10周年を迎えたヤマハサウンドシステム 「YSS2.0」の最前線をゆく世代たち(後編)

(隔月刊PROSOUND VOl.212 2019年8月号より転載。テキスト:半澤公一 撮影:中山健 撮影協力:東京芸術劇場)

PROSOUND FEATURE
(隔月刊PROSOUND VOl.212 2019年8月号より転載。テキスト:半澤公一 撮影:中山健 撮影協力:東京芸術劇場)

PROSOUND FEATURE

前号「PROSOUND FEATURE」のコーナーで届けた「ヤマハサウンドシステム10周年」を紹介する前編。組織の運営に携わる首脳陣、代表取締役社長 武田信次郎氏以下4名に話を聞いた。そこで際立ったのが「YSS2.0」と掲げられた経営方針。「不易流行」をキーワードに構築され、「残し伝えるべきものを残し、変えるべきものは変える」というもの。就任間もない前出の武田氏を中心に新たな展開を目指し、決意がスタートした。

しかしこうした運営方針は、組織の末端にまでゆきわたり、さらに現場の先端で実行されてこそといえる。同社に従事する社員数は約170名。所帯は小さくない。また、それぞれが專門技術を縦横に扱い、例え若くしても担当業務に対して一家言を持つ精鋭集団である。

今回のインタビューは、まさに作業真っ直中の慌ただしい現場へ分け入って敢行した。新しい運営方針、現場への思いといった声をどうしても高い温度感で聞きたかったからだ。インタビューに答えてくれたのは6名の各部署スタッフ。それぞれの持ち場から駆け足で集ってくれた。

「YSS」入社までの道筋

プロサウンド(以下、PS):

本日は6名の方々に集っていただきましたが、まさに作業の真っ直中から飛び出して来て下さいました。ありがとうございます。プロサウンド誌前号では皆さんの上司にあたる方々に話をうかがっています。この企画が立ち上がったとき、現場からの声も聞き、そのセットで「ヤマハサウンドシステム(以下、YSS)」という会社を読者に知ってもらいたいと。そこで皆さんの年齢や世代なり、等身大の話を聞くことができればと思っています。でははじめに開発企画部の重永一輝さん、現在の仕事に興味を持たれたきっかけは何だったのでしょうか。子供の頃から機械関連に興味があった、といったようなことでもかまいません。

重永:そうですね、大学時代バンドサークルに在籍していて、そこでPAを担当していました。それをきっかけにプロオーディオの分野に親しみがあったことでしょうか。

PS:PAに携わることになったのは、先輩から受け継いだような経緯で?

重永:いえ、自分自身興味があったのです。大学での学科が電気電子システム工学科という電気関連の工学部で、そこで電気を学びつつバンドサークル活動があり、楽器や電気音響に触れる機会ができました。そこでは作れるものは自作をするなどしていました。

重永 一輝 開発企画部 開発課  重永 一輝 開発企画部 開発課

重永 一輝 開発企画部 開発課

PS:では就職の時になっても引き続きやりたいと。ありがとうございます。では計画設計室の来栖真弓さん、同じ質問を。

来栖:小さな時からものづくりはしたくて、そうした勉強を学校でしてきました。また同時にコンサートに行くのが好きでした。それらが合わさった仕事がまさにこれ、だったという形ですね。

PS:学校ではどのような専攻を?

来栖:建築を学んできました。最初は建築音響を専門で勉強していましたがコンサートでは電気音響のほうがクラシカルなものよりも身近に感じましたし、その場その場で作っていくようなアプローチが感じられ、今ここに立っています。

耒栖 真弓 計画設計室 耒栖 真弓 計画設計室

耒栖 真弓 計画設計室

PS:ありがとうございました。営業担当の堀口祐輔さんはいかがですか。

堀口:私は中途採用で入っています。前職は畑の異なる仕事でしたが、営業職は積み上げてきたものがあったこと、また仕事を始める以前から音楽は好きで興味が強く、その分野と合わせることで何かできないかと探していたところ「YSS」に出会った経緯があります。

PS:次に技術部システム設計課の河野峻也さん、同じ質問をしたいと思います。

河野:大学で立体音響のシステムを研究していまして、外でデモをする機会が多かったのです。その時に自分が作ったものを聴いて、お客さんが音に驚いている光景を見ました。ぜひお客様に触れながら技術的な仕事がしたいなと。そこで「YSS」に行った先輩に聞くと、自分が思い描いていた理想の会社かなと思って就職しています。

PS:今をときめく立体音響ですね。「立体音響とは」と問うとどのような回答をいただけますか。

河野:考えたこともなかったです(笑) 研究室の先生は、人を能動的にさせるものだ。と仰っていた記憶があります。

PS:興味深いですね。では同じ技術部になります技術課の吉村紳平さん。

吉村:僕はもともと演劇の演出家になりたくて上京しました。演劇学科のある大学に入り、舞台芸術のなかで目に見えないところで勝負したい、というのか演出よりも音響に強く興味を惹かれたのです。

