10周年を迎えたヤマハサウンドシステム 新たに掲げる「YSS2.0」とは(前編)

(隔月刊PROSOUND VOl.211 2019年6月号より転載。テキスト:半澤公一)

PROSOUND FEATURE
(隔月刊PROSOUND VOl.211 2019年6月号より転載。テキスト:半澤公一)

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日本における設備音響のマーケットにおいて、トップシェアを誇る「ヤマハサウンドシステム」。専門性が高く特殊なフィールドにありながら、高い技術力と豊富なノウハウを最大限に活用。業界屈指のリーダーとして手腕を発揮し続けるが、今年2019年4月で設立10周年を迎えた。前号のプロサウンド誌でも、市内の一等地に新設された「札幌文化芸術劇場hitaru」を紹介したばかりだが、この大型案件も同社が担当している。

常設された音響設備と聞くと、筆者のようなSRエンジニアには仮設ライヴ現場という切り口で見る限り、接点が多くないように感じるが、その点幸運なことにプロサウンド誌のおかげでこれまで劇場を中心に、さまざまな音を扱う空間に出会い、「設備」というものの一端に触れることで興味深い事実を目の当たりにしてきた。音響に対する視野や裾野も広がり自身の成長に役立ったことは言うまでもない。

10周年の節目に同社が新しく掲げた新経営方針「YSS2.0」とは具体的になにを指すのか。まずはその真意を確かめたく、本社へと赴き代表取締役社長 武田信次郎氏以下、首脳陣4名に直撃インタビュー、組織としてのありかたを聞いた。さらに次号では現場へと押しかけ、取材を敢行するつもりだ。2回に渡る連載を通じ、「設備音響」という一見地味そうでいて、その実「熱い」仕事であること、それをぜひ感じ取っていただきたい。

はじめに

通されたのは「ヤマハサウンドシステム」社(以下、YSS)のオフィスがある都内のビル、最上階10階の会議室である。正直なところ、少々緊張していた。普段の本誌取材では、いわばホールやライヴハウスといった現場がほとんど、勝手知ったる場所だから慌てることなどないが、取締役4名が揃ってのインタビューということで、最初はどう切り出せば良いのか、そのようなことですら悩む始末だった。

だが心配は杞憂に終わった。それぞれ個性がありながらもフランクな人柄に加え、何より前向き。インタビューは弾んだ。が、帰途になって巧みに話を引き出してくれたことに気付いた。人生の達人揃いと一度に出会う貴重な機会となった。

柔和な笑顔に 個性がのぞく面々

プロサウンド(以下、PS):

本日どうぞよろしくお願いいたします。はじめに確認しておきたいこととしまして、今年2019年4月で「YSS」社10周年とのこと。「ヤマハサウンドテック」と「不二音響」の合併が2009年にあってからが10年となるわけです。さらにそれぞれの沿革を溯ると長い歴史をお持ちです。御社は「国立劇場」や「NHKホール」といった日本を代表する空間をはじめ、全国津々浦々の音空間を長い間にわたり手がけてこられました。本日は取締役4名の方に話をうかがうのですが、それぞれ簡単に自己紹介を願ってよろしいでしょうか。ではまず大橋信明さん、お願いいたします。

大橋:私は「ヤマハ株式会社」からの出向で昨年の12月に赴任しまして、もうすぐ1年半になります。社内のスタッフ業務全般、経理、人事、総務、IT関連を担っている管理室を担当しています。

PS:ありがとうございます。次に西村岩夫さん。

西村:西村です。入社当時の会社名は「三精エンジニアリング」です。その後「ヤマハ」と縁があって「ヤマハサウンドテック」へ、さらに現在の「YSS」になるわけです。およそ35年の在籍で、技術部と品質管理部を担当しています。これらの部署は仕事の受注後、お客様と相談しながら製品を作り上げるシステム設計部門と施工管理、そして品質管理を行ないます。また建築にも関わってきますので、安全そして衛生といったところも担当します。

