ヤマハサウンドシステム株式会社

PROSOUND FEATURE
最大収容約8,000人のキャパシティを誇る
東京屈指の巨大劇場型ホールが有明に誕生!
東京ガーデンシアター[後編]

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最大収容約8,000人のキャパシティを誇る
東京屈指の巨大劇場型ホールが有明に誕生!
東京ガーデンシアター[後編]

PROSOUND FEATURE

最大収容約8,000人のキャパシティを誇る

東京屈指の巨大劇場型ホールが有明に誕生!

東京ガーデンシアター[後編]

テキスト:内田匡哉 撮影:土屋 宏

東京ガーデンシアター[後編]

さまざまなスタイルのライブイベントを筆頭に、 国際会議や各種セミナー、受賞式や展示会などあらゆる催事にフレキシブルに対応する巨大劇場型ホール、東京ガーデンシアター。2020年7月のオープン以来、常に音楽業界のトップトピックスにのぼり、耳目を集めている。本誌226号に掲載した前編 では、最大収容約8,000人という巨大空間でありながらアーティストとの距離が近くに感じられ、かつクリアで迫力ある音場をもたらすサウンドシステムの要諦についてご紹介した。今号ではその後編として、電源まわり、FIRフィルタの利点と課題、ネットワーク構成、映像関係等について、引き続き東京ガーデンシアターの現場責任者である本田裕之氏、舞台技術担当の加無木克志氏、音響担当の寺田泰人氏、そしてヤマハサウンドシステムの長谷浩史氏(提案設計担当)、阿部良生氏(システム設計担当)、柳原涼太氏(施工管理担当)に、より実践的な技術面への取り組みについて話を伺った。

東京ガーデンシアター[後編]

本田裕之氏

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加無木克志氏

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寺田泰人氏

東京ガーデンシアター[後編]

阿部良生氏(システム設計担当)

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柳原涼太氏(施工管理担当)

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長谷浩史氏(提案設計担当)

三相四線式120V/210Vの音響電源とCEEフォーム

内田:パワーアンプの駆動電圧は何Vですか?

柳原:NEXO「NXAMP4x4MK2」は210Vで駆動しています。その他の機器は120Vまたはダウントランスで降圧した100Vを供給しています。アンプ室に分電盤が4面あって、3面はパワーアンプ用に210Vを取り出して、残り1面は120Vを取り出しています。

内田:それだと電源方式は何になるのですか?

柳原:三相四線式の120V/210Vです。

内田:三相四線式は日本の音響分野では普及してないと思いますが、採用した理由は何ですか?

長谷:早い段階からパワーアンプを200Vでドライブしたいと考えていました。また、120Vは近年ユニバーサル電源の機器が浸透してきましたし、100Vに降圧するのも容易です。なので、120Vと210Vの組み合わせなら使えるのではと考えて、計画の初期段階で提案しました。

内田:日本で標準的な単相三線式100V/200Vという方法もあると思いますが。

長谷:多数のパワーアンプに210Vを給電する際に、三相四線式の方が電源効率が良くメリットがあると考えました。今後、持ち込みのパワーアンプの電源としても200Vの需要が伸びるだろうと考えたのも理由のひとつです。

内田:他に三相四線式120V/210Vを採用した施設はありますか?

長谷:チャレンジングな提案だと思います。

内田:手応えはどうですか?

寺田:正直、乗り込み音響さんからは100Vのリクエストが多いのが現状です。外資系の会社などでパワーアンプが100V以外でも大丈夫な場合にしか使えていないです。今後うまいことやってくしかないかなと思っています。

内田:PA会社のなかには会場の100Vを自分たちで昇圧してパワーアンプを駆動しているところもあるので、210Vはニーズがあるように思いますが。

寺田:無くはないです。ですがやはりまだ浸透してないのが正直なところです。

内田:このシアターに210Vがあることが知られて、普及のきっかけになればいいですね。

加無木:舞台袖にCEEフォームが沢山ありますが全部120Vと210Vなので、とにかく100V無いんですかという声が大きくて。

内田:210Vよりも、100Vじゃなくて120Vだってところに戸惑われるんですね。

加無木:そうですね。徐々に変わってくるとは思いますけど。

寺田:ここは電源業者さんが入る催事がほとんどで、シアターの音響電源をそのまま貸してくださいって言われることが少ないのが、現状です。

長谷:これから5年、10年と経つなかで200Vが普及していくのではないかと考えています。

寺田:あと、それ以前の話かもしれませんが、音響業界がいつまで音響電源のコネクタにC型を使うのかってことです。ここは音響電源にC型が一切無くてすべてCEEフォームです。

