新都市ホール 様 / 神奈川県
Japan / Kanagawa Sep. 2023
「新都市ホール」は横浜駅直結の大型商業施設内にある多目的ホールです。客席あり/平土間、全室/2分割など、多様なスタイルで使用でき、コンサート、ファッションショー、セミナー、パーティー、展示会などさまざまなタイプの催し物が行われています。ヤマハサウンドシステムは「新都市ホール」の音響設備工事を担当し、定期保守点検に携わっており、2021年12月に行われた音響設備改修も担当しました。施設の概要や音響システム改修について、またヤマハサウンドシステムの仕事ぶりなどについて横浜新都市センター株式会社 ビル事業部 係長 新都市ホール営業担当 永山 弥生 氏、新都市ホール 統括技術主任(音響担当)川島 繁男 氏、新都市ホール 音響担当 大西 愛 氏にお話をうかがいました。
横浜駅直結、「そごう横浜店」が入居する横浜新都市ビルの9Fにある多目的ホール
● 「新都市ホール」はどのような施設なのでしょうか。
永山氏:
「新都市ホール」は「そごう横浜店」が入っている横浜新都市ビルの9Fにある多目的ホールで、上階と下階がいずれもそごう横浜店の売場やレストランとなっています。上下を商業施設に挟まれているという、ちょっと珍しいホールです。
川島氏:
横浜新都市ビルは1985年9月にオープンしました。当時そごう横浜店が「東洋一の売り場面積」の百貨店ということで話題を集め、大変な賑わいだったと聞いています。「新都市ホール」はそごう横浜店のオープンと同時に開館し今年で38年目となります。現在の横浜新都市ビルは1日平均5万6000人ぐらいの来場者があります。ホールとしての稼働はコロナ禍により下がりましたが、少しずつ回復してきています。
● 「新都市ホール」では主にどのような催し物が行われているのですか。
永山氏:
駅直結というアクセスの良さ、そして座席の配置の自由度やホールを2分割できるなどの利便性をご評価いただき、コロナ禍以前は進学相談会、就職説明会、企業の会議など比較的固めの催しが多いホールでした。また、絵画の展示会やファッション系の販売会などの開催が多いことも特徴のひとつで、大型百貨店と営業をともにする商業施設の中にあるホールならではかもしれません。またコロナ禍を経て、最近増えてきたのがタレントさんなどのトークショーやミニライブといったエンターテイメント系の催しです。ただし商業施設の中にありますので、上下階に響くような大音量のイベントの場合は音量を調整していただくこともあります。
● 「新都市ホール」の特長を教えてください。
川島氏:
平土間がベースですが、ステージと客席を配置するとおおよその動員として800〜900席くらい、セミナー形式であれば会議机を150本保有しておりますので、3人掛けであれば450席となります。
機構的な特長としてホールを可動壁で2分割して使用できます。2つの会議を同時に行うこともありますし、片方でコンベンションを行い、片方に移動して懇親会を行う、といった使い方をされる方もいらっしゃいます。
またステージ上だけでなくホールの天井全体に多数の昇降トラスがあり、これらを全部上げ下げできます。トラスの用途としては、照明や展示会のバナーなどを吊るためのものですが、電源とスピーカー回線が用意されていますのでスピーカーもホールの任意の場所に自由に設置できます。
次の改修までを見据えDanteと
ヤマハのデジタルミキサー「RIVAGE PM5」の導入は必須と判断
● 「新都市ホール」の音響設備について教えてください。
川島氏:
「新都市ホール」の基本的な音響システムのパワーリミットは「ファッションショー プラスアルファ」ができるグレードを想定しており、それ以上の音量が必要な場合は持ち込みをお願いしています。
● 2021年12月の改修のポイントについておうかがいします。改修工事はどのように行われたのでしょうか。
川島氏:
まず営業的に売り止め期間を短くしたいということがあり、改修工事は音響関係と照明関係と並行で2週間という短工期でお願いしました。
大西氏:
自由度を高めたり音質を向上させたりするために、オーディオネットワーク「Dante」を導入したことが改修のポイントです。
● やはりデジタル化が必要だったという判断ですか。
川島氏:
ホールとして必ずしも常に最新のものを追い求める必要はないとは思います。しかし次の改修工事が10年後、あるいは15年後になることを考えると、今回の改修でDanteの導入は必須だと考えました。Dante化に伴って調整卓は「RIVAGE PM5」を選定しました。もともとはヤマハの「CLシリーズ」にしようと考えていたのですが、ヤマハサウンドシステムさんから10年後を見据えると改修時点で最新の「RIVAGE PM5」がいいと提案があり、そうしました。改修工事の少し前に移動卓としてヤマハ「QL1」と「QL5」を導入しており、それらを仮設で使用することも多いです。
