愛知県芸術劇場 様 / 愛知県 /
Japan / Aichi September. 2019
名古屋の中心、栄にある「愛知芸術文化センター」。駅やバスターミナルと直結した交通至便なこの施設は、愛知県美術館、愛知県文化情報センター、そして愛知県芸術劇場という3つの文化施設で構成されています。このたびヤマハサウンドシステムは「愛知芸術文化センター」にある「愛知県芸術劇場」の音響設備、舞台連絡設備の改修工事を担当しました。改修のコンセプトや使い勝手などについて、管理運営されている公益財団法人 愛知県文化振興事業団 劇場運営部長 浅野芳夫氏、ホール支配人 家田沙緖里氏、音響責任者 佐々木道浩氏にお話をうかがいました。
● 最初に「愛知県芸術劇場」についてご紹介いただけますか。
浅野氏:
「愛知県芸術劇場」は、名古屋市の中心にあって非常に立地がよく、美術館も同じ建物の中に併設されているという珍しい施設です。当劇場は3つのホールを備えていますが、それぞれ特徴を持っています。大ホールは本格的なオペラやバレエ公演が上演可能な日本初のオペラハウスですし、コンサートホールは日本最大級のパイプオルガンを備えたクラシック専用ホールです。そして長方形で箱型ホールの小ホールは客席が移動式でジャンルにとらわれない自由で創造的な表現の場となっています。
● 3つのホールがそれぞれ強い個性を持っているんですね。
浅野氏:
そうなんです。こうした個性を持ったホールは運営するスタッフの側にはスキルが必要ですし、なによりホールが好きで、このホールをお客様に愛していただこうという気持ちがなければ、なかなか運営できません。「愛知県芸術劇場」はそういうところがよくできているホールだと自負しています。
● 今回の改修概要を教えてください
浅野氏:
1992年に開館し、24年が経過した2016年11月から2019年4月までの約2年半をかけて、小ホールからコンサートホール、そして大ホールと3つのホールを順次、大規模改修を行いました。この改修では、建築耐震工事とともに、空調、電気、そして舞台音響設備を含む舞台設備の更新をしました。改修費用は総額で約116億円ということで、かなり大きな費用をかけて改修させていただいたということに、愛知県の劇場に対する想いを感じます。改修にあたって、県側は我々劇場スタッフの意見を多くとり入れてくださいました。
家田氏:
県の担当者は舞台専門的な内容でも「おまかせ」ではなく、私たち施設運用者の意見に耳を傾け、的確な判断をしてくださいました。大がかりな改修でしたが、そんな協力もあって非常にスムーズに進められたと思っています。
● 音響システムの更新に関してはどんな狙いがあったのでしょうか。
浅野氏:
本来はお客様に迷惑をかける前に機材を更新していくのが理想だと思いますが、予算の問題でなかなか思うように進められず、古い機材を使い続けることになって、スタッフには非常に苦労をかけていました。なので、まず老朽化した機材を更新することが一番の狙いでした。
佐々木氏:
そうなんです。中にはオープン当初から使っている機材もありましたね。これらの機材は24年以上も使っていることになります。音響システムの電源を起動するだけでもたいへん時間がかかりましたし、いつ音が出なくなっても不思議ではない状態で心配でした。
コンサートホールは明瞭性を高めるラインアレイスピーカーを設置
● コンサートホールでは、どんな問題があったのでしょうか。
浅野氏:
コンサートホールにおける最大の問題は、アナウンスなどが聴こえにくい、ということでした。コンサートホールは生音が良く響くように設計されているので、アナウンスや舞台上のスピーチを拡声した場合の明瞭性がよくなかったんです。最近は解説付きのコンサートも多く、スピーチが明瞭に聴こえることも求められるようになりました。
佐々木氏:
改修前のスピーカーは、天井から吊り下げられたシャンデリアに付けられていました。ここはクラシック専用ホールでよく響くため、高いところに吊ったスピーカーから音を出したら、響いて聴こえづらくなってしまいます。
家田氏:
