豊田市「豊田スタジアム」様 / 愛知県 /
Japan / AICHI August. 2019

© 空撮の天成
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愛知県豊田市にある「豊田スタジアム」は、客席数44,400席ある日本で2番目の規模を誇るサッカー等球技専用スタジアムです。このたび「豊田スタジアム」で音響システムの改修工事が行われ、ヤマハサウンドシステムが機器製作および機器取付を担当しました。音響システムの改修コンセプトや使い勝手、HYfAX「LDM1」および「AMQ3」について、豊田スタジアムの音響オペレーターを務めるHOR 堀 正弘氏と、音響設備改修の基本設計と施工時の音響コンサルティングを担当された株式会社M&Hラボラトリー 代表取締役 三村 美照氏にお話をうかがいました。

豊田スタジアム 音響オペレーター HOR 堀 正弘氏(写真左)
株式会社M&Hラボラトリー 代表取締役 三村 美照氏(写真右)

豊田スタジアム 音響オペレーター HOR 堀 正弘 氏(写真左)
株式会社M&Hラボラトリー 代表取締役 三村 美照 氏(写真右)

聞こえづらいエリアを解消し、音の明瞭性を良くするため、
スピーカーを増設して距離補正を行った

● 最初に「豊田スタジアム」の音響システムの概要を教えていただけますか。

堀氏:
「豊田スタジアム」はサッカー専用競技場ですが、ラグビーでも使用します。音響システムは、スタジアムDJ、場内アナウンス、ヒーローインタビューの拡声、ハーフタイムでのチアで使用する音楽再生、大型映像の音声などで使用します。

豊田市「豊田スタジアム」様

● 今回の音響システムを改修した理由を教えていただけますか。

堀氏:
私は使う立場ですので改修をした理由は答えにくいのですが、2001年の完成以来一度も音響システムが更新されていなかったので、経年による劣化はありましたね。今年、「ラグビーワールドカップ2019」も開催されることから、これを機に大型映像と音響システムが改修となったのだと思います。

豊田スタジアム 音響オペレーター HOR 堀 正弘氏

豊田スタジアム 音響オペレーター HOR 堀 正弘 氏

● 三村さんは、今回の「豊田スタジアム」の音響システムの改修に際して基本設計をされたということですが、どんなコンセプトだったのでしょうか。

三村氏:
スタジアムでは大きな歓声や声援にも十分に対応できる音量と明瞭性が確保できる音響システムを備えなければなりません。フィールド上は開放されていますが、観客席上の屋根があり、残響、反響は多くなる環境ですので、均一な音量、音質で明瞭性を確保することが難しいんです。改修前に測定や試聴を行ったのですが、客席内で音が聞こえにくいエリアがいくつかありました。それを解消するために、既存のスピーカーを入れ替えと同時に、スピーカーが足りないところは増設し、さらに音質の調整と距離補正をしっかり行うことで、音の明瞭性を良くすることが主な狙いでした。結果的には既存と比べるとかなりの数のスピーカーを増設する計画となりました。

株式会社M&Hラボラトリー 代表取締役 三村 美照氏

株式会社M&Hラボラトリー 代表取締役 三村 美照 氏

● 改修した音響システムの概要を教えてください。

三村氏:
メインミキサーにはオペレーションルームに「CL5」が入っています。アンプはNEXO用に「NXAMP MK2」シリーズを使い、スタジアムの4隅のアンプ室に分散して設置しています。スタジアムではオペレーションルームとアンプ室間は長距離になるのでDanteを光ファイバーに変換して伝送しました。そうそう、今回、アンプ室の機器は200Vで駆動しましたね。更にその電源はノイズカットトランスを経由しています。このノイズカットトランスは部屋ごとに大きなものをどーんと置くのではなく、同じ型番でもフィルター特性やレギュレーションが良い小型のものを多数組み込みました。電源の配線もシールド付を使用して、入力と出力を離した施工ができていますね。

