スピーカーの設置環境による音への影響
ホールや劇場にはさまざまなスピーカーが設置されています。スピーカーの設置方法としては、露出設置する方法と、客席から見えないよう壁や天井の中に隠ぺい設置する方法があります。スピーカーを隠ぺい設置する場合には、スピーカー室前面の開口部をサランネットなどで仕上げることが多く、演劇公演などで舞台上に仮設されるスピーカーは、黒布などで隠されることもあります。
そこで、スピーカーの設置環境によって音にどのような影響があるか調べてみました。
実験1:スピーカーを壁や天井に隠ぺい設置すると音にどのような変化があるのか
■ 概要
スピーカーを露出して設置した状態と壁や天井に隠ぺい設置した状態の音の変化を調べます。後者は、スピーカー室に見立てた木箱内にスピーカーを設置します。それぞれの伝送周波数特性を測定し、変化した音に対して物理的な対策と電気的な対策を施してみました。
1)測定条件
スピーカーの軸上1mの位置で測定
2)内容
① 木箱の中に設置して音の変化を調べる
② 物理的な対策:木箱内の隙間をフェルトで埋める
③ 電気的な対策:イコライザー(EQ)で補正する
3)使用機器
スピーカー:NEXO ID24(指向角 水平120°x垂直40°)
測定マイク:EARTHWORKS M30(コンデンサーマイク、無指向性)
測定ソフトウェア:rational acoustics Smaart8
■ 実験
① 木箱の中に設置して音の変化を調べる
木箱に入れると高域での変化はほとんどありませんでしたが、中低域では大きな変化がありました。
木箱の中に設置した状態で測定 |
木箱の中に設置した状態で測定 |
図1 露出と木箱の中に設置した状態の伝送周波数特性 |
② 物理的な対策:木箱内の隙間をフェルトで埋める
隙間をフェルトで埋めることにより、中低域の変化が小さくなりました。
露出した状態 |
木箱内の隙間をフェルトで埋めた状態 |
図2 露出と木箱内の隙間をフェルトで埋めた状態の伝送周波数特性 |
② 電気的な対策:イコライザー(EQ)で補正
HYFAXのアコースティックメジャーメント/EQプロセッサー「AMQ3」を使用して補正しました。その結果、全帯域で変化はほとんどなくなりました。
木箱の中に設置した音を「AMQ3」で補正 |
図3 露出と木箱の中に設置した状態の音を「AMQ3」で補正した伝送周波数特性 |
■ 結果
木箱内にスピーカーを設置すると中低域に大きな変化があり、ぼやけて聞き取りにくい音になりました。
物理的な対策で、木箱内の隙間をなくすことにより中低音域への影響を抑えることができました。また、HYFAX「AMQ3」を使った電気的な対策では、全帯域において露出した状態に近似した伝送周波数特性を得ることができました。
実験2:スピーカーを隠す布の生地によって音にどのような変化があるのか
■ 概要
スピーカーを壁面や天井に隠ぺい設置する場合、スピーカーを客席から見えなくするためにサランネットなどを使用します。演劇で、舞台上に仮設されるスピーカーは黒布で隠されることもあります。ネットや布の生地の種類によって音はどのように変化するのでしょうか。3種類の生地をスピーカーの前に設置して音への影響を調べました。
1)測定条件
スピーカーの軸上1mの位置で測定
2)内容
① 厚手の黒布
② セクレ生地
③ ジャージークロス生地
3)使用機器
スピーカー:NEXO ID24(指向角 水平120°x垂直40°)
測定マイク:EARTHWORKS M30(コンデンサーマイク、無指向性)
測定ソフトウェア :rational acoustics Smaart8
■ 実験
① 厚手の黒布
全体的に音圧レベルが下がり、右肩下がりの伝送周波数特性になりました。
厚手の黒布で隠して測定 |
図4 木箱の中に設置し、前面を厚手の黒布で隠した状態の伝送周波数特性 |
② セクレ生地
低域の変化は小さいものの、高域に大きな変化がありました。
開口部をセクレ生地で隠して測定 |
図5 木箱の中に設置し、開口部をセクレ生地で隠した状態の伝送周波数特性 |
③ ジャージークロス生地
全帯域でほとんど変化がありませんでした。
開口部をジャージークロス生地で隠して測定 |
図6 木箱の中に設置し、開口部をジャージークロス生地で隠した状態の伝送周波数特性 |
■ 結果
スピーカーの開口部にネットや布を設置することで音が変化することがわかりました。また、生地の種類によって変化を受ける帯域や程度が異なりました。
まとめ
壁や天井への埋め込みなど、スピーカーの設置環境による音質変化について実験をしました。
測定結果からスピーカー室などにスピーカーを隠ぺい設置すると中低域に影響が出て、スピーカー室内の隙間をフェルトなどで埋めることで、その影響を軽減できることがわかりました。露出して設置した状態に近づけるためにEQなど電気的に補正をすることも可能です。しかし、電気的な補正はやりすぎると不自然に聞こえることもあるため、音を聴きながら調整することが大切です。また、スピーカー室の開口部を隠す布は生地の種類によって音に大きな影響を与えるものと、ほとんど影響を与えないものがありました。
スピーカーを客席から見えないよう壁や天井の中にスピーカーを隠ぺい設置するときには、スピーカー室内の隙間をなくし、開口部にはジャージークロスのような音に影響が小さい生地を使用するのが望ましいでしょう。
※ 今回ご覧いただいた各種測定データは、当社視聴ルームでの結果ですが、ご参考になれば幸いです。
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