PS:音響が演出を超えてしまった。

吉村:ええ、卒業後はホールの管理に就いたのですが、その時工事を担当していた「YSS」の方の「少しでも良くしていこう」という姿勢や人間性に惚れ込んでしまい、当時の立場と正反対のこちらに来てしまいました。

PS:ありがとうございます。最後に品質管理部の梅田 茜さん、そもそもはどのようなきっかけで。

梅田:私は子供のころからピアノと合唱をずっと続けてきていまして、合唱の伴奏を担当することもあったのですが、行く先々で音が違って演りづらいと先生に問うたところ、ホールごとに音は違うものと聞き興味を覚えました。その後、高校の時に部活でミュージカルの音響を担当しまして、そこで電気音響へさらに傾いたのです。

PS:ありがとうございました。みなさん全員が思いのほか、といえば失礼ですが音楽好きだということに正直驚きました。しかもキャスト側の立場も経験されて、さらに興味深いです。

それぞれの不易流行

PS:さて、ここからは皆さんと会社との関連性を聞いていきたいと思います。「YSS2.0」という経営方針が武田社長から打ち出されました。その要諦は「不易流行」といったものとなっています。ここで教えていただきたいのですが、みなさんにとっての不易流行とは、どういったことになるのでしょうか。あるいはご自身にとって、そうしたことでも構いません。堀口さん、いかがですか。

堀口:まさに重要な考え方だと思ったことは間違いありません。音響システムについて言えば、基本は変わらないけれども革新されるべきところが近年加速度的に進化しています。営業職といった側面では、これまでと変わらずお客様との対面での打合せや提案を大事にして信頼につなげたいと考えています。それと同時に、デジタル技術を活用して効率を上げていく努力も怠らない。最適な答はまだ出ていないのですが、「2.0」と呼べるスタンスを自分のなかでも確立していきたいと考えています。

PS:来栖さんは普段、プラン構築という「考える」ことが中心になってくるのかと思います。そこでの不易流行とはどのような印象になりますか。

来栖:基本的に変わらないものとしては、オンリーワンをつくることを心がけています。私達は日々ホールや劇場の音響システム構築を考えていて、それが日常になっています。しかし、お客様にとっては何十年に1回、あるいは一生に一度という特別な機会になることがほとんどです。その緊張感は常に持っていなければいけません。変化というキーワードに対しては、いかにお客様にとって良いものを提案するのか。それは今までにある良いものだけでなく、今までにない良いものも提案・提供していく必要があると感じています。

重永:開発企画という私の部署では、最新の情報技術を取り入れていくようなところになり、基本的にこの先どうなっていくのかを見据えて仕事をします。ただ求められているもののなかには変わらない部分も少なくありません。

PS:形あるものですから避けられないのですが、劇場という性格上、機器の故障について神経を砕かれるのでは。

重永:そのとおりです。さすがに10何年動いていると故障も確かにゼロではありませんが、壊れにくい部分も「HYfAX」製品としての信頼のひとつと考えています。長期の動作に耐える部品選定や設計をすることは大事に考えています。また「良いものは残る」という考えもあると思います。お客様が求められるものに対し、新しいテクノロジーや自分ができることを提供し続けていく。それが私にとっての「YSS2.0」と考えています。

PS:梅田さん、教えてください。

梅田:調整を行なう際、納品したシステムを使う私達が最初のリスナーとなります。提案まで遡ると、その時間のなかで音響機器や技術など新しいものや考え方が登場してくるケースも少なくありません。そこででき上がったシステムを使いながら、私達が知り得ている情報や最新の技術を用いて仕上げ段階で、どうすれば最もより良く扱えるのか。そうした提案をプラスアルファできるよう常々考えています。むろんアナログのバックアップ回線のように大事な変わらないものも存在しますが、そこのところのバランスを皆で話し合いながら提供していきたい思いです。

PS:ひとつ聞いてみたいのですが、お客様の大半は耳で観賞されるのですが、梅田さんはご自身の耳はむろん計測器もフルに活用されています。測定器と仲良くなるためのコツは何かあるのでしょうか。測定のための測定になってしまったり、測定器の奴隸になっては良い音が出ないような気がします。

梅田:その点は測定器の良いところとそうでないところをしっかり自分に取り込んで、振り回されないよう注意しています。

PS:ありがとうございました。さて吉村さん、いかがでしょう。不易流行。

吉村:普段、工事が終わった後に本番の立ち会いをするのですが、そこでお客様が新しくなった劇場に対してどういった感想をお持ちかどうか、聴く耳を立てています。例えば改修案件だと、いろいろな人の愛がその劇場の音に残っている気がして、機材は良くなったけれど「音が変わっちゃったね」と、それでは落第なのです。これまで注がれた愛を持ちつつ先へと持っていきたい。抽象的なのですが。