コンサートホールへ来場されるお客様の中には、音響への評価が非常にシビアな方もいらっしゃいまして「アナウンスの声が聴きづらい」というご意見をいただくこともありました。
● それをどのように解消したのでしょうか。
佐々木氏:
反響が少なくなるようにラインアレイスピーカーd&b audiotechnik 「T10」を、メインスピーカーとしてパイプオルガンの両サイドに設置しました。
浅野氏:
コンサートホールで露出したスピーカー設置すると、お客さまから「生音のコンサートを聴きに来ているのに、なんでスピーカーがあるのか」と意匠的にマッチしていない点を指摘される懸念がありました。なので、設計事務所の方にお願いして、スピーカーむき出しではなく、目立たない柱のようなスピーカーボックスをデザインしてもらい、その中にスピーカーを格納しました。
● 明瞭性はよくなりましたか。
浅野氏:
工事前にラインアレイスピーカーd&b audiotechnik 「T10」をここで仮組みして試聴をしていたので、明瞭性がよくなると確信していました。それでも、実際に現場が完成したときは、ちょっと見た目の変化にビックリしました。結構巨大な柱(スピーカーボックス)が2本立ったわけですから(笑)。ところがリニューアルオープンしたところ、評価の厳しいクラシックのお客さまからも「あれはなんだ」という指摘が一度もないんです。デザインがすごくよくできていて「最初からあった?」というくらいによく馴染んでいます。
家田氏:
コンサートホールには以前からずっと通っていただいているお客様がいらっしゃいます。そういう方は改修前と改修後の違いをよくわかっていらっしゃいます。改修をしてから、聴こえにくいとのご意見をいただくことはなくなりました。むしろ以前厳しく言われていた方から「音が良くなったね」とお褒めをいただきました。
佐々木氏:
パイプオルガン横のラインアレイスピーカーの他に、巨大な柱のすぐ下の隙間に、2階席向け補助としてコラムスピーカーd&b audiotechnik 「24C」「16C」も設置しています。こちらは目立たないように建築に合わせた色に特別に塗ってもらっています。また3階席向けには後部補助スピーカーd&b audiotechnik 「Ti10L」を照明用のバトンに吊ってあります。こちらも目立たないように白いものを使っています。
大ホールではデジタルミキシングシステムヤマハ「RIVAGE PM10」と
デジタルオーディオネットワークDanteによるデジタルオーディオネットワークを構築
● つぎに大ホールについてお聞かせください。
浅野氏:
大ホールはオープン時にはオペラやミュージカルの上演を主な用途としていましたが、最近はポップスなどでも使われるようになっています。当初の想定より広い用途でお使いいただいていますが、ここはまず老朽化した機材の更新、そしてデジタルオーディオネットワークを構築することが狙いでした。
家田氏:
貸し館の時は機材が持ち込まれますが、自主公演の場合、手持ちの機材ではスペックが足りていないことが多く、照明も含めてですが、大量に機材を業者さんから借りていました。
浅野氏:
とにかく自前の公演で機材を借りる量が半端じゃなかった。これを何とかしたいと思っていました。
● 改修前はアナログのシステムだったのでしょうか。
佐々木氏:
デジタル機器ではあったもののシステムとしては、ほぼアナログで接続する形でした。今は、デジタル伝送が当たり前になっており、県内で一番大きい劇場でもありますので、やはりデジタル化は必須だろうということで、音響調整卓にはヤマハ「RIVAGE PM10」を導入しました。また舞台袖、音響調整室、アンプ室間をDanteによるオーディオネットワークを構築しています。Danteについては拡張性や接続性の面で最適だと判断しました。
● マトリクスコントローラーHYFAX「LDM1」を導入されていますが、これはどんな用途でしょうか。
佐々木氏:
音響調整卓のあとの出力において各スピーカーへの音の分配と音量調整を行っています。大ホールは乗り込みの方も多いので、ホールにあるスピーカーへのアサインに対する細かい要望に対応できるよう、全部のスピーカー系統を「LDM1」で制御できるようにしています。