PS:ありがとうございます。では三田 隆さん、お願いいたします。

三田:私は「不二音響」へ1985年に入社しています。数えると34年ほどでしょうか。現在は受注前の営業業務の担当をしています。お客様から仕事を請け負うことに加え、ご提案を設計する部門。さらにお引き渡し後の保守・メンテナンス部門を見ています。施工、運用の先にゆくゆくは改修工事がやってきますので、営業と保守とは一体の組織にしています。その他では開発・生産、加えて工事の材料を調達する業務部門となります。

PS:ありがとうございました。では最後に代表取締役として昨年就任された武田信次郎さんにうかがいます。「ヤマハミュージックジャパン」のころからたいへんお世話になりました。

武田:今年4月の現時点でまだ就任1年に満たないのですが、マーケティング部の担当役員も兼ねています。現在これからの時代に見合う、またわれわれが目指したい指標に向かって組織変更を含めた改革を進めています。

「YSS」はなにを 「売る」会社なのか

PS:では、さまざまお聞かせいただいて「YSS」の全貌を明らかにしていきたいと思っています。それは「設備音響」という仕事自体、なかなか一般には目に触れることが少ない職種であると。一例ですと劇場に観客が通う頃には業務が完了していますね。そうした影のところにエネルギーを注ぐ、そこに興味が湧きます。ちなみに現在「YSS」に従事なさる人数はどのくらいになるのでしょうか。

大橋:現在は170名です。東京以外にも拠点を設けていまして仙台、大阪、名古屋、福岡となります。東京についてはこのビル以外にも近隣に事業所があります。

大橋 信明
大橋 信明

武田:ホール音響だけを専門に手がける組織では、世界でも有数の規模ではないかとあるメーカーの方から聞いたことがあります。

PS:では西村さん、「YSS」とはどのような仕事ができる会社なのでしょうか。ホール音響が専門といま話が出ましたが、ご担当されているテクニカルな切り口からはいかがでしょうか。

西村:そうですね。製品でいいますと、一般に市販していないようなものをオリジナルとして持っています。お客様が設備をどう使いたいのか、どのような音を出したいのかというディスカッションをはじめ、施設の平面図や立面図を見ながら方向性や可能性を探っていきます。われわれとしましては、製品を提供するのではなく、あくまで音を活かすベクトルを考え、観客のみなさんが音ではなく、演目に集中できること。それが最終目的です。そのことも技術と呼ぶのかどうかは分かりませんが、やはりオペレーターさんが使いやすいところから良い音環境は生まれると思っています。

PS:ありがとうございます。演目ではいくら良くても「音」が主張するようでは失敗ですね。三田さんは営業ということで、仕事を探し当てる(笑)役目ともいえるのですが。実際に訪問先やご提案などで「YSS」の「売り」はどのように捉えられているのでしょうか。

三田:全国、本当にたくさんのホールが存在していますが、同じ空間というのはひとつとして存在しません。その地の文化の一端を担っている大事な拠点です。その特徴を充分にうかがった上でのご提案があり、実際にそうしたことに対応する最適な工事。さらに保守で長い期間をご支援しながらのお付き合い、ここが弊社の謳い文句になると思います。

PS:私は日頃、育った地に存在する常設設備にはとても大事な役目があると思っています。子供の頃から機会ある毎に聞きますし、そうすると音に対する物差しができます。その役目を担うのが劇場やライヴハウスなどの設備。もし音響人生を歩く人が出てきた場合は、少なからず影響があるのではないでしょうか。

三田:ベーシックに保たなければならない品質というのは、われわれのなかの基準としてしっかりと存在します。知らず知らずに聞いていても、その時きちんと正しい音が常に聞こえる。当り前のようですが、音量も適度でノイズがなく、そういう当り前をキープする。われわれの使命でありベースになる大事なところかと考えます。