オペレーションルームに導入されたデジタルミキシングコンソール「CL5」

オペレーションルームに導入されたデジタルミキシングコンソール「CL5」

オペレーションルームに設置した音響ラック

オペレーションルームに設置した音響ラック

アンプ室はスタジアムの4隅に分散配置

アンプ室はスタジアムの4隅に分散配置

音質に配慮し、小型のノイズカットトランスを多数使用

音質に配慮し、小型のノイズカットトランスを多数使用

三村氏:
今回のスピーカーレイアウトは、フィールド用にNEXOの「GEO S12-ST」シリーズ11台のアレイが1カ所あります。観客席をカバーするスピーカーは、メインスタンドとバックスタンドは対称な配置にしており、大屋根の先端付近5カ所に同5~6台のアレイをメインとし、観客席最前列付近の補助用に同3台アレイを5カ所、観客席後方の補助用に同3台アレイを2カ所、それ以外にもポイントソースのNEXO「PS15-R2」が4カ所、「PS10-R2」が6カ所あります。更に各スタンド1F席補助用として、全周にバルコニー先端に軒先スピーカーという名前で「PS10-R2」を48カ所あります。この「GEO S12-ST」の「ST」は、従来の「GEO-S12」と高域ダイアフラムが違って3dBほど高能率のもので、スタジアム仕様を意味します。

ピッチエリア向きのフィールドスピーカーNEXO「GEO S1210-ST」

ピッチエリア向きのフィールドスピーカーNEXO「GEO S1210-ST」

フィールドスピーカー(拡大) NEXO「GEO S1210-ST」×11台によるラインアレイで構築

フィールドスピーカー(拡大) NEXO「GEO S1210-ST」×11台によるラインアレイで構築

スタンド屋根に分散配置されたNEXO「GEO S1210-ST」(写真右 5台)と 下向きに設置したNEXO「GEO S1210-ST」(写真左 2台)

スタンド屋根に分散配置されたNEXO「GEO S1210-ST」(写真右 5台)と 下向きに設置したNEXO「GEO S1210-ST」(写真左 2台)

スタンド屋根に分散して配置されたNEXO「GEO S1210-ST」(5台)

スタンド屋根に分散して配置されたNEXO「GEO S1210-ST」(5台)

軒先からフィールド近くの観客席をカバーするNEXO「PS10-R2」

軒先からフィールド近くの観客席をカバーするNEXO「PS10-R2」

サイドスタンド用のポールに設置されたNEXO「PS15-R2」

サイドスタンド用のポールに設置されたNEXO「PS15-R2」

 

三村氏:
南と北のサイドスタンド席も共に同じで、メインとバックの両スタンドの端から「GEO S12-ST」シリーズ5台アレイ2カ所と補助用の軒先スピーカー、スタンドの最上段にポールに取り付けられたポイントソースのNEXO「PS15-R2」が5カ所、大型映像のすぐ前を補助するNEXO「PS10-R2」が4カ所あります。

バルコニー下の天井埋め込みスピーカーJBL Control47C/T

バルコニー下の天井埋め込みスピーカーJBL Control47C/T

三村氏:
バルコニー下は完全にこれらのスピーカーでカバーができない位置ですので、JBLのシーリングスピーカー「Control47C/T」を計104カ所に埋め込み設置しています。さらにそれでも足りないエリアが4カ所ありましたので、「PS10-R2」を各1台追加しています。

デジタルオーディオネットワークDanteの採用で、
2種類の距離補正の切り換えやマネージメントなどを実現

● 改修前のシステムはアナログだったのですか。

堀氏:
ミキサーなどはデジタル製品でしたが、それらをアナログで接続する形でした。

● 今回デジタル伝送に切り換えた理由はなんですか。

三村氏:
現在ではデジタル伝送しか選択肢がありませんね(笑)。デジタルの第一のメリットは信号の伝送ロスが非常に少ないということです。「豊田スタジアム」のように巨大な施設では音声信号ケーブルを長距離引き回しますから、伝送ロスを無視できるのは大きなメリットです。しかも単に信号ロスの問題だけではなく、今回はDanteのオーディオネットワークを使っていますので、ネットワークによるメリットというのも大きいんです。たとえば後で回線経路をどのようにも変更できるフレキシビリティや、アンプ室などの機材の稼働状況を監視するマネージメントなどもネットワークだから可能になりました。これはアナログでは不可能です。

フィールドの脇に設置されたイベントコンセント盤。光ファイバーによるDanteの回線が引き回されており、フィールド脇でのアナウンスやスタジアムDJ、ヒーローインタビューなどの音声をオペレーションルームまでデジタル伝送する