● 「RIVAGE PM5」を運用してみての感想はいかがでしょうか。
大西氏:
「RIVAGE PM5」は液晶画面が大きいし、タッチパネルで直感的にスピーカーへのアサインができるので、作業がとても楽になりました。
川島氏:
「RIVAGE PM5」はバスの出力数が多くて助かりますね。「新都市ホール」はスピーカーの系統が多いので、スピーカー系統を個別に制御できるメリットは大きいです。またiPadを使って「RIVAGE PM5」をリモートで操作できる「RIVAGE PM StageMix」も便利です。展示会でホワイエの音量をちょっと上げたいという場合でも、音響調整室に戻らず、iPadを持ってホワイエで実聴しながら音量が調整できます。
またイベントでも、今まで2人必要だったオペレーションがワンマンで済むようになるなど、メリットは大きいです。
用途・規模に応じ、スピーカー出力や距離補正などを
プロセッサーでプリセットして切り換え可能に
● スピーカーシステムの更新についてはいかがでしょうか。
川島氏:
「新都市ホール」には必要なときに仮設するメインスピーカーがあり、2021年の改修前に更新しました。今回の改修ではメインスピーカーの両脇に内振りと外振りとなる仮設型のサブスピーカーを追加、ホール天井にまんべんなく配置した16基のシーリングスピーカーを更新しました。
実際に運用してみると、サブスピーカーとして入れた4台のNEXO「P10」が十分なパワーを持っているのでメインスピーカーを使わずにサブスピーカーだけで運用することも多くあります。
大西氏:
ステージを作った場合は客席がかなり横長になるため、メインスピーカーの補助としてサブスピーカーを入れています。その場合はサブスピーカーを内側、外側に振って設定します。またサブスピーカーだけで運用する場合は向きを正面にします。クランプで簡単に角度が変えられるのでとても便利です。
● 音質についてはいかがですか。
シーリングスピーカーはNEXO「P8」に更新したところ、音質が向上し明瞭度が上がったと思います。このホールは場所によって天井の高さが違うため場所によって聴こえ方に違いがあったのですが、それもなくなりました。企業の会議や説明会などでマイクやパソコンからの音声をシーリングスピーカーから流す際も「音がとてもいいですね」とお褒めいただいています。
● ホールを2分割して使用する際などは、音響はどのように切り換えて運用しているのですか。
大西氏:
ホールの分割、客席のありなし、机を出したセミナーなど、主に使う6つのシーンについてスピーカー出力、EQ、距離補正のディレイなどをプロセッサーにプリセットしてあります。たとえばステージを作って客席を配置した場合にメインスピーカーを使用するのですが、シーリングスピーカーはあくまで補助なのでメインスピーカーに合わせて距離補正しレベルも抑えることで、あくまで定位は前から音が出ているよう聴こえるように調整してあります。
川島氏:
それと今回の更新でこだわったもう一つの点はロビーの音質改善です。
● ロビーについては、今回、どのような改善がなされたのでしょうか。
川島氏:
ロビーはもともと待合スペースという想定でしたが、最近はロビーを使って展示や物販をしたいという要望が増えました。そこでロビーのシーリングスピーカーを更新すると同時に数も増やし、ロビー全体に均一に音が届けられるようにしました。また音響的にデッドスペースだった階段の部分にもスピーカーを新設しています。更新後、物販をされるお客様から「ロビーなのに結構音が鳴りますね」とご評価いただきました。
● パワーアンプの出力レベルや温度、電源などを監視するデータロガーシステムHYFAX 「DL3 System」を導入いただきましたが、使い勝手はいかがですか。
大西氏:
音響室がガラスで完全に仕切られていてホールの音を直接聴くことができないので、「DL3 System」でスピーカーから音が確実に出ているかをチェックしています。以前は音響卓の出力をレベルメーターで見ていましたが、データロガーはパワーアンプの出力を直接監視するので、より確実なモニタリングが行えます。
● 改修後、お客様からの感想はいかがですか。
大西氏:
下見にいらっしゃったお客さまが『「RIVAGE PM5」が入っているんですね』と驚かれることが多いです。以前は音響システムの持ち込みも多かったのですが、ミキサーからスピーカーまでの全てをホールの設備で行う催しが増えました。