吉村 紳平 技術部 技術3課 吉村 紳平 技術部 技術3課

吉村 紳平 技術部 技術3課

PS:演出家志望らしい詩人のようなコメントです。

吉村:担当した劇場とはずっとコミュニケーションを取って、一緒に人生を歩んでいきたいと思っています。

PS:では、たくさんの人生があって良いですね(笑) 最後に河野さん、教えてください。

河野:私はシステム設計課の部署として、残すべきところは「使いやすさ」。この点は絶対に揺るぎないものとして「YSS」品質が持つべきものと思っています。ただそれだけではなく、業界で常に挑戦者であり続けたい。新しいものをどんどん採り入れ、「えっ、ホールでそんなことができるの!」いつか誰かにそう言ってもらえるような革新的なホールづくりを目指したいですね。

PS:例えば現在の技術で可能か否かはさておき、目指したいもののひとつを教えてください。

河野:最近スポーツ観戦などでパブリック・ビューイングをよく見かけるようになりました。そのようなものがもっとカジュアルになれば面白いですね。日本中のホールがひとつにつながっていて、遠くまで足を運ばなくても近所のホールでまるでその場にいるような立体的な音を聞きながら、しかもリアルタイム!そうしたことが実現すれば、文化発展の一端を担うことになれるのではないかと確信します。

河野 峻也 技術部 システム設計課 河野 峻也 技術部 システム設計課

河野 峻也 技術部 システム設計課

PS:その昔、レコードという音を記録するメディアが発明されたからこそ世界的スターが生まれたように、そうなれば新しいタイプのビッグスターが誕生するかも知れませんね。

新体制になって感じたこと

PS:それでは次の質問はワンセンテンスでお答えください。「YSS」社は武田社長に代わって日がまだ浅いのですが、前社長の宮𦚰精一氏とはお人柄がまったく異なると武田社長ご自身も仰います。どういった変化があったのか、なかったのか。また変わったのであれば、どのようなところかを聞かせてください。

堀口:はっきり違います。代表が変われば雰囲気も変わるものかと思いますが、今回の「YSS2.0」のような所信表明をキックオフ・ミーティングなどだけでなく企業広告としても出す。また「2.0」という印象付ける言い方で社員の皆が意識を共有させる力を感じたので、一体感がさらに上がるようにやっていただいているなと。そのように感じています。

堀口 祐輔 営業部 営業課 堀口 祐輔 営業部 営業課

堀口 祐輔 営業部 営業課

PS:はい、来栖さん。

来栖:2つ言って良いですか。ひとつは今っぽくなった…。

PS:今っぽいとは、新しいと認識して良いですか。

来栖:そのとおりです。新しくなった、雰囲気が変わったと感じています。あと個人としては、初心を忘れていたから思い出さなきゃ、と思いました。

PS:吉村さんはいかがでしょう。

吉村:ひと言でまとめると、進むことで逆に初心に返ることができた。来栖さんと同じ思いです。

PS:では梅田さん、どうぞひと言で。

梅田:5月に本社ビル内のレイアウトの変更もあったので、環境的にも変化がありました。その点も含めて先のみなさんと同じになるのですが、気持ちを新たにしているところです。

梅田 茜 品質管理部 検査課 梅田 茜 品質管理部 検査課

梅田 茜 品質管理部 検査課

PS:ありがとうございます。次に重永さんはいかがでしょうか。やはり気持ちが入れ替わったような?

重永:イメージとしては宮𦚰さんが「赤い炎」で武田さんが「青い炎」。

PS:そういえば前回のインタビューの折、武田さんが仰るに「宮𦚰さんと自分とは芸風が違う」と。加えて「宮𦚰さんは人に火を付けるのがうまい」とも。火が付いた後は僕がしっかり引き継いでいきますと。気持ちの良いコメントがありました。

重永:言葉の端々に炎みたいなもの、熱い思いを持っているなと感じます。

PS:最後は河野さんにうかがいます。

河野:私は自分自身の視野が広がりました。

PS:ご自身の動きにも影響を与えたということでしょうか。さてみなさん、良いコメントをいただき良い時間を過ごせました。またお忙しいところ時間を工面いただき感謝しています。本日はありがとうございました。

誌面の都合で話を割愛している部分はお許し願いたいが、今回のインタビューを通じ、集ってくれた6名全員が全員ともに表情が明るいこと。それが何より印象に残っている。組織で働くということ、複数の「人」が共同で仕事をする限り、決められた規矩を設けなければ成立はしない。ただその大屋根の仕組みや色、形によってそれをいつも見上げる側への影響は計り知れない。2回の取材を通じて組織を束ねることの難しさ、そしてそこで生きることの楽しさをあらためて意識する貴重な機会となった。

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