フィールドの脇に設置されたイベントコンセント盤。
光ファイバーによるDanteの回線が引き回されており、フィールド脇でのアナウンスやスタジアムDJ、ヒーローインタビューなどの音声をオペレーションルームまでデジタル伝送する

● 現場としては、デジタル伝送に切り換えて、音は大きく変わったのでしょうか。

堀氏:
雲泥の差といっていいほど、音が良くなりました。明瞭性が格段に良くなりました。

● それは伝送のクオリティが高いからですか。

堀氏:
デジタル伝送のクリアさもありますが、スピーカーの距離補正をしっかりと行ったことが大きいと思います。

● 距離補正はどのように行っているのですか。

三村氏:
HYfAXのマトリクスコントローラー「LDM1」を使ってスピーカークラスタごとに距離補正を行っています。この「豊田スタジアム」での距離補正は複雑で、実は2つのパターンの距離補正を持っています。ひとつはピッチに音を出すフィールドスピーカーを使う設定。この場合はフィールドスピーカーが非常に高い場所、客席から遠い場所に設置されているので、その音の到達時間にその他の全てのスピーカーを合わせる必要があります。もうひとつのパターンがフィールドスピーカーを使用しない場合です。その場合はフィールドスピーカー以外のスピーカーでタイミングを合わせればいいので、お客さんは一番近いスピーカーからの音をクリアに聴くことができます。大型映像の音は画面と聞こえる音のタイミングができるだけ合っているほうが自然ですよね。これはスタジアムDJやアナウンス、BGMなどでも同じで、一番近いスピーカーの音をクリアに聴くように調整をします。このような設定を切り換えではなく同時に成立させるためにはディレイマトリクス機能を有する「LDM1」が必要でした。メインミキサーの出力数は少ないですが、かなり多くのスピーカー系統があるので120入力120出力タイプのマトリクスコントローラーを導入しています。ミキサー出力chによってフィールドスピーカーを使用する音、しない音を同時に区別して送ることができます。これは画期的です!

メインミキサーの横に設置されたマトリクスコントローラー「LDM1」

メインミキサーの横に設置されたマトリクスコントローラー「LDM1」

● スピーカークラスタごとの音質調整はどのようにしているのでしょうか。

三村氏:
スピーカークラスタごとの音質調整はHYfAXのアコースティックメジャーメント/EQプロセッサー「AMQ3」を使っています。「AMQ3」はFIRフィルターを使って特性を正確に補正することができます。これもクリアな音質にはかなり貢献していると思います。
「AMQ3」には、Systuneで測定して得られたIR(Impulse Response)データからFIRフィルターを自動生成する機能を持ってます。メインとなる席で最適な音質を調整し、その測定データをIR(Impulse Response)データで取り込み、他のスピーカーのエリアで同じ特性になるようなFIRフィルターを生成して設定をしていく…これを繰り返し行うのですが、調整作業はかなり効率的で、しかもクリアでいい音に仕上がりました。

オペレーションルームに設置されたアコースティックメジャーメント/EQプロセッサー「AMQ3」

オペレーションルームに設置されたアコースティックメジャーメント/EQプロセッサー「AMQ3」

● ネットワークオーディオによるマネージメントでは、どんなことを管理しているのでしょうか。

三村氏:
具体的にはアンプの出力レベル、アンプ室のラックの中の温度、電源電圧、さらにスピーカーのインピーダンスチェック機能も使っています。これらはHYfAXのデータロガーシステム「DL3 System」を使って管理しています。