以前は、各スピーカー出力に関して「ここからここまでは一つの系統だからまとめてオン/オフしかできません」といった制約が多かったのですが、改修後はスピーカーごとに音源も振り分けられますし、レベル調整も個々に行えるようになりました。乗り込みのPAの方から「ここはもっと下げてほしい」「ここは切ってほしい」という細かいオーダーが出ても瞬時に対応できるようになりました。
音場支援システムヤマハ「AFC」を採用し、演目によって残響を自由に変更できる小ホール
● 小ホールについてはいかがでしょうか。
浅野氏:
小ホールはもともと実験劇場というコンセプトですが、我々の想像を超える発想でのご利用もありますし、ピアノの発表会やコンサートのような音楽イベントでも使われるなど、非常に多目的に使われています。今回の改修では音楽用途で音場支援するヤマハ「AFC」を導入したところがポイントです。
● 音場支援システムヤマハ「AFC」を導入したのはどうしてですか。
佐々木氏:
もともとこの小ホールは響きが少ないデッドな空間です。演劇やトークショーなどの催しでは最適なのですが、音楽系の催しもので使うにはやや響きが少なかったんです。そこでヤマハ「AFC」を導入したことで音楽用途に適した響きが付加できるようになって、特にピアノの発表会などでは大変喜ばれています。個人的には電気的な仕組みで響きを加えると不自然じゃないかなと懸念していましたが、使ってみたら自然な響きで驚きました。お客さまからも大変評判がいいので、導入して良かったと思っています。
● スピーカーとしてはどんなものが用意されているのでしょうか。
佐々木氏:
メインスピーカーはd&b audiotechnik「10S-D」を場内の両サイドに設置しています。さらに客席を取り囲むよう2階ギャラリーに移動型のウォールスピーカーNEXO「PS8U」を用意しています。
ヤマハサウンドシステムはレスポンスが迅速で確実。今後の関係構築に期待
● 大規模改修ではヤマハサウンドシステムが施工を担当させていただきました。最後に感想などをお聞かせください。
浅野氏:
工事の時は、私どもから結構なご無理を申し上げていて、たとえば小ホールのヤマハ「AFC」では使いやすいようにリモートコントローラーを追加いただきました。そのあたりも含めて、柔軟にご対応いただいたと思います。
佐々木氏:
私が以前に在籍していたホールでも音響設備はヤマハサウンドシステムさんが担当されていて、その時もすごく対応が良かったので今回も安心していました。今回の改修でも、実際に工事が動き始めてから仕様変更したい点が出てくることもあったわけですが「こうすればできますよ」と前向きな提案をいただきました。こちらが言う無理も結構きいていただき、ストレスなく進められたと思います。
家田氏:
私は実務レベルでヤマハサウンドシステムさんと常にやりとりをさせていただきましたが、レスポンスが確実で早く、助かりました。レスポンスは基本的に当日か翌日ですし、即座に判断がつきかねる場合もその旨連絡をもらえたので、やりとりがスムーズでした。また改修工事が足かけ3年と長期間にわたっていて小ホール、コンサートホール、大ホール、リハーサル室と工事期間も段階的に重なっていたので、ときおり混乱したこともありましたが、ヤマハサウンドシステムさんがきちんと状況を整理してくださっていたので、非常に助かりました。
● ヤマハサウンドシステムによる保守はこれからということになりますが、ご要望などがあればお聞かせください。
浅野氏:
ホールの保守は、どのメーカーだからということではなく、結局は「人」だと思うんです。私たちはユーザーで、ヤマハサウンドシステムさんはこのホールの保守をご担当いただく会社なわけですから、そこにはいろいろな摩擦は絶対あると思うんです。でも、ホールに関わる人間同士だからこそわかり合える、お互いの「熱いハート」って言うんですかね、そこに期待をしつつ、今後のお付き合いを楽しみにしています。
● 本日は、ご多忙の中ありがとうございました。
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