PS:武田さん、代表に就任されてまだ短いながら、新しい経営方針を掲げて会社を運営しておられます。状況を教えていただけますか。

武田:基本的に「音」のプロフェッショナル集団として仕事をさせていただいていると思っていますし、これからもそうありたい。音響機器という音を出す手段にこだわるのではなく、こだわるのはあくまでも「音」。建築業や工事業のように見えるかも知れませんが、「音響屋」として工事を行なっている、そうしたことを忘れずにいたいです。

PS:今、プロフェッショナルと言う言葉が出ましたが、武田さんがお考えになるプロとはどのようなものでしょうか。

武田:さまざまな定義があるとは思うのですが、弊社でいいますと納期は絶対に守る。品質は当然のこと、期待を超えて満足をいただくことに他ならないと考えています。

図面から始まる関係を いかに強い信頼へと導くか

PS:今回の取材の前に「YSS」のホームページを拝見してきたのですが、「いい音、いいサービス、いい人材をつくるNo.1サウンドカンパニーになる」とのトップメッセージでした。この最後の「いい人材をつくる」とは具体的にどういったことを指すのでしょうか。

武田:これは業態に大きな関係があるのですが、弊社の業態はお客様に注文いただいてから作る受注生産型ビジネスです。つくる工場そのものは現場になるのです。もう一点、例えば車であればショールームへ行って、乗って、触れそして購入ということが可能です。ところが弊社のような建設業では契約時に図面しかありません。当然実物に触れることもできません。そうしたなかでどうやって仕事をいただくか、それはもう信頼であり、組織の理念やそれに対する共感も信頼に繫がっていると思っています。信頼は期待以上の結果を見せ続けていくことでできあがるものですし、理念はいわば心意気。そこに共感していただき仕事として初めて成立します。すでに作ったものを倉庫から出して販売するのではなく、人そのものが案件に沿って見合った仕事をします。したがって人の品質に依存しているところが大きい。つまり「いい人材」をつくることがお客様への満足へと直結すると思います。

PS:西村さん、先ほどは勤続35年と仰っていましたが、これまで長くやってこられ「YSS」の企業スピリットや、武田さんからも「心意気」という言葉が出ました。どういった哲学でお持ちなのでしょうか。

西村:これは音響から少し離れるかもしれませんが、弊社がこれまで長くやってこられたのは、大きな事故がなかったからです。ホールや劇場は文化創造の施設になりますが、そこで公演に支障が出るようなことが起こるとこれは大きな問題です。社会的にも注目が集まりますし、そうしたことが起きないよう、まずは安全を一番大事にしています。お客様との会話のなかで、さまざまなリクエストを頂戴するのですが、安全を考えると踏み込めるときとそうでない時がやはりあります。難しい場合にはまた別の提案をして納得していただけるまで協議をします。また現場的には安全に予算をかけることでしょうか。そこに不安を残すとやはり何かが起きてしまいます。その点は手を抜くとしっぺ返しにあいますので最大限の注意を払います。

西村 岩夫
西村 岩夫

PS:大橋さんは総務という立場から「YSS」社を客観的にご覧になって、同社の特徴などお感じになりますか。

大橋:管理の側面から見ますと社員のみなはとても真面目ですし、決めたことをきっちりと守るところがあります。その分、変えることがむずかしいと感じる場合もあります。従来やってきたことの軌道修正を検討していくと抵抗感の風が吹くような印象があります。ただ決して頑固といった意味ではなく、西村が先ほど申しましたとおり、安全や品質に配慮するということでは、決められた手順に従って行なうことはとても重要です。そうした気持ちや行動が根付いていると述べるのが正確でしょうか。

PS:では納入実績について教えてください。これまでの歴史をふまえ武田さん、流れを教えてください。

武田 信次郎
武田 信次郎

武田:「YSS」になって良かった点として、ホームページにも記載があるのですが、「不二音響」はもともと「明治座」や「歌舞伎座」、「松竹座」という商業劇場に強かったのです。逆に「ヤマハサウンドテック」は一般的な市民会館、いわゆる多目的ホールが主たるところで特に新築に強みを発揮していました。それぞれに良い点を持った双方が一緒になり、この10年はそうした特徴が出ていると感じています。「東京芸術劇場」や「兵庫県立芸術文化センター」、「久留米シティプラザ」などでしょうか。また「京都会館(ロームシアター)」もガラリと変わって強く印象に残っています。

