックスも、ベルのところにマイクを立てちゃったら、スカスカの音になります。そういったことが楽器ごとに書いてあります。こういうことってエンジニアは当然ですが手持ち楽器の演奏家こそ知っていてほしい。そして自分で一番良いと思う音がする位置にマイクを動かせばいいんです。マイクとハサミは使いようなんですよ(笑)。音響エンジニアが立てたマイクそのままじゃなくていい。エンジニアと相談しながらいい場所にするべきですし、エンジニアと音楽家はもっと話をしたほうがいい。そこは私が強調したい点です。

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一番大切なことは、イメージできること、そして哲学を持つこと

武田:会長を務められている日本音響家協会についても、少しお話しいただいてよろしいでしょうか。

八板氏:日本音響家協会は、個人を対象とした協会で会員は全てボランティアで動いています。事務局長も事務員もいません。会長の私が事務員です。Windowsができる前からMacを使って協会を運営していましたから、コロナ禍になって今まで対面で行っていたセミナーをすべてリモート、つまりオンラインでやっていますが、これはうまくいってます。北海道から沖縄までどこに住む人でも旅費なしで参加できますから。また日本音響家協会では「音響技術者能力検定」という資格制度も行っていますが、その試験も全てオンラインでやっています。先日もヤマハサウンドシステムさんから7名の方々が1級サウンドシステムチューナを受験されて、全員合格しました。武田社長、素晴らしいです。

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武田:こちらこそ八板さんにこういった資格制度を作っていただき、弊社の社員にもいい目標になっています。ありがとうございます!日本音響家協会はホール・劇場の会員さんも多いじゃないですか。弊社もホール・劇場のお仕事をさせてもらっていますから、ぜひ資格をとろうということで社員たちにチャレンジしてもらっています。
書籍や協会、そして学校などで後進を育んでこられた八板さんですが、どんなことを後進たちに伝えたいのか、メッセージなどをお聞かせいただけないでしょうか。

八板氏:いろいろな学校で教えてきましたが、マイクがどうのこうのというのは誰かが教えているでしょうから私は教えません。私が生徒に教えたいのは「上手に生きること」です。上手な生き方とは、新米は一人前の仕事は無理なのだから、まずは先輩よりも早く出勤して、お茶を沸かして待っていろと。先輩が来たら大きい声で「おはようございます。今日もお世話になります」と言ってお茶を出せと。そうすると可愛がられるぞと。それから、「飲みに行こう」と誘われたら、他の約束を断ってでもついて行けと。愚痴を言われながらいろいろなことを教えてくれるぞと。私も、そんなふうにしていろいろ教えてもらいましたから。

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武田:あえて教えすぎないってことでしょうか。

八板氏:学生に自分の癖を教えちゃだめなんです。だってその学生は私の弟子になるわけではないからね。どこかの会社に入るんです。そこで「そんなこと誰に教わってきた」って言われるでしょう。だから真っ白い状態で卒業させることが必要なのです。あとは現場で、自分で学べということ。しっかり学んでいないで偉そうなことを言う若い社員が入ってくるでしょう。そういう人はすぐ辞めちゃう。国立劇場も同じで、照明も音響も舞台監督も女性が多くなっていますが、女性のほうが我慢強くて辞めませんね。

武田:確かにこの業界、女性が増えていると思います。最後にひと言お願いします。舞台音響マンにとって一番大切なことはなんでしょうか。

八板氏:一番大切なことは、イメージできること、つまり想像できること。演出家がちょこっと言ったことをパッと理解する。全部言われなくてもわかるようにならなくちゃだめだよね。まずはね。
それから哲学を持つこと。哲学っていっても、学校で教わる哲学じゃなくて、自分の考えをきちんと持ちなさいということ。それが無い。誰かの真似をしているだけ。最初は真似から始まるんですけど、いつまでも真似ではダメです。20代に教わったこと、やったことは一生ものですが、それを成熟させてどんどん自分のものにしていくことが大切です。いつも一緒に仕事をしている演出家や照明家だって、みんな勉強していますから、自分も音響家として勉強しないと、彼らが成長した時に自分が置いていかれます。そうしないとプロとしては通用しない。演出家と同じように考え、同じ次元で仕事ができないとダメ。演出家にゴマをすっているようではダメなんですよ。
最後に申し上げたいのは、音響機器はメーカーさんにとっては商品ですが、私たち創造家にとっては「道具」なのです。私たちの商品は、演技や演奏、そして演出をサポートする音なのです。それは、私たちのために道具を作ってくれるメーカーさんや設備設計施工技術者さんたちのお陰で成り立つ仕事なんです。

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武田:弊社も社内大学「YSSアカデミー」※を開校していますが、やはり技術力だけでなく、哲学というか、人間力の両方を高めないといけないと実感しています。今回お話をうかがい、そこが大切であることを改めて認識しました。
本日はご多忙中お時間をいただき、ありがとうございました。

※ 職場単位で散発的あるいは社員が自主的に開催していた単発の勉強会を「YSSアカデミー」として全社で体系化し「ヒト学部」「オト学部」「モノ学部」「コト学部」の4学部、2022年1月時点で130講座を超えるカリキュラムを持つ社内大学です。「FCCアカデミーアワード2021」を受賞しました。

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