加無木:C型しか持っていない音響会社さんが割といらっしゃるので、CEEフォーム~C型の変換を用意しています。本末転倒な感じですが、それもサービスとして提供しています。

寺田:昔、音響がT型を使っていた時代があったように、まだC型なんて使っているの?これからはCEEフォームでしょ!となっていってくれることを切望しています。

長谷:C型かCEEフォームかは加無木さんとも議論して悩みましたよね。現状はC型だけど、どこかでCEEフォームを採用して行かないと業界も変わらないよねって話が加無木さんからあって。

加無木:結局CEEフォーム~C型変換を一杯買わなきゃいけないんでしょって話なんだよね。

内田:業界への貢献ですね。

加無木:あとアメリカだとL6-30(アメリカ電気工業会National Electrical Manufactures Associationが標準化したNEMA規格の引掛型接続器、接地型2P、30A、250V)ってリクエストがあって。

柳原:L6-30はビデオプロジェクタに多いですね。

加無木:「クレア・ジャパン」さんなどはそうですよね。色々なリクエストには応えたいけども…ってところですね。

内田:ところで音響の接地はどうしていますか?

柳原:音響単独として信号用C種と音響電源トランス中性線用B種を用意してもらいました。

東京ガーデンシアター[後編]

音響設備用ダウントランス

東京ガーデンシアター[後編]
東京ガーデンシアター[後編]

音響電源盤のCEEフォームコネクタ

ハウスSPを外さずに持ち込みSPを仮設する仕組み

内田:ハウスのスピーカーシステムが取り外すことなく収納できて、仮設スピーカー用ロの字トラスが下がってくる仕組みについて教えて頂けますか?

長谷:私が一番話したいところです。かねてから色んな施設で、常設スピーカーの位置が最適で、持ち込みスピーカーも同じところに吊りたい、でもそれには常設スピーカーを取り外さないといけない、それ何とかしたいよね、って話していまして、今回も同様の話がありました。ここはメインスピーカーの上にすごく高さが取れる空間があったので、仮設スピーカー用ロの字トラスを設けて、その中を常設スピーカーが上がっていって上部空間に収納するという提案を私の方から竹中工務店さんにさせて頂き、実現しました。

内田:メインスピーカーとアウトフィルスピーカーの外側に仮設スピーカー用ロの字トラスが降りてくるさまは圧巻ですね。

柳原:施工はめちゃくちゃ緊張しました。

内田:クリアランスはどの位あるんですか?

柳原:前が219mm、後ろが472mmです。アレイのスプレイ角度がきつくなると通れなくなるので、チューニングについてはヤマハミュージックジャパンの井澤さんと意見交換しながら進めました。

長谷:チューニングの第一歩はスプレイ角度を決めることなので、音を出してからも結構大変だったと思います。クリアランスとカップリングを両方考えなきゃいけないので。それもあり、とにかく常設のスピーカーを外さずに仮設を成立させたかったです。

阿部:この方式は当社としても初めての試みですね。

内田:持込用のフレームが寸法的に大きすぎることはないんですか?

加無木:2,700mm角ですけど、逆にちょっと小さいかもしれないですね、アウトフィルも一緒に吊るには。アウトフィルを別のバトンに逃がす場合もあります。いろいろ工夫されていますが、仮設スピーカー用ロの字トラスにビームのトラスを渡して高さはモーターで全部調整してしまうのが一番多いですね。

寺田:各社さんバリエーションが凄くて、前後に吊るパターンもあれば、吊れるだけ弓なりに吊るパターンもあって、本当に毎日面白いですね。

加無木:当初は何かビームを用意した方がいいんじゃないかとも考えたんですが、そのままで後はどうぞっていう方が色々な工夫をされるってことに気づきました。

柳原:あと、見た目も気にして、ケーブルリールを使ってスピーカーの上の籠を無くしました。

内田:スピーカーケーブルは何系統ですか?

寺田:メインアレイはベースユニットが2系統で、ハイボックスが6系統です。

柳原:アウトフィルもあるのでケーブルリールは片側3台で、ゾマー社の16芯を使ってます。

内田:ケーブルの断面積はどの位ですか??

柳原:4mm2位かな?それはスノコ上の中継盤までで、そこからアンプ室までは22mm2です。

内田:凄く太いケーブルにしているんですね。アンプ室は遠いのですか?

