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トップ対談 #05 株式会社 永田音響設計 
代表取締役社長 小口 恵司 様

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トップ対談 #05
株式会社 永田音響設計 
代表取締役社長 小口 恵司 様

トップ対談 #05  株式会社 永田音響設計 代表取締役社長 小口 恵司 様

株式会社 永田音響設計 代表取締役社長 小口 恵司 氏(写真 左) Talks with
ヤマハサウンドシステム株式会社 代表取締役 武田 信次郎(写真 右)

株式会社 永田音響設計
代表取締役社長 小口 恵司 氏(写真 左) Talks with
ヤマハサウンドシステム株式会社
代表取締役 武田 信次郎(写真 右)

「幕あい」とは、一幕が終わって、次の一幕が始まるまでの間。舞台に幕が下りている間のこと。このシリーズでは、ヤマハサウンドシステムが日頃お世話になっているホール・劇場の世界を牽引するキーマンの方々に、市場のトレンドやヤマハサウンドシステムへの期待などを、その仕事の「幕あい」に語っていただきます。
第5回は、サントリーホールをはじめ国内外の著名ホールの音響設計に携わり、それらホールの卓越した音響で世界トップクラスの指揮者や演奏家たちから高く評価されている株式会社 永田音響設計。代表取締役の小口恵司氏に、ご自身について、永田音響設計のポリシーについて、そして今後のホールのありかたなどについてのお話をうかがいました。

プロフィール 小口 恵司(おぐち けいじ)

プロフィール 小口 恵司(おぐち けいじ)
長野県生まれ。九州芸術工科大学大学院修了後、1980年に株式会社 永田穂建築音響設計事務所(現 株式会社 永田音響設計)に入社し現在に至る。コンサートホールをはじめとする様々な空間の設計に音響コンサルタントとして参画するとともに、音響シミュレーション技術の開発にも携わる。代表的なプロジェクト:水戸芸術館、東京芸術劇場、京都コンサートホール、福岡マリンメッセ、大阪国際会議場、Helsinki Music Centre、上海交響楽団ホール、Elbphilharmonie Hamburg、高崎芸術劇場、石巻市複合文化施設など。代表取締役社長(2019-)、上野学園大学非常勤講師(2010-)、東京工業大学特任教授(2016-20)、博士(芸術工学)

最初は楽器を作りたかった

最初は楽器を作りたかった

武田:小口さんが永田音響設計に入社されたのはいつ頃ですか。

小口氏:永田音響設計は3年前に他界した永田が1971年に個人で仕事を始めて今年でちょうと50年になります。私は設立されて10年目の1980年に入社しました。だから41年前でしょうか。当初は永田穂建築音響設計事務所という社名でしたが、1993年7月に現在の株式会社 永田音響設計に改めました。

武田:小口さんは、どんなきっかけで音響の世界に入られたのですか。

小口氏:もともと私は、子どもころから音楽をかじってたのですが、音楽で食べていくのは大変なのはわかっていましたので、その道に行くつもりはありませんでした。ただ、楽器を作りたいという気持ちは持っていました。
私の高校の先輩でもある作家の新田次郎さんの作品に「笛師」という本があります。それは邦楽の笛を作る笛師の話なのですが、私はその本にとても惹かれました。その小説にNHKの技術研究所で楽器の研究をされていた方が登場していました。私が高校当時、その方(A教授)が九州芸術工科大学(芸工大)の楽器を研究するコースにいらっしゃったので、芸工大に進みました。

武田:そこで楽器づくりを学んだのですか。

小口氏:そこは全員必修でピアノを弾く授業もある面白い大学で、私はその大学のオーケストラに入ったんですが、その顧問がA教授でした。ところがA教授とオーケストラはなんとなく相性が悪く(笑)、私も結局楽器音響ではなく建築音響を学び、そして当時指導教官の先生から東京だったらこういう会社があるぞと紹介され、ああ、東京なら諏訪の実家まで電車一本で帰れるな、ということで永田音響設計に入社しました。当時私が芸工大卒の3人目の社員でした。

トップ対談 #05 株式会社 永田音響設計 代表取締役社長 小口 恵司 様

武田:永田音響設計に入られて、最初はどんな仕事をされたのですか。

小口氏:学生時代はホールの響きの勉強もしましたが、どちらかと言うと騒音制御の研究をやっていたので、最初は騒音関係が多かったです。京葉線が開通する前の幕張あたりで、夜中に電車に見立てた音をスピーカーから出して記録計や騒音計や振動計を両肩から下げて計測して歩いたり。また夏休みの一か月間ぐらい浦安に運動会みたいな大きなテントを建てて、羽田を離発着する飛行機の騒音を測ったこともあります。その後、ホールの仕事も手伝い始めました。