● どこかのスピーカーがとんでいるとか、アンプが故障しているということがわかるわけですか。以前はそれはわからなかったのでしょうか。

堀氏:
オペレーションルームにいたのでは全くわかりませんでしたね。誰かに言われて見に行って、やっと壊れているかなってわかるという感じです。

三村氏:
今は何かがあれば全部エラーが出ますので、ほぼリアルタイムでどこがおかしいのかわかります。

タッチパネル方式のシステムリモートパネル。各パワーアンプ稼働状況のモニタリングと、音声をサービスするエリア(スピーカーのON/OFF)が指定できる

タッチパネル方式のシステムリモートパネル。
各パワーアンプ稼働状況のモニタリングと、音声をサービスするエリア(スピーカーのON/OFF)が指定できる

音響システムリモートパネル画面

音響システムリモートパネル画面

アンプ室のラック内。デジタルオーディオネットワークDanteの長距離伝送は光ファイバーで伝送され、LANスイッチからネットワークケーブルでアンプに入力

アンプ室のラック内。
デジタルオーディオネットワークDanteの長距離伝送は光ファイバーで伝送され、LANスイッチからネットワークケーブルでアンプに入力

アンプにはNEXOのパワードTDコントローラー「NXAMP4x2MK2」などを採用

アンプにはNEXOのパワードTDコントローラー「NXAMP4x2MK2」などを採用

HYfAXのデータロガーシステム 「DL3 System」の監視用データロガーインターフェース「DL3SA」をすべてのアンプ室に設置

HYfAXのデータロガーシステム 「DL3 System」の監視用データロガーインターフェース「DL3SA」をすべてのアンプ室に設置

 

ヤマハサウンドシステムは、仕様や設計図から設計者の意図を汲み、
それを最大限生かした施工をしてくれる

● 今回「豊田スタジアム」ではヤマハサウンドシステムが施工を担当しました。その感想をお願いします。

豊田市「豊田スタジアム」様

堀氏:
当初、監視用データロガーの液晶画面の設置場所が、窓側にあったんです。それだとサッカーの競技が見えない死角ができてしまい、実作業では困るのでより使いやすい場所に変えてもらいました。よい場所を探してくださって助かりました。

音響ラックの上部に設置された監視用データロガーの液晶画面

音響ラックの上部に設置された監視用データロガーの液晶画面

三村氏:
やはり現場で使う人の意見がものすごく大事なので、そのあたりはヤマハサウンドシステムさんに柔軟に対応してもらってよかったと思っています。

● 三村さんは、基本設計をされた立場から、ヤマハサウンドシステムに対してどのような感想をお持ちでしょうか。

三村氏:
設計した立場としては自分の思惑通りのものを作ってほしいわけです。今回の「豊田スタジアム」では仕様での入札でしたが、設計図書の仕様にはスペックしか書いてありません。しかし実は設計には「スピーカーはこの場所で、この角度で、こういうことができるように取りつけてほしい」という意図があるわけです。今回は音響コンサルティングという立場で私も工事に関われましたが、その詳細は施工会社に任されます。ヤマハサウンドシステムさんは、設計の意図を推し量り、よく吟味した施工図面を作ってくれるので、私は高く評価しています。

● 設計者の意図通りでない施工図面が上がってくることもあるのでしょうか。

三村氏:
設計の意図を汲んで施工図を作ってくれるところって意外と少ないんですよ。たとえば金具ひとつとっても「後で自由度が欲しいから、これぐらい曲がるようなものにしておきたい」という意図が伝わっているのか。それによって選ぶ金具が変わりますから。そして結局これが最終的には調整のしやすさにもつながってくるんです。

豊田市「豊田スタジアム」様

● オーケストラに例えると設計図が楽譜で、施工が演奏みたいなイメージでしょうか。

三村氏:
そうなんですよ。設計者って作曲家なんです。そして音楽を演奏するためには、アレンジャーがいて演奏家がいるわけです。楽譜に書かれた意図を汲んで、アレンジをしたり、現場によっては状況を見てアレンジを変えたりということをしながら施工は進んでいくわけですが、その時、メロディがどこまで生かされるか。ヤマハサウンドシステムさんは、メロディにあたる設計趣旨をよく理解して施工してくれると思っています。それともう一点、ヤマハサウンドシステムさんの安全性への意識の高さも素晴らしいと思っています。

● それは具体的にはどんな点でしょうか。

三村氏:
たとえば「豊田スタジアム」の施工でも、取付金具に関してじっくりと時間をかけてチェックしてくれました。逆に今回の施工図を見て「安全面で妥協なくしっかりやってくれるなぁ。ありがとうございました」って言いそうになりましたよ(笑)。でも安全性については「やりすぎ」は絶対ありませんから、素晴らしいことだと思います。ヤマハサウンドシステムさんの施工は他の現場でも一緒にやっているんですが、いつも安心できます。

豊田スタジアム

● 本日は、ご多忙の中ありがとうございました。

【音響設備改修基本設計・音響コンサルティング】株式会社M&Hラボラトリー
【監理】オーヴ・アラップ・アンド・パートナーズ・ジャパン・リミテッド
【元請】関電工・豊田電気建設共同企業体

豊田スタジアム

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