PS:どこも話題になった劇場ばかりですね。設備音響の業務もやはり「ものづくり」のひとつと言えるかと思うのですが武田さん、その時のこだわりというのでしょうか、信頼という言葉も出ましたが、わかりやすく「YSS」らしさといった点はいかがでしょうか。

武田:らしさ、って難しいですね。結局社員のみなに聞いても品質だと言うのです。ですからその点を評価いただいているかと思うのですが、まずは安全、次に品質といったところにこだわっています。ではその品質とはどういったものかと話しておくと、設計や施工の品質ということよりも、出た音そのものをお客様は評価します。お客様が本当に求める「音」、そこについてもう少し踏み込んで、満足度をさらに高めていきたいと考えています。

PS:やはりフォーカスの中心は「音」なのですね。

マンパワー集団の強み 今後「YSS」が目指すこと

PS:それでは最後に今後の展開というテーマのなかでも、みなさんの夢をぜひ聞いてみたいと思います。大橋さん、これからの夢を語ってください。

大橋:(笑)難しいですね。技術が進んでいけば、個人宅でも劇場と同じような環境で音を楽しむことができると思います。通信遅延の現象なども性能は上がってきますね。でも大勢が会することによってできるエンタテインメントは必ずあるはずで、自宅のような末端まで高い技術が普及したとしても、「集り」を意識したさまざまな技術を考えていくような必要があるように思います。

PS:集るというのはきわめて原始的で本能に近いことのように思います。ありがとうございます。では西村さん、いかがでしょうか。

西村:夢としては、先ほど大橋も言いましたが、皆が集まって一緒に感動に携わる会社を目指したい。現在もそうだとは思っているのですが、永続的にそれを続けたいですね。やはり音で人を幸せにする、それが一番だと強く感じます。

PS:継続、ということは本当に難しいことですね。三田さんはどのような夢を?

三田:設備工事といった観点では、適切な品質に対して適切な価格が認められ、事業を健康的に行なうための安定した予算の流れを確保したいところです。また別の視点ですが、今日は劇場の話に終始しましたが例えばスポーツ施設。これまで選手の交代やインタビューなど「アナウンスは聞き取れればそれでいい」といったところから、より観客に寄り添った演出に変わりつつあります。それには低域制御が関わっていて、感動には重要な要素のひとつ。こうした空間も良くなってほしいと感じます。

三田 隆
三田 隆

PS:私にも経験があります。良い演出だと興奮しますね(笑)では最後に武田さん、夢を語ってください。

武田: 少し話は逸れますが、前任だった宮𦚰精一氏(現、ゼンハイザージャパン代表)が、それは「熱い」人物で、私とは芸風(笑)がまったく違っていました。社員のパッションに火を付けるのがうまいのです。宮𦚰さんが火を付けておいてくれたおかげで、それを引き継いだ私が新経営方針「YSS2.0」という筋道を立てて、業務改革や風土改革を進めやすくなっていると感じます。「YSS2.0」の要諦は「不易流行」です。これは、残し伝えるべきものを残し、変えるべきものを変えるということです。これまで述べてきたように「YSS」ならではの良さは残しつつ、皆さまひとりひとりにとって特別な会社、もっともっと魅力ある会社にしていきたい、そして何より、音響設備に変化を起こしていきたい。それは、リーディングカンパニーの責務だと思っています。

PS:経営陣それぞれのコメントから「ヤマハサウンドシステム」が次の10年へと向かう信念を見たように思います。信頼と安全、さらなる音の高みを目指すプロフェッショナル集団であり続けること、そういった数々の心意気が「YSS2.0」の核になっているのですね。奇しくも令和時代の始まりと同じタイミングです。これらを踏まえて次回は実際に現場へと足を踏み入れ、若手のみなさんと話してきます。本日は長い時間、ありがとうございました。(以下次号)

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