武田:永田音響設計さんといえばホールの設計で世界的に有名ですが、どんな点が評価されているとお考えですか。

小口氏:弊社がホールの仕事で評価を得るきっかけになったのはサントリーホールだと思います。サントリーホールにいろんな国のオーケストラや指揮者、演奏家が来て「あそこはいいぞ」と評判になった、というのはあります。
たとえばロサンゼルス・フィルハーモニックがサントリーホールで演奏し、これはいい、ということで彼らの本拠地となるロサンゼルスのクラシック音楽専用コンサートホール「ウォルト・ディズニー・コンサートホール」の設計を担当しました。海外での大型コンサートホールの設計はそれが初めてでしたね。おかげさまでその後、数多くのホールの設計に関わらせていただいています。

武田:サントリーホールではどんな点が評価されたとお考えですか。

小口氏:変な言い方ですが、音がおかしくなかったということでしょうか。ウィーン楽友協会のような古いホールで音響のいいホールはありますが、新しいホールで今まであまりいい音響のホールがなかったのだと思います。古いホールといっても、当時音響設計などはありませんから、たくさんのホールの中で音響のいいホールが残っているというのが実情ではないでしょうか。
サントリーホールの設計で苦労したのは、それまでやったことのない形だったことです。そのため変な音響障害がおきないかという検証が必要でした。サントリーホールはよくあるシューボックス型ではなく、客席がステージの裏にも横にも回るアリーナ型です。その形状で音がどうなるのかを検証するために1/10の大きさの模型を作りました。六畳間くらいの広さで、サントリーの天井の一番高い所は20メートルありますから、人が中に入って普通に立てるサイズでした。その模型の中で実際に音を出し、響きを耳で聴きながら確認しました。ただ、それは響きが良いか悪いかではなく、変な響きや音響障害がないかを確認するためでした。音響は結局作ってみないとわからないので、模型段階でこれはすごいものができるぞという感触はまったくなかったですね。

「静けさ、良い音、良い響き」とは
騒音制御、電気音響、室内音響を意味する

武田:御社のスローガンに「静けさ、良い音、良い響き」とありますが、これは御社のホールづくりのコンセプトを示されているのでしょうか。

「静けさ、良い音、良い響き」とは騒音制御、電気音響、室内音響を意味する

(永田音響設計ウェブサイトより https://nagata.co.jp)

小口氏:そうです。まず「静けさ」とは騒音制御です。そして「良い音」とは響きがいいことではなく明瞭な拡声ができること。SR※がきちんとできる電気音響を意味します。そして「良い響き」が室内音響に関わる部分で、これにはいろいろな意味があり、なかなか数字では表せない部分です。
※SR:Sound Reinforcement

武田:音響設計会社といっても建築音響だけのところがほとんどで、御社のように建築音響と電気音響を一緒にやられるという発想は当時世界的にも少なかったのではないでしょうか。電気音響への取り組みは最初からだったのですか。

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小口氏:最初からですね。私たちは音全般にわたって設計をするわけですから、最終的にできあがったホールの音響のバランスが取れていなくてはならないわけで、そこに電気音響が抜けているのはおかしい。電気音響についてもしっかりとした耳を持っていなければならない、というのが永田の原点だと思います。ですから最初からその言葉はあるんです。

武田:ホールのように残響時間が長い空間は明瞭度を確保する電気音響にとって不利なんです。そこで建築音響と電気音響を一緒に考えることに意義がある、ということですか。

小口氏:そうですね。たとえば永田はよくコンサートに通っていましたが、常に開演前や幕間のアナウンスの音質を気にしていました。声がよく聴こえたとか、全然聴こえなかったとかと必ず言ってましたね。

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武田:それで弊社とは長いお付き合いをさせていただいているわけですね。弊社とのパートナーシップはいつ頃からでしょうか。

小口氏:もう最初からです。ヤマハサウンドシステムがまだ不二音響、三精エンジニアリングの頃からですね。

武田:私自身も何件かお仕事をさせてもらいましたし、システムを組むだけではなく設計事務所の方々との打ち合わせの場などにも同席させていいただきました。
御社とのお仕事では特に電気音響設備においていかに「静けさ」を作るかということを学ばせていただきました。絶対静寂を作ってもスピーカーからはどうしても残留ノイズが出ます。そこでいわゆるSN、つまりノイズを減らしながら大きな音を出すことにチャレンジしなくてはいけない。そのSNについて永田音響設計さんが目標を示されるわけです。そこには非常に細かい基準があって、永田さんがそのあたりのことが詳しく書いた「建築の音響設計」という本を出版されていますね、この本はホール音響の関係者なら誰もが持っているバイブルといえるでしょう。このように、永田音響さんはこの業界の基準を作ってこられた会社だと思っています。

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コロナ禍をへて、
劇場には一層「リアル」の価値が求められる

武田:ところで昨今のコロナ禍で劇場・ホール作りにも新しい動きが出ているのでしょうか。

小口氏:私はコロナについては2つ言いたいことがあります。まず1つは、昔もスペイン風邪というパンデミックがありましたが、その頃どうしたかというと普通にクラシックのコンサートはやっていたと思いますし、パンデミックが収束した後もずっとオーケストラは同じ形で演奏をしてきました。ですから今回もいずれまた以前と同じようにオーケストラの演奏はできるようになるだろうと思って、あまり心配していません。コロナ禍でオーケストラの配置を変え、ディスタンスをとって演奏することもあるようですが、私はあれはおかしいと思っています。もともとそういう想定で書かれた曲ではないですから。ホールとしても固定席の間隔を開けたような計画が出てきているかというと、それはまったくありません。ただ1つ変わったのは、ホールの換気回数を増やすということは少しやっているようです。またホールのプロポーザルやコンペ要項に、換気に関する要項が入るようになりました。はっきりとした数値は示されていませんが、十分な換気が行える、といったようなことです。

