フェーダーのマメ知識
突然ですが、みなさんはミキサーについているフェーダーをよく見てみたことってありますか?
フェーダーの目盛り表示に注目してみてください。
間隔が一定でないことにお気づきでしょうか?
例えば、写真のフェーダー目盛りは0から-5の間は細かく、1dBごとに線が引かれています。-5から-10の間はおおまかになっていますね。-10より下を見ていくと…さらに粗くなり、横線の間隔も狭くなっています。
これって一体どうしてなのでしょうか?
今回のTipsは、知っているとすぐに役立つ!…というわけてはないかもしれませんが、日々フェーダーを触るのがちょっぴり楽しくなる、フェーダーに込められたストーリーをお届けします。
絶妙なバランスを求めて
0付近の目盛りの間隔が他と比べて広いのは、人の耳の絶妙~なバランス感覚に応えるためです。
どういうことでしょうか?
個人差はありますが、人の耳は、音全体の音量が1~2dB程度変化すると、変化したことが分かるといわれています。テレビのリモコンやスマホの音量ボタンは1回押すと2~3dB上下するものが多いようです。
① ふつうの演奏
② 上の演奏を-2dB
※ 音声が再生されます。
ボリュームを調整してご視聴ください。
一方で、複数の音のバランスを変化させる場合(例えば三重唱のうち一人の音量を大きくするようなとき)、たった0.2~0.5dBの変化でも感じ取ることができます。
下にいくつか音源を用意しました。試しにじっくりと聴き比べてみてください。
① すべてのパートが同じ音量
② 真ん中のパートを+0.5dB
③ 真ん中のパートをさらに+0.5dB
(実験協力:ヤマハサウンドシステム社員のみなさん)
※ 音声が再生されます。
ボリュームを調整してご視聴ください。
いかがでしたか?なんとなく雰囲気が違うのが分かったでしょうか。① ② ③ の順に、だんだんと主旋律が大きく聞こえてくる印象になるかもしれません。フェーダーをほんの数mm動かすだけで、微妙な違いが表現できるのですね。
つまり、一番気持ちのいい絶妙なバランスを追い求めるためには、指先の非常に細かい調整が効いてくる、ということです。
よくあるストローク100mmのフェーダーでは、0の目盛り位置から10mmフェーダーを下げると約5dB下がり、目盛りが-10の位置から10mm下げると約10dBも下がります。0付近はゆるやかに音量が変化するので、細かい調整がしやすくなっているのです。
これが、目盛りの幅が一定でない理由です。いちばんよく使われる0付近の操作性を重視して、絶妙なバランスを追求できるように工夫されています。
目盛りの間隔が広い0付近を存分に使ってミキシングするためにも、ミキサーのGAINやTRIMを操作して、入力する音を適切なレベルに整えるのが大切、ということですね。
静かな繊細さを求めて
フェーダーの目盛りに関する秘話は、ほかにもあります。
下の図を見比べてみてください。Aのフェーダーと、Bのフェーダーで、違いにお気づきでしょうか?
-30や-40の位置に注目してみてください。
Bのフェーダーは、-30や-40など小さいレベルの目盛りが上の方にありますね。-60の目盛りはBのフェーダーにしかありません。ヤマハのデジタルミキサーの多くがこの目盛りを採用しています。
-40というと、コンサートなどではそれほど出番のないとても小さいレベルのように思えますが…、どうしてこのようになったのでしょうか。
例えばこんなお芝居のひと幕。フェーダーの動きと一緒に想像してみてください。
① とある場面。台詞の後ろでは音楽が小さく流れ、雰囲気をつくっています。このときフェーダーの位置は-40あたり。
② きっかけとなるキメの台詞のあと、照明がフェードアウトすると同時に音楽を一気に大音量に。物語が動くように場面を盛り上げます。このとき音楽のフェーダーは目盛りの0あたり。同時に暗転幕が下がり、舞台では転換作業。
③ 転換が終わると暗転幕が上がり、舞台上が明るくなるとともに音楽の音量もBGMレベルまで小さくします。再び、フェーダー位置は-40あたりに。
④ ほどよいタイミングで音楽をフェードアウト…。フェーダー位置は-∞。
…上手にフェードアウトできましたか?
ここに、-40以下の目盛り間隔のポイントが込められています。
Aのフェーダーの場合、-40から-∞まで10mm程度しかなく、きれいにフェードアウトするのは至難の業です。対してBのフェーダーは、この部分の間隔が広いので、美しいフェードアウトを実現できます。台詞や曲の一番気持ちいいタイミングで、理想のオペレーションができるように考えられています。
この部分の目盛りの間隔の違いが、実際音にどのくらい影響するか実験してみました。
下は、AのフェーダーとBのフェーダーそれぞれを-40から下に10mm動かしたときの様子です。約5秒毎に音量を上げ下げしています。
(全体のレベルが非常に小さいので、聞き取りやすいように規定レベルよりも20dB大きくしています)
Aのフェーダー
Bのフェーダー
※ 音声が再生されます。
ボリュームを調整してご視聴ください。
Aのフェーダーのほうは10mm下げるとほとんど完全に音が消えてしまうのに対して、Bのフェーダーはまだ少し聞こえる程度には音が残ることが分かります。
このように、小さなレベルの目盛りの間隔が広いことで、音が消え入るような小さな音量のオペレーションをより繊細に行うことができます。
まとめ
フェーダーに込められた豆知識をお届けしました。音響を担当する人であれば日々当たり前のように目にしているフェーダーですが、今回のお話を思い出しながら触ってみると、新しい視点で見ることができるかもしれません。
ご紹介したほかにも、音響機器のいたるところにさまざまな背景や思いが込められています。知っているとちょっと楽しくなる、そんなマメ知識を今後もお届けしていきます。お楽しみに!
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