柳原:アンプ室はスノコのひとつ下の階の上手側です。スノコ階だけで22mm2のスピーカーケーブルを72本敷いてます。

東京ガーデンシアター[後編]
東京ガーデンシアター[後編]
東京ガーデンシアター[後編]

常設スピーカーを囲むように昇降する仮設スピーカー用ロの字トラスによって常設スピーカーを外さずに仮設スピーカーを同じ位置に吊ることができる(この時、常設スピーカーは上部天井方向へ上昇させる)。「東京ガーデンシアター」最大の魅力のひとつ

FIRフィルタ点と課題席

阿部:メインスピーカーや補助スピーカーをシビアに調整することを目指して、当初設計していたデジタルプロセッサー(IIRフィルタ)から「AMQ3」(FIRフィルタ)に変更しました。

内田:「AMQ3」にはどんなメリットがありますか?

阿部:FIRフィルタは調整対象のスピーカーからのインパルス応答を測って、それが目標特性になるように補正するので、とても複雑な調整ができて、かつ調整にかかる時間も短くできる点です。

長谷:あとFIRフィルタは位相特性が変わらないので音質の向上も期待しています。

内田:今回「AMQ3」を導入していかがですか?

寺田:ほんとに細かく色んな所が制御できるのも分かってますし、そこを積極的に使う場合もあるんですけど、実際のところ乗り込みさんにはシステムEQ外して下さいって言われることが多いので、正直、劇場管理側にしたらそんなに頻繁に触るところでも無いです。

加無木:むしろもっと活用できるといいのかなと。乗り込みさんは、どこをどう弄ればいいか分かり難いので一旦ばらして下さいってなるんです。

寺田:どうしても音響機器として触れない感じっていうんですかね、インターフェースのコンピュータソフト感が強いんです。

内田:FIRフィルタは従来のIIRフィルタの直感的な操作とは根本的に違いますよね。サウンドエンジニアがそれらしく使えるインターフェース開発がポイントですね。

長谷:私たちもそこが課題と考えていて、ブラッシュアップしていきたいと思います。

内田:持ち込みのメインスピーカーに常設のディレイスピーカーを併用する場合、ディレイスピーカーのイコライザも持ち込まれすか?

寺田:ディレイスピーカーに関してはそのまま使わせてほしいという要望を頂くことが多いです。ディレイタイムだけリクエストがきます。

東京ガーデンシアター[後編]

今どきのネットワーク構成と制御

内田:ミキサーとI/OボックスはTWINLANeというお話でしたが、出力側はDanteですか?

阿部:Danteを96kHzサンプリングで使っています。他に連絡設備もありまして、そちらは48kHzでDanteも別のシステムにしています。

内田:Danteネットワークを分けているんですね。

阿部:音声はアナログで受け渡すほか、ヤマハの「RSio64-D」で変換してDante同士を渡ることも可能にしています。

内田:ケーブルの仕様を教えてください。

阿部:拠点間はマルチモードの光ケーブルでOM3規格を採用しています。通信自体は1Gbpsですが配線は10Gbps仕様にして将来に備えています。舞台奥、調整室、アンプ室の3拠点がありますが、信号が経由するスイッチの台数を最少にするためにアンプ室に集約する配線としています。

内田:Dante以外に制御など含めるとネットワークは何系統になりますか?

阿部:制御はミキサーコントロールの他に、今回はスピーカー出力リモートと電源制御、場内各所の映像スイッチャーの切替もイーサネット経由でやっていて、用途によって単独とV-LANを使い分けています。あと連絡設備のDanteも2系統あるので、全体としては9系統かな?

内田:どんどん増えますね。他にトランク回線はどうなっていますか?

柳原:舞台奥~袖や、舞台奥~客席奥の盤間に光ケーブル6系統をopticalCONで出していて、TWINLANeやDanteが使えるようにしています。

内田:舞台奥を拠点にしている理由は何ですか?

柳原:ここはプロセニアムアーチがないので舞台袖の考え方が他と違っていて袖はコネクタ盤だけなんです。機器架は舞台奥に設置していて、床ピットで下手や上手や舞台に展開します。

阿部:今回、スピーカーの出力リモートにもこだわりました。8,000人の劇場なのでいちいち調整室までスピーカースイッチを押しに行くのは大変なので、タブレットでワイヤレス操作できるようにしました。お使い頂いてますか?