多様な用途に応える多目的ホールならではの
音響システムの使い勝手を設計レベルで徹底的に追求
● ここからは、改修に関わったヤマハサウンドシステムの社員も参加させていただきます。
システム設計担当の神谷さんは、今回の「新都市ホール」の改修でどんなところに注力しましたか。
神谷:
こちらはホールを分割して同時に別の催しものを開催するなど、通常のホールとは異なる多様な使い方をされています。多様な使い方がゆえに、音響調整室にあるスピーカー出力ON/OFFなどを制御するシステムリモートパネルは複雑になりがちでしたが、使いやすく、しかも改修前の要素を残し違和感なく使えるように、あらかじめ念入りに打ち合わせを行いました。
大西氏:
神谷さんからいただいた提案に対し、こちらから「こうするともっと使いやすいです」と要望を返す、といったやりとりを何度も行わせていただきました。その結果とても使い勝手がよく、必要な要素がスッキリと整理されたシステムリモートパネルに仕上がりました。
● システムを設計する際には、どんなところにこだわりますか。
神谷:
機器の構成、スペックも大切ですが、よく使うスイッチを手の届きやすい場所に置くという使い勝手を重視しています。ホールを2分割した際に調整卓は1台で運用することもあると聞き「こういう運用の仕方もあるんだ」と気づかされることも多かったです。私が設計した音響システムを運用の方が長く使っていただくことを大切に考えて、しっかり設計したいと考えています。
● 富士本さんは、今後、このホールとどのように関わっていこうと考えていますか?
富士本:
会社としてとても長くお付き合いをさせていただいているホールですので、私が担当をさせていただけること自体、光栄に思っています。会議用途でこのホールを利用された方から「音がいいね」と褒められた、というお話は私としてもとても嬉しかったですね。音楽関連ではなく、企業関連のイベントで音質についてのご評価をいただけるのは、めったにないことなので。もちろん頑張ったのはうちのスタッフたちなのですが(笑)。今後は「こういうスピーカーが最近出てきましたけど、どうですか?」と製品のご紹介だけではなく、このホールの環境でどんな音に聴こえるかをいっしょに試聴をさせてもらいながら、よりよい空間づくりの提案をしていけたらと思っています。
駅直結で多彩な使いこなしができる
多目的ホールとしての魅力を訴求していきたい
● ヤマハサウンドシステムの働きぶりはいかがでしたか。
川島氏:
今回の改修工事では、短い工期の中でこちらのやりたいことばかりをお伝えしてしまいましたが、しっかりと応えていただき感謝しています。サポートについても電話をすればすぐに返事をくださいますし、場合によっては駆けつけてくださることもあって、迅速な対応がとても頼りになっています。
大西氏:
私は手厚いアフターサポートがとてもありがたいです。改修前はDanteに触れる機会が少なかったので、改修後乗り込みのお客様が来た時に十分な説明ができるか不安だったんです。でも工事が終わってからの数カ月間は、ヤマハサウンドシステムの方がサポートしてくださったので本当に助かりましたし、私自身も現場でDanteについて理解を深めることができました。
● 今後のこのホールの運営などについて、最後に一言ずつお願いします。
永山氏:
多目的ホールですので、今日はライブイベント、次の日は会議、その次の日は展示会と、日ごとに催事が変わります。駅直結という利便性を生かしつつ、様々な用途でお使いいただけるという特長を今後もアピールしていきたいと思っております。
大西氏:
最近はトークショーやミニライブなどのエンターテイメント系の催しが増えたこともあり、SNSで「新都市ホール」を検索すると一般のお客様のツイートがかなり増えています。またそういった反応をみた業界の方から連絡が来るようになり、新規のご利用を獲得している状態です。新たな客層を獲得するために、音響としても様々な催しに対応できるように整えていきたいと思います。
川島氏:
この業界ではよく言われることですが、ホール側にとっては年間で1/365日の催しものでも、催事の主催者にとってみれば1年ぐらいかけて準備した晴れの舞台ですし、そして観に来られるお客様にとっても特別な1日です。その大切な1日が大過なく無事終われるように音響や照明だけではなく、空調やトイレなど、一般来場者に直接かかわる箇所も計画的に改修・メンテナンスして、いろいろな催事を運営していければと思っております。
● 本日はご多忙中ありがとうございました。
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