武田:ではコロナ禍でも換気の話以外はそんなに大きく変わらず、建築計画が減ったという実感はあまりないですか。

小口氏:あまりないです。むしろあまり遅延もなく、普通に進行していますね。

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武田:弊社の場合は「改修計画はちょっと待った」といった事態は起きています。劇場としてはお客さまが入らないから今は収入がないわけです。だから収束後にお金が入ってからやるのか、敢えて今先行投資的に改修しておくのか、そのあたりは方針の違いだと思います。ただコロナ禍を機に劇場やホールで始まっている配信については、今後も続くのではないかと思っています。
そうなると今後は劇場・ホールの世界は、配信とリアルとのハイブリッドに移行し、リアルの集客についてはよりリアルの魅力をアピールする必要があるのではないでしょうか。そのためにはよりお客さまを集めるために、音とか照明にさらにこだわっていく必要があります。そのための仕掛けとか演出に力点が動くのであれば、我々はぜひお手伝いさせていただきたいと思っています。
そしてリアルな演目で集客し、そこにさらに配信でお客さまがつけば、興行的には今まで以上に収入が増える方向に行きます。ですから舞台芸術としては、これは進化のチャンスなのかもしれないと思っています。
そうなるとリアルの価値を高めることは重要で、もしお客さまが配信で満足してしまうのであれば、もう劇場を使わなくたっていい、スタジオでいい、ということになってしまいますから。

小口氏:リアルがなくなって配信だけということは絶対ないでしょう。配信とリアルは別物ですからね。やはりその場にいるという体験があるかないかで感動って全然違うじゃないですか。コロナで一旦は配信に振られるかもしれないですけど、また絶対戻ると思っています。たとえばアナログレコードもまた戻ってきているでしょう? だって圧縮されたものしか聴いていない人たちが、ノイズだらけかもしれないけどレコードを聴いたら全然違う音楽が聴こえてくるわけです。それで若い人が実際に感動しているわけなので、劇場も配信に振れたままでなくなっていく、ということはないと思います。

よりリアルを追求するための「イマーシブ」

小口氏:リアルを追求する、という意味では、最近「イマーシブ」という言葉がどんどん出てきていると思います。イマーシブとは訳すると没入するという意味ですが、舞台音響の世界では音像がちゃんと定位するという意味のようです。たしかに現状では、音が出ているところから自然に音が聴こえるというのは技術的にはちょっと難しい。たとえば舞台音響の現場の人たちに聞くと、いつも音が上から来るばかりなので、もうちょっと降ろしたい。そういうことは常々言われるわけです。音を出したいところに実際スピーカーが置ければいいんですが、置けない時にもうちょっとうまくやる方法はないのかと思ったりはしますね。
そういうアイデアは昔からあって、原理的にはさほど難しくないでしょうから、ヤマハさんは既にAFCという技術をお持ちだし、その機能拡張で音像定位もやられたら面白いのに、といった期待をしています。

トップ対談 #05 株式会社 永田音響設計 代表取締役社長 小口 恵司 様

武田:イマーシブについては、劇場が先なのか、ライブSRが先なのかという問題があって、そういうものは今まで劇場が先にやってきたんですが、なかなかうまくいかなかったんですよ。今は逆にサカナクションがライブでイマーシブサウンドシステムを導入するなどの動きが出ています。このような方向性が強まれば、今度は舞台を使う側から劇場に固定設備としてイマーシブを用意してほしい、という流れになるのではないかと思っています。
いずれにしてもイマーシブサウンドもリアリティの追求であって、配信でいいと言っている反対側の人々が、より一層のリアリティ、臨場感の追求をしているわけで、こっち側に進化してほしいと思っています。

トップ対談 #05 株式会社 永田音響設計 代表取締役社長 小口 恵司 様

小口氏:今後はもっと臨場感が味わえるような劇場の使い方があってもいいかもしれません。たとえば舞台にお客さまがいてもいいと思うんです。先日、札幌文化芸術劇場hitaruで舞台をジャズライブの空間にしたイベントがありました。舞台って普通、お客さまが上がってくることってほとんどないじゃないですか。でも海外ではわりと普通にやっているんですよね。舞台の上には演出に使える装置がいっぱいありますから、そこにお客さまも巻き込んでしまう、といった試みも舞台でしか味わえない体験で面白いんじゃないかと思います。

武田:今のコロナ禍は苦境ではありますが、ピンチだからこそいろいろなアイデアが出てきていて、もう少し辛抱したあとのアフターコロナは、けっこう面白くなるんじゃないかなと期待しています。

本日はご多忙中お時間をいただき、ありがとうございました。

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