寺田:もちろんです。乗り込みさんやサウンドチューナーさんに隈なく同行して、ここちょっと切ってもらえますか?っていうのを手元で全部できます。かなり活躍してます。

阿部:あと「NEXO」のアンプについては、今回はアンプのスタンバイモードをリモート制御する方法にして、アンプ用の電源制御部を無くしています。

柳原:分電盤から直接パワーアンプに給電しています。故障個所を減らすというのもコンセプトだったので、リスク回避を意図しました。

内田:システムをシャットダウンする時はどうするんですか?

柳原:アンプをスタンバイにすることでシャットダウンとみています。本当にパワーアンプを再起動する場合にはブレーカーを切ることになります。

内田:帰るときにブレーカーを落とさないんですね。

寺田:割と最近多いリクエストで、ネットワーク系の機材を多く持ってこられる業者さんは、帰るときに電源を落としたくないんです。ここではそれをOKしていますので、催事が始まるとハウスのシステム電源も落とさないんですね。翌日来た時に同じ状態で始まるようにしています。

内田:ネットワーク時代では標準的な考え方かもしれませんね。

寺田:ブロードウェイでは古くからやってると思います。それがここでは快くOK貰えて。以前だったら絶対あり得ませんでしたが、それが時代なんですかね。ニーズでもあると思います。

阿部:「NEXO」アンプ以外の機器は、従来通り電源分配器で制御しています。

寺田:でも公演中は切ってません。

内田:電源もタブレットで切れるのですか?

阿部:そこは現地で物理的なスイッチを切るようにしています。

寺田:タブレットはパワーアンプ出力の入り切りだけですね。その辺のバランスが凄くいいと思っています。設備として使いやすいです。

内田:その辺りの操作は劇場スタッフの方が乗り込みの方の指示に従ってされるんですか。

寺田:現状ではそうです。

内田:スタッフは何人位いらっしゃるんですか?

寺田:劇場の音響担当は5人が常駐してまして、その他にシフトで2~3人って形でローテーションしています。催事の規模で多少人数の増減はあります。マイクロフォンやスピーカーも含めて劇場の備品を使う場合はどうしても3人体制などになりますが、基本は2人チームで運用しています。

東京ガーデンシアター[後編]

音響調整室は第1バルコニー後方に位置し、奥行きがありゆったりしている。窓ガラスはなく開きっぱなしになっている

東京ガーデンシアター[後編]

音響調整卓はヤマハ「RIVAGE PM7」。右側にHYFAX「LDM1」とPC制御のスピーカーの出力制御画面、上部に出力メーターが見える

東京ガーデンシアター[後編]

音響調整室の機器架群。中央ラックの白枠に収納されているのがデータロガーHYFAX「DL3MA」とアコースティックメジャーメント/EQプロセッサー「AMQ3」

充実した映像回線

柳原:カメラコネクタの位置は、共立映像さんやヒビノビジュアルさんに、コンサートでよく仕込むカメラ位置などの意見を頂いて設計しました。光のループ回線も、舞台奥を起点に調整室や中継室に各24芯敷いているので、そこから必要な回線数を使える設計にしています。あと同軸は12G-SDI対応にしています。当初は3Gでしたが4Kの需要が増えてきているので途中で変更して、各所に回線を敷いています。

内田:会場が大きいから高解像度が欲しいですね。

柳原:同軸も総延長距離に限界があるので、各階バルコニーの中央部までは光で送って、その先を同軸に変換しています。あと43インチの映像モニターがアリーナ席に2台、第1と第2バルコニーに各6台、計14台あります。それも上手と下手で系統を分けていて、パッチを変えると単独でHDが流せます。カメラ映像の他にインフォメーションやアーティストロゴなども表示できます。ただし、インフラのみでカメラ類は入っていません。

今後に向けて

内田:他に運用してみての手応えはありますか?

寺田:思いのほか音声収録さんに評判がいいです。劇場勤務していて今までこんなに収録さんに感謝されたことなかったなと思って。痒い所に手が届く回線があって、ベースを何処にでも組める環境が理由かと思っています。

加無木:ものすごい楽なんじゃないかな?

内田:インフラと空間の響きと両方でしょうか?

寺田:空間の響きに関しては、先日ある音声収録さんとアンビエンスマイクをシーリングブリッジから客席に向けて垂らすために一緒に上がった時に、前回どうでした?って聞くと、毎回バッチリなんですけど、ちょっと困ってることがあるって言われて。今コロナ禍でお客さんの数が半分になってますが、それでも3,000人は居られる訳で、その方々は声は出せないので、もの凄い勢いで拍手をするんですよ。でもこのシアターが響かないんでその人数感が出ないって言われるんです。PAさん的にはデッドでいい反面、収録さんにはちょっとデッド過ぎちゃって寂しいようです。マイクの本数増やすとか色々やり方はあると思いますが。

内田:まずはパフォーマンスが良くないとお客さんが楽しめませんからね。

寺田:あとこれだけの会場ですので照明と映像もまた凄いんですよ。素晴らしい仕事をされる方がいらっしゃるので、その視覚に対する音じゃないですか。僕らこのシアターで凄くいい経験させてもらってるなと思います。コロナ禍が明けて満席になって、スタンディングで8,000人のお客さんが声も出せるようになってパフォーマンスした時に、初めてハウスのスピーカーのパフォーマンスの真価が問われるのかなと。その瞬間が来ることが、僕ら舞台に係る人間にしてみれば最優先の事項なんですけど、その時に初めて音響的な機材や設備の答えが出るのかなと思います。

長谷:私たちも8,000人規模の劇場は初めての経験、チャレンジでした。ただ、本当に早い段階で提案の機会を頂けて、加無木さんや運営側の方とお話が出来たからこそ実現できたと思っています。

内田:使われる方々との打合せは大きいですよね。取捨選択の境界線が明確になる。

長谷:その結果、先ほど寺田さんがおっしゃられたバランスのいい設備ができたんだと思います。

阿部:あとは保守を含めてサポートいたします。

内田:リミッターガンガンの公演が続くかもしれないですからね。早くそういう日が来て欲しいですね。

寺田:ホントそう思います。実際に本番の機会があったらお越しください。

内田:ぜひ、そうしたいです。本日は長時間ありがとうございました。

東京ガーデンシアター[後編]

オールフラットなアリーナの客席は可搬式とすることで、スタンデング形式のライブにも対応可能。あらゆるジャンルのコンサートやイベントに対応すべく、フレキシブルな工夫が随所に見られる

あとがき

取材を終えて、東京ガーデンシアターの建築や音響設備などすべてが、「非日常を日常に」と「音楽」というコンセプトをブレずにしっかりと芯にもって設計されたことを強く感じた。設営作業の低減、仮設しやすさの工夫、自由度の確保、使いやすさ、ステージの見やすさ、近さ、そして低コストというポイントが、ハウスのスピーカーシステムを外さずに持ち込みスピーカーを仮設できる工夫をはじめ多くの個所にしっかりと追求されている点にとても感心した。
また、技術的には様々な提案が見られた。電源方式、CEEフォーム、96kHzサンプリング、AVCネットワーク、配信・中継インフラ、仮設など、最新の技術や考え方と様々な工夫が採用されたシアターと言える。
特に音響電源に関する提案は業界として考えるべき内容であろう。200Vはパワーアンプの音質向上の他にも電圧降下、配線の細さ、発熱、安定動作など、様々なメリットが考えられる。ヨーロッパのメーカー製のマイクアンプ等を100Vで使うと発熱が凄い場合があるが、筆者はそれも200Vでは軽減されるのではと想像しており、音響設備全般に200V化はメリットがありそうである。また、三相四線式120V/210Vは、海外標準の三相四線式と200Vと日本の100Vという3要素を成立させようと試みた一例である。電源のユニバーサル化の普及を背景に試みた120Vへの反応が思ったより厳しかったようだが、CEEフォームと同様でどこかで挑戦しなければ進まない。今後の動向を注視したいと思う。
あとは、アーティストと8,000人の観客とスタッフが、思いっきりパフォーマンスを楽しめる日がはやく来ることを願うばかりだ。

筆者紹介

内田匡哉(うちだ・まさや)

内田匡哉(うちだ・まさや)
1970年東京都生まれ。日本大学大学院理工学研究科建築学専攻 博士前期課程修了。1995年「株式会社 永田音響設計」に入社、以降15年に渡り、ホール・劇場をはじめ会議施設・体育施設・教会など多数の新築・改修プロジェクトを担当。電気音響設備を中心に建築音響、防振・遮音、騒音制御に関する音響設計・音響コンサルティングに従事。2010年、同社を退社の後、2011年「内田音響設計室」を設立。 個人事業として音響コンサルタント業務を開始。現在は兵庫県芦屋市に拠点を移しさまざまなプロジェクトで手腕を発揮している。

 

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